僕の異世界、私の世界~アーク大陸冒険起譚~

まるふじ らん

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第一章 『誰が為の異世界』

03 『恋と憧れは似て非なるものなり』

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場所は変わって僕らの家。

「二人ともよく頑張ってくれたね、ごくろうさん」

 馬車に積まれていた寝具やら机やらの、ありとあらゆる生活用品を運び終えた僕らはアルナおばあちゃんからねぎらいの言葉を貰っていた。
 ありとあらゆるとは言ったものの、移動型の生活を送る僕らが携帯する所持品の数は、恐らく王都などに住む定住型の生活を営む人たちよりもずっと少ない。
 室内を彩る装飾品のような、あっても無くても生活に影響を及ぼさない物は基本的に持ち運ばない、これは運搬を任されるキーチェの負担を軽減する為に必要なことだった。

「なんのなんの!思いのほか身体も鍛えれたことだし!」
「……ほんとお前さんは筋肉馬鹿だねぇ、ミヤもありがとうね、これなんか重かっただろう?」
「僕は別に大したことはしてないよ、これだって『鍛錬の為だー』って言って、ほとんどサシャ姉が担いで持って行ったんだ」
「ミヤとサシャ、血を分けた姉弟なのにどうしてこうも違うのかねぇ……」

 僕ら姉弟を交互に見比べてしみじみと呟くおばあちゃん。
 僕はサシャ姉の身体を鍛える結果となった物を見つめる。
 おばあちゃんが言う『これ』っていうのは大きな寝台のことだ。それも三つ。
 この寝具は先行してケルザの拠点に到着していたサシャ姉の荷台に予め積まれていたものだ。
 本来ならば僕らが乗る荷台にも人数分の寝台を乗せるのだが、今回の旅の移動時間が少ないことを把握していた僕等は、拠点に住み着くモーム退治を引き受けたサシャ姉に、新居への引っ越しを円滑に進めるべく寝台の運び出しをお願いしていた。
 しかしながら頼みごとを『鍛錬になるじゃない』と快く了承していた当の本人は、モーム退治を終えるとそんなことも忘れて日課の鍛錬をしていたらしいけれど。

「サシャ、弟想いなことは分かるけれどあんまりミヤを甘やかすんじゃないよ? この子だって立派な男の子、それももうじき大人になる人間なんだ」
「分かってるよおばあちゃん、だからこその訓練なんでしょ」

 弟想いであることを告げられ微かに頬を染めるサシャ姉は腰に携えている木刀の柄の部分をそっと撫でている。

「よし!それじゃあミヤ!早速木刀を使った対魔物訓練を――」
「ミヤ、着いて早々荷物の運搬でまだ皆に挨拶もしてないだろう、行ってきなさい」
「やっぱり夜にしよう!うんそうしょう!」
「う、うん」


 好機を伺っていたサシャ姉はここぞとばかりに訓練の提案を行うも、おばあちゃんのご意向に逆らうことは出来ず、僕らの特訓は夜に行われることになった。
 別段これと言って不服を唱えることも無かったサシャ姉だけど、腰に携えている木刀を抜き出し、素振りしながら「素振りに行ってきます」と言い放つその姿から想像するにとても不機嫌でいらっしゃる。
 今日の訓練は大変そうだ……。

「それとミヤ、挨拶回りが済んだら家に帰ってきなさい、今日はじっくりとアパン語を勉強しようじゃないか」
 おばあちゃんの眼光がまるで獲物を狙うモームのように鋭く光ったような錯覚を覚えた。
 今日の勉強もやっぱり大変そうだ……。

 真上を見上げると燦々と輝く太陽が視界一杯に広がる。そんなある晴れたお昼時。
 おばあちゃんの目を合わせた人を射竦めるような眼光から解放された僕は、早速このケルザの集落を散策することにした。
 散策といってもこのケルザの集落は、以前まで僕らが身を寄せていたユフテの集落よりも比較的小規模な拠点であるため、集落全てを歩き回るのにもそれほど時間はかからないだろうと思う。
 どうやら僕らが住む家と何ら遜色ない外見をしている周囲の家々も、同様に引っ越し作業を終えたようで、ついさっきまではあちらこちらに荷台を装着していたキーチェがうろついていたのに、今では集落を取り囲む木製の柵付近で呑気に草を頬張っていた。

「(さてどこに行こうかな)」

 そう思いながら辺りに誰かいないかと周囲を見回すと

「せいっ‼ やぁ‼ ここで!短剣に!持ち替えてっと!」

 相も変わらず自身で製作した木人相手に何やら新しい戦闘方法を試しているサシャ姉――

「やっぱりサシャの姉御はいつ見ても綺麗っすね……特にあのおいら特製の短剣を振るうあの姿! あれで惚れなきゃ男がすたるってもんですよ!」
「いやいやリンボ! あの凛々しい姿に惚れるってのは至極同感っすけど、それはおいらが丹精込めて削って作り上げた木刀を構えるからこそ表現されているんすよ! 短剣なんてお飾りっすね」
「なにおう! 『この短剣は良い出来だね』って姉御は褒めてくれたんすよ! 馬鹿にするのは駄目っすよ!」
「ずるいっすよリンボ!姉御に褒めて貰えるなんて!ずるいっす!」


