僕の異世界、私の世界~アーク大陸冒険起譚~

まるふじ らん

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第一章 『誰が為の異世界』

04 『とある少年の意地悪な優しさ』

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 稽古を続けるサシャ姉と別れた僕は、集落を歩き回っていく中で色々な人たちと言葉を交わした。
 リンボルンボ兄弟のように店を営む者もいれば、僕らの様にこれといって集落の発展に貢献していない一般人も一定数いる。
 時には屋外で作業をする人に声を掛け、時には家の外と内を仕切る暖簾をかき分けそれらの人々に挨拶を済ましていく。
 
 そうこうしている内に僕はこの集落で薬草を生成している方々の家に辿り着いた。
 ここケルザの集落に建てられた家々の外見に区別は無いのに、どうして僕の目と鼻の先にあるこの家が薬草を営んでいるか判断出来るのかというと、他にはない明確な違いが生まれている訳で。
 そこには『エキュのそっこう薬草ていきょーじょ』と大きなアーク文字で書かれた看板が立て掛けられていたからだ。
 これまでと場所が変わっても彼女らの所を訪れる際の緊張感はいつまで経っても変わらない。
 どうか面倒くさい方はいませんように……。

「おじゃましまーす」
「いらっしゃい……おや、ミヤくんじゃない」
「ミヤー!おかえりー!」
「げっ!ミヤ!しっし!ここはお前みたいに弱くて姉ちゃんの影に隠れてるような奴の来るところじゃないぞ!」
「どうも、マフさんとエキュ……それとニクモも」


 面倒くさい方はいたものの、三者三様の反応に懐かしさを覚える。だがニクモおまえは許さん。
 マフさんとエキュはこの集落で人々や動物の傷を癒す特製の薬草を皆に提供している親子であり、おまけのニクモは言わずもがな面倒くさい方の人間であり、この薬草提供所に入り浸っている常連である。
 
 僕とエキュ、ニクモはいわゆる幼馴染。
 小さいころはよく三人合わせてサシャ姉に決闘を挑んだりしていた。結果はいつも惨敗だったけど。
 訪ねて早々にそんな昔のことを思い返していると、マキュが上目遣いでこちらを見ながら

「ねーミヤ!そろそろ誕生祭が始まるんだよね! 準備とかはしたりした?」
「ううん、さっきこっちに着いたばかりだからさ、これからなんだ」
「そっかーうん、そうだよね、さっきこっちに着いたばかりだもんねー」

 うんうんと首肯して何やら納得しているご様子。
 一体なんだろうかと訝し気にその様子を見守っていると、彼女はおもむろに机の上に置かれていた袋をゴソゴソと漁りながら、これでもないあれでもないと呟いている。
 エキュが大事にしている袋には色々な物がたくさん詰め込まれており、以前僕にもその中身を見せてもらったことがあったのだけど、石やら棒やら果ては得体のしれない生き物の羽根やら鱗やらが入っていたりする。
 その可愛い見た目に反して内面にとてつもない物を抱えているのかもと思う今日この頃である。
 
 奮闘しているエキュを眺めていると、いつの間にか面倒くさいのが近づいてきていた。

「ミヤ、最近誕生祭を乗り越えた俺様の、とっておきの必勝法聞きたくないか? これならモーム殺しのサシャ姉の影でいつも怖くて震えているお前だって楽勝かもしれないぞー?」
「うーん、そうだなー、やめておこうかなー」

 僕よりも一足先に誕生祭を迎えたからといって調子に乗り過ぎではないだろうか……?
『なんだか癪だから』とは言わないでおこう。喧嘩になる未来しか見えない。

「ちぇ!せっかく俺様がお前よりも優位に立てる良い機会だったのに……まぁいいさ、これでも見て悔しがるんだな!」

 ここまで素直に言われると不思議と何も思わないものである。
 だがニクモが言う『これ』を否が応でも見たくないので、僕は家の隅々に視線を巡らすものの、僕の視界になんとか収めようと太い体型には似つかわしくない俊敏な動きで、左手薬指にはめらている木製の指輪をこれみよがしに自慢してくる。
 
 この木製の指輪は誕生祭を乗り越えた者に送られる一種の証のようなものだ。
 指輪を左手薬指に身に着けることで子供から大人になり替わるという意味があるらしい。
 実際のところ見た目が突然変わったりする訳では無いので、あまりよく意味は分からなかったけれどおばあちゃんが言っていたのだから大人になるということで間違いない。
 ちなみにこれもリンボルンボの作品だったりする。
 そうこうしている内にエキュの探し物は見つかったようで、弾んだような声を上げる。

「あったー! これエキュの特製薬草! 誕生祭で大事に使って――」
「いただきまーす」

 ニクモはエキュの両手から薬草をひょいと掴むとそのまま口に放り込んでしまった。
 驚く僕らを余所にニクモはむしゃむしゃと薬草を頬張っている。
 最早擁護も出来ない程の面倒な幼馴染だ。

「あらあらニクモくん、駄目じゃないのミヤ君の薬草を勝手に食べちゃ」
「あーこら! ニクモあんた勝手に私の薬草食べないでよ!」
「いくらなんでもそれは流石に駄目だと思うな」

 非難の嵐である。
 そんな非難もどこ吹く風のニクモであったが、突如苦悶の表情を浮かべる。
 先程までの威勢は見る影も無く、青ざめた顔でお腹を押さえている。

「大変だわ!」

 急激な異変に慌てたマフさんは別の薬草を探しに家の奥へと走っていった。
 エキュはというと心配そうな顔でニクモを気遣っていたが、ふと何を思ったのか、件の薬草を取り出した袋の中身を物色し始めると次第に確信めいた表情に変わっていった。

「そ、それもしかして私が9歳の頃に初めて調合した薬草かも……」
「うぐぐ……お、お腹が……」

 最後の挨拶回りは、謝罪の声やら悲鳴やらが飛び交う非日常な流れでその幕を閉じたのだった。


 それからしばらくして――
 
 ニクモはマフさん家の寝台にてぐっすりと眠っている。
 エキュも『私のせいでニクモが死んじゃったらどうしよう』と泣きながら彼の安否を心配していた疲れからか、ニクモが大丈夫だと分かるや否や泣き疲れて今は別の部屋で寝てしまっている。
 マフさん特製の薬草の効能が効いたのか、ニクモは次第に顔の血色が良くなってきている。
 どうやら大丈夫なようだ。
 落ち着きを取り戻したニクモの頭をそっと撫でながら、マフさんはポツリと呟いた。

「もしかしてニクモくんはわざとあの薬草を食べてくれたのかしら……」
「…………」

 そんなことはないと思うけれど……そこのところどうなんだろうか。
 とにかく今はっきりしていること。
 それはこの面倒くさい幼馴染のおかげで助かった人間もいる訳であり。
 そんな恩返しのお礼にと彼に優位に立てる機会を作ってあげよう、僕はそう思うのだった。

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