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第一章 『誰が為の異世界』
02 『婆>姉>僕』
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「おばあちゃんから聞いたよー、ミヤあんた新しい本を読みたいがためにアパン語を覚えるんでしょ? 」
「そうだよっ……おばあちゃんもせっかく約束してくれたんだし、期待には応えなくちゃっ……ね」
「あんたも物好きだねー、昔は私もミヤみたいに教えて貰ってたけど、私はあんな小難しい内容を覚えたりするのがどうにも肌に合わなかったもんだから、どうしてもこっちに身が入ってしまうんだよなぁ」
「けれどっ……男の僕なんかより断然凄いんだからっ……僕は羨ましいよっ……」
「そりゃあそうさ、なんてたって積み上げてきた時間が違うんだから! こちとら恋や遊びに現を抜かさず暇な時にはこれに触れてるからねー、あんたも好きな物には私ぐらい一途になるんだよ?」
「わかったよっ……それとさっ……もし良かったら今度誕生祭を乗り切る方法教えてよ」
「任せときな! このサシャお姉ちゃんが直々に教えて進ぜよう!」
「ありがとうっ……それはそうとサシャお姉ちゃん!」
「ん? どした?」
最終手段として少しばかり語気を荒げても、サシャお姉ちゃんにその意図は届いていないようである。
実は世間話を交えた言葉を返すたびに、僕はサシャ姉に恨みがましい視線を送っているものの、どうやらそれらを全く意に介していないようであったため、先程から抱いていた不満をぶつけることにした。
「荷物の搬入!手伝ってよ!」
「あー……今休憩中だから遠慮しておくわ……頑張れ!」
「思いっきり木刀振ってるじゃん! 稽古中じゃん!」
こうして僕と会話しながらもサシャ姉は日課の一つである素振りを続けている。
おかげで馬車の荷台に詰め込んでいた荷物は未だに半分も新しい僕等の家へと運び終えていない……。
「これサシャ! あんたも手伝いなさい!」
そこで現れるは集落一の武闘派サシャ姉の天敵であり。
僕ら姉弟の良き理解者であり、大事な家族だ。
「げげっ‼ おばあちゃん!」
そこには左手で杖を携えながらゆっくりと新居から姿を現すアルナおばあちゃんの姿があった。
「げげとはなんだいげげとは……まったくミヤだけに仕事をやらせておいて、恥ずかしくないのかい」
「いやー、こんなに快晴な日に特訓しないっていうのはなんだか勿体なくてさー」
真上を指差すサシャ姉につられて空を見上げると、一切の雲も存在しない透き通るような青空が広がっていた。
「晴れていようが曇っていようが、仕事を手伝わない理由にはならないよ」
「もうちょっとだけ! もうちょっとだけだからさ!」
尚も食い下がるサシャ姉に溜息をこぼしながら、おばあちゃんは聞き分けの無い子供を叱るべく強硬手段に打って出た。
「文句を言わないで、手伝ってあげなさい……さもないと……」
「ちょっと! 魔法は駄目だって危ないって! 木刀燃えちゃうよ!」
慌てるサシャ姉の元へ、おばあちゃんは眉間に皺を寄せながら右手に持つ赤い結晶核を掲げる。
これは大変だ。
「我の名前はアルナ、汝が身を焦がさんとする相手来たれり。赤き力よ、炎を――」
詠唱に呼応するかのように結晶核の赤色が次第に純度を増す。
アルナおばあちゃんの魔法詠唱が始まるや否や、これは分が悪いと判断したのかサシャ姉は深々と頭を下げたのち、
「降参です!ちゃんと手伝いますから!」
「はぁ……分かればいいんだよ、別に稽古そのものを金輪際やめろとは言ってないんだ、二人で協力してさっさと仕事を片付けなさい」
サシャ姉の行動もお見通しだったのだろう、詠唱をしていたもののどうやら魔法を発動する気は無かったようで、詠唱を中断し結晶核を懐にしまい込んだアルナおばあちゃんは踵を返し、キーチェの毛皮で作られた暖簾を空いた右手で払いのけ部屋の中に消えてしまった。
「…………」
「…………」
後に残されるは冷や汗をかきばつの悪い様子のサシャ姉と、あまりお目に掛かることのない神秘的な光景にただただ目を奪われていた少年だけだった。
ケルザの集落。