 ――を遠巻きからこそこそと眺めているリンボとルンボの姿を見つけた。

「何してるのさ、二人共こんなところで」
「姉御の弟‼」

 余程驚いたのか、2人共それまでのひそひそ声から一転して普段の会話で用いる声の音量に戻っていた。
 どうやら僕が近くにいたことに気付かなかったらしい。
 声を掛けられたにもかかわらず、彼らは草陰から身を乗り出さずあくまでも中腰の姿勢を維持したまま、身振り手振りを交えつつ僕に状況を説明してくれた。

「こ、これは違うっすよ! 別に姉御の事が気になって気になって覗き見してた訳じゃないっすよ!」
「そうっす!おいらたちが作り上げた武器が役に立つかどうか調べてただけっす!」
「そんなの、サシャ姉に直接聞けばいいんじゃない?」
「それは恥ずかしいっす!」

 双子特有のまるで事前に示し合わせたかのような息を揃えた答え。
 リンボとルンボ、僕らが属するこの共同体の頼れる仲間だ。
 僕らが魔物退治に用いる短剣や長剣、槍などの木製の武器の数々は全て彼らが作っている。
 そもそもこのとにかく広い草原から樹を見つけ出すこと自体、なかなか骨が折れることでありながらお目当ての樹にしても身の危険を感じると襲いかかってくるブルクが時折擬態していることもあって、木材を手に入れるのも容易なことではないと以前サシャ姉が言ってた。
 それら希少価値のある頑強な素材の仕入れも行いながら、素材そのものの品質を損なわず余すことなく丁寧に仕上げるその技術力は、誰もが目を瞠るものであり、武闘派サシャ姉も人目置く存在だ。

「は、恥ずかしいって……二人ともブルクの退治に貢献してるし、戦闘力ではサシャ姉に劣らない程の男じゃないか、僕なんかよりも圧倒的に強いし」
「腕っぷしの強さの問題なんかじゃないっすよ!心の強さの問題っす!」
「その通りっす!それに姉御程の頼れるお方に業務抜きで御目通しするなんて……恐れ多いっす!」
「なんだか面倒くさいね⁉」
「何だかやけに騒がしいと思ったらリンボとルンボじゃないか、二人共そんな草陰で何やってるんだ?」
「「あ、姉御っおおおおおお⁉」」

 この二人、驚き過ぎではなかろうか。
 そこには玉のような汗を額に浮かべ、幾多の訓練で培われた健康的な肉体を動きやすい軽装ということもあり、惜しみなくさらけ出すサシャ姉の姿があった。
 僕との会話に気を取られていた為にその存在の接近を許した彼らは、心の準備が出来ていなかったようで目を泳がせたり足を組んだりしたりと挙動不審になりながらも言葉を返す。

「い、いやそれはっすね! それはーえー……リンボ!何か言うっす!」
「どうしていきなりおれっちに振るんすか⁉」
「そりゃあリンボの方が僅かに早く生まれたからっす! 兄貴だからっす!」
「ひ、卑怯っすよ⁉ こんな命を懸けた戦いより緊張するような場所で! 卑怯っす!」
「んー? お前たちも相変わらずだよなぁ……あ!そうそう!お前さんたちがあたしに作ってくれたこれとこれ! 凄く使いやすくて嬉しくてさー改めてお礼が言いたかったんだよ!感謝してるぜ、ありがとな!」

 両の手で握っていたリンボルンボ製作の武器の出来を称え武器をしまうと、サシャ姉は二人をねぎらうように彼らの肩を優しく叩き感謝の意を表した。
 そんなサシャ姉の何の含みも無い好意に当てられた彼らはというと――

「あ……あ……」
「あ?」

 水中を自在に移動する魚が空気を求め水面から顔を出す時のように口元をパクパクさせている。
 そしてその顔色は魔法が詠唱される瀬戸際の赤の結晶核のように真っ赤だ。

「どした? もしかして何か気に障ることでも言ったか? だとしたら謝」
「「姉御は素敵っすううううううううう!!」」
「うわっと⁉」

 恐らく顔を覗き込んできたサシャ姉への気恥ずかしさが振り切れてしまったのだろう、羞恥に耐えられなくなった彼らはスクッと立ち上がると僕らに背を向けサシャ姉を称賛する言葉を叫びながら、脱兎のごとく慌てて逃げ出した。

「なんだありゃあ……?」
「お姉ちゃんは相変わらず人気者だなぁ」

 彼らの想いが届く日は、果たして来るのだろうか。
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