アーク大陸の南東に位置する僕達無何有族が拠点とする集落の一つだ。
僕が今までに見てきた拠点の中で、その規模は大きな部類であり、家屋の数は数十件にも及ぶ。
ケルザの集落付近にぽつぽつと自生する樹木を倒して切ることで得られる、貴重な木材を柱とした家屋は使用している木材の数そのものは少ないものの、その丈夫さから柱が倒壊する心配はないとのこと。
壁は土と僕らが飼育しているキーチェの毛皮を混ぜ合わせて出来た土壁であり、木材程の頑丈さは無いがこの壁が広大な草原における数少ない遮蔽物になっているおかげで、僕らは眠る時も冷たい風に晒されずに済んでいる。
僕ら家族も行動を共にする部族の人数が、大体三十ぐらいであることを踏まえても、使用しない家屋がいくつか残ることだろう。
数百年前、無何有族はレトナ王国を建国したとされる。
元々遊牧民族であるはずの無何有族は王国建国によって、その役目を終え、王国に繁栄を築いていった。
けれども、今の僕等の様に同じ土地に定住することなく大陸東部を移り住むことに拘った者達もいた――、それが僕たちのご先祖様だ。
ここ、ケルザの集落もかつて無何有族が旅の中で開拓したとされる幾つもある拠点の一つであり。
こうしたアーク大陸東部の各地に点々と存在する集落を、僕等は転々と移り住んで生活していた。
「それにしてもさ……」
「んー?」
おばあちゃんの圧力に屈し、僕と一緒に荷物の搬入を渋々手伝うことになったサシャ姉は現在大きな樽を担ぎながら、溢れるほどの小物を両手に収めている僕と並んで歩いている。
そんな状態の姉に兼ねてから抱いていた疑問をぶつけてみた。
「どうして、僕等はこんな生活してるのかなーって、思ってさ」
小さい頃から当たり前だった移住生活。
各地の拠点を転々と移動して生活するこの暮らし方に、僕は色々疑問を持つようになった。
各地に存在する拠点を渡り歩くことはいくら視界を遮るものが無いからって並大抵のことではない。
そして、それはあくまでも拠点だったものに過ぎないのだ。
僕等が移動する度に手放していくことになる拠点は、別の無何有族が訪れるまで一切手つかずのまま放置されることになる。
それは、たとえ足首ぐらいまでの高さの雑草が生い茂る、緑豊かな草原が彼方まで広がり続けているアーク大陸東部においても例外ではなく、日々絶えず変化している天候は容赦なく簡素な木製の家々に風雨を浴びせている。
それに僕らの生活が自然と共存している以上、そこには僕達と同じように野生の動物も生息している。
到着した集落がそれらによって荒らされていることなんて珍しいことでもなかった。
つまり、今回の様に一から復興するのは途方も無い労力を消費してしまうのだ。
それならば王都付近に定住してしまえば良いんじゃないかって。
「んー、それはあれだろ?」
サシャ姉は担いでいた樽を家屋の玄関の脇に置き、即答した。
「キーチェの餌の確保」
「それはそうなんだけど……」
確かに僕らの生活には移動手段の一つでありながら、貴重な食料源でもあり、布を作る為にも必要なキーチェの存在は欠かせない。
キーチェの餌となる雑草はアーク大陸東部にいくらでも生えているアビノギ草というものであり、正直見つからない方が不思議であると僕らに言わしめる程、馴染み深いものだ。
しかしながらこのキーチェという動物、その大きさに違わず食欲旺盛な生き物だったりする。
一か所の土地に定住しようものなら、数十日も過ぎれば一帯のアビノギ草が根絶やしにされてしまう。
従ってキーチェとの密接な繋がりを保つ為に、こうして移動型の生活を余儀なくされているという訳だ。
けれども王都はもっともっと人も多いはずなのに、その問題を解決していたりするので不思議だったり。
「まぁそれとあれかな、今までの慣習ってやつもやっぱりあると思うな」
「昔の名残ってこと?」
「そう、それだ」
僕の言葉にサシャ姉は胸元で腕を組みながら、うんうんと頷く。
「私たちのご先祖様が王国を離れ、わざわざこういった生き方を選んだってことはさ、キーチェの餌の問題もあるように、ちゃんと意味があることなんじゃないかって思うんだよね」
「…………」
僕に次の言葉を喋る時間を与えてくれた上で続きを話す。
「その意味を知ってる……かどうかは分からないけれど、私たちの家族や仲間もその意味が大事なことってことを何も言わなくとも感じ取っているのさ、だからずっと続いている」
「そういうもんなのかな」
僕の納得していない気持ちを察してくれたのか。
サシャ姉は笑顔で僕の頭をガシガシと乱暴に撫でてくる。
「そういうもんさ、まだ子供のあんたには難しいかもね」
「姉ちゃんと四つしか年離れてないけどね」
「四つも離れてるのさ」
僕の精一杯の皮肉にもサシャ姉は待ってましたと言わんばかりに笑顔で受け応えた。
やっぱりサシャ姉には敵いっこない。姉は偉大だ。
「それにこうして各地を渡り歩くことで、色々な物を見れるし、色々なものと戦えるってのは大きいさ」
「戦いかぁ……」
自分が勇敢に戦っている姿を想像してみる。
自身の体力では魔物を追いかけること叶わず、どこにでもいるモームに逃げられる姿。
自身の腕力では木刀を上手く振るえず、樹木の怪物ブルクの大きな腕に薙ぎ払われる姿……。
どういうわけかあまり見栄えの良い光景が浮かんで来ない……。
「いつまた昔みたいに戦いが起こるか分からないんだ、自衛の手段が他人任せじゃ心細いだろ?」
「うぅ……僕も頑張るよ」
戦闘はからっきしの僕にとって実に耳が痛い話である。
だが、国同士の自他共に公認された大規模な衝突は発生していなくとも、他種族との小競り合いは今でも起きていると聞いたことがある。
僕らもそれにいつ巻き込まれるかは分からないのだ、たとえレトナ王国の庇護下であろうとも。
「それにミヤはもうすぐ誕生祭だろう? 久しぶりに帰ってくる親父に成長した姿、見せたいんだろう?」
「うん……!」
「それじゃあまずは稽古だな! さっさと片付け終わらせないとな! はい急げー!」
どこにそんな体力があるのか、サシャ姉は短く切った赤髪を揺らしながら、馬車の方へと走って行った。
なんだか稽古に上手く誘導された気がするのは気のせいだろうか。
それでも来たる誕生祭の為に一刻も早く準備をしないといけない。
なんていたって久しぶりに父さんに会えるのだから。
成長した僕の姿を見て貰いたかった。
僕は期待に胸を膨らませながら、大きな寝具を必死の形相で担ぎ上げようとしているサシャ姉を手伝うべく急いでその元へ向かうのだった。
「そうだよっ……おばあちゃんもせっかく約束してくれたんだし、期待には応えなくちゃっ……ね」
「あんたも物好きだねー、昔は私もミヤみたいに教えて貰ってたけど、私はあんな小難しい内容を覚えたりするのがどうにも肌に合わなかったもんだから、どうしてもこっちに身が入ってしまうんだよなぁ」
「けれどっ……男の僕なんかより断然凄いんだからっ……僕は羨ましいよっ……」
「そりゃあそうさ、なんてたって積み上げてきた時間が違うんだから! こちとら恋や遊びに現を抜かさず暇な時にはこれに触れてるからねー、あんたも好きな物には私ぐらい一途になるんだよ?」
「わかったよっ……それとさっ……もし良かったら今度誕生祭を乗り切る方法教えてよ」
「任せときな! このサシャお姉ちゃんが直々に教えて進ぜよう!」
「ありがとうっ……それはそうとサシャお姉ちゃん!」
「ん? どした?」
最終手段として少しばかり語気を荒げても、サシャお姉ちゃんにその意図は届いていないようである。
実は世間話を交えた言葉を返すたびに、僕はサシャ姉に恨みがましい視線を送っているものの、どうやらそれらを全く意に介していないようであったため、先程から抱いていた不満をぶつけることにした。
「荷物の搬入!手伝ってよ!」
「あー……今休憩中だから遠慮しておくわ……頑張れ!」
「思いっきり木刀振ってるじゃん! 稽古中じゃん!」
こうして僕と会話しながらもサシャ姉は日課の一つである素振りを続けている。
おかげで馬車の荷台に詰め込んでいた荷物は未だに半分も新しい僕等の家へと運び終えていない……。
「これサシャ! あんたも手伝いなさい!」
そこで現れるは集落一の武闘派サシャ姉の天敵であり。
僕ら姉弟の良き理解者であり、大事な家族だ。
「げげっ‼ おばあちゃん!」
そこには左手で杖を携えながらゆっくりと新居から姿を現すアルナおばあちゃんの姿があった。
「げげとはなんだいげげとは……まったくミヤだけに仕事をやらせておいて、恥ずかしくないのかい」
「いやー、こんなに快晴な日に特訓しないっていうのはなんだか勿体なくてさー」
真上を指差すサシャ姉につられて空を見上げると、一切の雲も存在しない透き通るような青空が広がっていた。
「晴れていようが曇っていようが、仕事を手伝わない理由にはならないよ」
「もうちょっとだけ! もうちょっとだけだからさ!」
尚も食い下がるサシャ姉に溜息をこぼしながら、おばあちゃんは聞き分けの無い子供を叱るべく強硬手段に打って出た。
「文句を言わないで、手伝ってあげなさい……さもないと……」
「ちょっと! 魔法は駄目だって危ないって! 木刀燃えちゃうよ!」
慌てるサシャ姉の元へ、おばあちゃんは眉間に皺を寄せながら右手に持つ赤い結晶核を掲げる。
これは大変だ。
「我の名前はアルナ、汝が身を焦がさんとする相手来たれり。赤き力よ、炎を――」
詠唱に呼応するかのように結晶核の赤色が次第に純度を増す。
アルナおばあちゃんの魔法詠唱が始まるや否や、これは分が悪いと判断したのかサシャ姉は深々と頭を下げたのち、
「降参です!ちゃんと手伝いますから!」
「はぁ……分かればいいんだよ、別に稽古そのものを金輪際やめろとは言ってないんだ、二人で協力してさっさと仕事を片付けなさい」
サシャ姉の行動もお見通しだったのだろう、詠唱をしていたもののどうやら魔法を発動する気は無かったようで、詠唱を中断し結晶核を懐にしまい込んだアルナおばあちゃんは踵を返し、キーチェの毛皮で作られた暖簾を空いた右手で払いのけ部屋の中に消えてしまった。
「…………」
「…………」
後に残されるは冷や汗をかきばつの悪い様子のサシャ姉と、あまりお目に掛かることのない神秘的な光景にただただ目を奪われていた少年だけだった。
ケルザの集落。
アーク大陸の南東に位置する僕達無何有族が拠点とする集落の一つだ。
僕が今までに見てきた拠点の中で、その規模は大きな部類であり、家屋の数は数十件にも及ぶ。
ケルザの集落付近にぽつぽつと自生する樹木を倒して切ることで得られる、貴重な木材を柱とした家屋は使用している木材の数そのものは少ないものの、その丈夫さから柱が倒壊する心配はないとのこと。
壁は土と僕らが飼育しているキーチェの毛皮を混ぜ合わせて出来た土壁であり、木材程の頑丈さは無いがこの壁が広大な草原における数少ない遮蔽物になっているおかげで、僕らは眠る時も冷たい風に晒されずに済んでいる。
僕ら家族も行動を共にする部族の人数が、大体三十ぐらいであることを踏まえても、使用しない家屋がいくつか残ることだろう。
数百年前、無何有族はレトナ王国を建国したとされる。
元々遊牧民族であるはずの無何有族は王国建国によって、その役目を終え、王国に繁栄を築いていった。
けれども、今の僕等の様に同じ土地に定住することなく大陸東部を移り住むことに拘った者達もいた――、それが僕たちのご先祖様だ。
ここ、ケルザの集落もかつて無何有族が旅の中で開拓したとされる幾つもある拠点の一つであり。
こうしたアーク大陸東部の各地に点々と存在する集落を、僕等は転々と移り住んで生活していた。
「それにしてもさ……」
「んー?」
おばあちゃんの圧力に屈し、僕と一緒に荷物の搬入を渋々手伝うことになったサシャ姉は現在大きな樽を担ぎながら、溢れるほどの小物を両手に収めている僕と並んで歩いている。
そんな状態の姉に兼ねてから抱いていた疑問をぶつけてみた。
「どうして、僕等はこんな生活してるのかなーって、思ってさ」
小さい頃から当たり前だった移住生活。
各地の拠点を転々と移動して生活するこの暮らし方に、僕は色々疑問を持つようになった。
各地に存在する拠点を渡り歩くことはいくら視界を遮るものが無いからって並大抵のことではない。
そして、それはあくまでも拠点だったものに過ぎないのだ。
僕等が移動する度に手放していくことになる拠点は、別の無何有族が訪れるまで一切手つかずのまま放置されることになる。
それは、たとえ足首ぐらいまでの高さの雑草が生い茂る、緑豊かな草原が彼方まで広がり続けているアーク大陸東部においても例外ではなく、日々絶えず変化している天候は容赦なく簡素な木製の家々に風雨を浴びせている。
それに僕らの生活が自然と共存している以上、そこには僕達と同じように野生の動物も生息している。
到着した集落がそれらによって荒らされていることなんて珍しいことでもなかった。
つまり、今回の様に一から復興するのは途方も無い労力を消費してしまうのだ。
それならば王都付近に定住してしまえば良いんじゃないかって。
「んー、それはあれだろ?」
サシャ姉は担いでいた樽を家屋の玄関の脇に置き、即答した。
「キーチェの餌の確保」
「それはそうなんだけど……」
確かに僕らの生活には移動手段の一つでありながら、貴重な食料源でもあり、布を作る為にも必要なキーチェの存在は欠かせない。
キーチェの餌となる雑草はアーク大陸東部にいくらでも生えているアビノギ草というものであり、正直見つからない方が不思議であると僕らに言わしめる程、馴染み深いものだ。
しかしながらこのキーチェという動物、その大きさに違わず食欲旺盛な生き物だったりする。
一か所の土地に定住しようものなら、数十日も過ぎれば一帯のアビノギ草が根絶やしにされてしまう。
従ってキーチェとの密接な繋がりを保つ為に、こうして移動型の生活を余儀なくされているという訳だ。
けれども王都はもっともっと人も多いはずなのに、その問題を解決していたりするので不思議だったり。
「まぁそれとあれかな、今までの慣習ってやつもやっぱりあると思うな」
「昔の名残ってこと?」
「そう、それだ」
僕の言葉にサシャ姉は胸元で腕を組みながら、うんうんと頷く。
「私たちのご先祖様が王国を離れ、わざわざこういった生き方を選んだってことはさ、キーチェの餌の問題もあるように、ちゃんと意味があることなんじゃないかって思うんだよね」
「…………」
僕に次の言葉を喋る時間を与えてくれた上で続きを話す。
「その意味を知ってる……かどうかは分からないけれど、私たちの家族や仲間もその意味が大事なことってことを何も言わなくとも感じ取っているのさ、だからずっと続いている」
「そういうもんなのかな」
僕の納得していない気持ちを察してくれたのか。
サシャ姉は笑顔で僕の頭をガシガシと乱暴に撫でてくる。
「そういうもんさ、まだ子供のあんたには難しいかもね」
「姉ちゃんと四つしか年離れてないけどね」
「四つも離れてるのさ」
僕の精一杯の皮肉にもサシャ姉は待ってましたと言わんばかりに笑顔で受け応えた。
やっぱりサシャ姉には敵いっこない。姉は偉大だ。
「それにこうして各地を渡り歩くことで、色々な物を見れるし、色々なものと戦えるってのは大きいさ」
「戦いかぁ……」
自分が勇敢に戦っている姿を想像してみる。
自身の体力では魔物を追いかけること叶わず、どこにでもいるモームに逃げられる姿。
自身の腕力では木刀を上手く振るえず、樹木の怪物ブルクの大きな腕に薙ぎ払われる姿……。
どういうわけかあまり見栄えの良い光景が浮かんで来ない……。
「いつまた昔みたいに戦いが起こるか分からないんだ、自衛の手段が他人任せじゃ心細いだろ?」
「うぅ……僕も頑張るよ」
戦闘はからっきしの僕にとって実に耳が痛い話である。
だが、国同士の自他共に公認された大規模な衝突は発生していなくとも、他種族との小競り合いは今でも起きていると聞いたことがある。
僕らもそれにいつ巻き込まれるかは分からないのだ、たとえレトナ王国の庇護下であろうとも。
「それにミヤはもうすぐ誕生祭だろう? 久しぶりに帰ってくる親父に成長した姿、見せたいんだろう?」
「うん……!」
「それじゃあまずは稽古だな! さっさと片付け終わらせないとな! はい急げー!」
どこにそんな体力があるのか、サシャ姉は短く切った赤髪を揺らしながら、馬車の方へと走って行った。
なんだか稽古に上手く誘導された気がするのは気のせいだろうか。
それでも来たる誕生祭の為に一刻も早く準備をしないといけない。
なんていたって久しぶりに父さんに会えるのだから。
成長した僕の姿を見て貰いたかった。
僕は期待に胸を膨らませながら、大きな寝具を必死の形相で担ぎ上げようとしているサシャ姉を手伝うべく急いでその元へ向かうのだった。
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