生徒会の期間限定雑用係~麗しい生徒会メンバーに囲まれていますが、早く解任されたいです~

piyo

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11. クィアシーナは生徒会のモテを目の当たりにする

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「所属ですか?一年Dクラスです。」

クィアシーナのあっさりした返答に対して、彼女の身体はわなわなと震えだす。

「一年生でしかもDクラスですって!?あなた、本当に何をしたの!?親の力?寄付金をどれだけ積んだの?教えなさいよ!」
「いえ、生徒会に入りたいって頼んだだけです。」
「そんなはずないでしょう!わたくしだって何度も頼み込んでいるというのに!あなた爵位は?」
「先祖代々、生粋の平民です。」
「きぃー!ますます意味がわからないわぁぁ!!!」

朝からなんとも激しい人である。上級生に見えるが、話しぶりから高位貴族の者なのだろうか。

「ジェシー、やめなよ。彼女が怖がっているよ。」
「ダンテ様!あなたが彼女の加入をお認めになったのですが!?何をお考えなのですか!」
「彼女の熱意がすごくてね。」
「熱意!?どこに!?」

嘘でしょ、という視線を向けられ、思わず苦笑いになる。

そう言われても仕方がない。自分は彼女のように何度も頼み込んだわけではなく、寧ろダンテの方から加入して欲しいと請われたのだから。

「まあ熱意って言うのは見えるもんでもないしね。」
「また適当言って!」

適当に言っていることがバレてるではないか。
それにしても、ジェシーというのは、アリーチェを突き落としたかもしれない人物の名前だったはず。
確かに、衝動的に色々やらかしそうな人である気はする。

「まぁいいわ!アリーチェさんよりも仕事ができる人物であれば、認めて上げないこともなくってよ!せいぜい頑張りなさいな!」
「あ、はい、…がんばります。」

(すっごい上から目線だけど…なんか憎めない人だな…。)

嵐のようにいちゃもんをつけられ、本館の方へと去っていく彼女の背中を見送った。


挨拶を続けようと気持ちを切り替えたところで、「おはようー」とどこか陽気な声が飛んできた。振り返れば、アレクシスが親しげに女生徒と腕を組み、楽しげな様子でこちらへ向かってくる。二人はクィアシーナの前で足を止め、彼が軽やかに声を掛けてきた。

「後ろから見えてたけど、激しかったねぇ、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。むしろ、最後はがんばれって応援されました。」
「フフ、ジェシーちゃんらしいや。明日は僕も挨拶当番だから、よろしくね。じゃあまた放課後に。」
「はい、また。」

クィアシーナはアレクシスに手を振り、隣の彼女にもペコリと頭を下げる。
彼女のほうはクィアシーナをキッと睨み、挨拶を返すことなくアレクシスと去ってしまった。

(私、何か気に障ることをしたっけ?)

もしかしたら、自分の彼氏が知らない女子に話しかけるのを見て、嫉妬してしまったのかもしれない。
考えても仕方がないことは一旦置いといて、「おはようございまーす」と挨拶活動を再開する。

「お、やってるねー!どう?緊張してる?」

次にクィアシーナの元にやってきたのはビクターだった。彼は一緒に登校していた友人に「先に言っといて」と告げ、足を止めた。

「いいえ、私は女優、って思い込むようにしたら、そんなに緊張せずに済んでます。」
「いいね!女優シーナ。向いてるんじゃない?人前に出る仕事。」
「まさか。目立つことよりも裏で作業するのが好きなタイプなんで。」
「じゃあ庶務はぴったりだね!それじゃ、また放課後にねー。」
「はい、また放課後に。」

去っていくビクターに、何人かの女子生徒が群がる。どうやら彼女たちはクィアシーナと喋り終わるのを待っていたらしい。

(ビクターさんは女子が群がるくらい人気があるんだな…)

そう思っていたのだが、
よく見ると、ダンテの腕には小さな紙袋がいくつかぶら下がっているのに気が付いた。

「あれ、なんですかそれ。」
「ああ、挨拶当番のときはいつもファンの子たちから差し入れを貰うんだよね。今日の生徒会のおやつにしようか。」

どうやら彼らにはファンが付いているらしい。一部の生徒にとって、生徒会というのはスター的な存在なのだろうか。

「いつの間に!人気者なんですね。」
「そうでもないよ。リンスティーを見てみなよ。あいつのほうがコアなファンが多いから、毎度凄いんだよ。」

向こう側のリンスティーを見ると、彼女の足元にはダンテ以上の紙袋の山が置かれていた。

「お供え物みたいになってる…!」
「はは、確かにそうだね。」

リンスティーにここまでの人気があるとは、言ってはなんだが意外だった。しかも、その差し入れを渡しているのはよく見ると女子生徒ばかりである。

(リンスティーさんは女子ウケがいいから、嫌がらせの対象にならなかったのかな?)

確かにリンスティーは頼れる美しいお姉さまである。朝、制服の恰好のまま馬に跨ってる姿は凛々しく、とても格好良かった。
憧れの感情を持ってしまう気持ちもわかる気がする。

クィアシーナがリンスティーの姿に気を取られていると、次はルーベントがやってきたらしく、ダンテが声をかける。

「おはようルーベント。今日は早いね。」
「おはよう、今日も、だろ。しかし毎度おまえはファンからの貢物がすげぇな!それから、おはよう、クィアシーナ。頑張ってるか?」
「おはようございます、ルーベントさん。はい、なんとかやってます。」
「挨拶当番に必要なのは発声、そして元気!残り3分くらいか?あとちょっとだ、がんばれ!」
「はい、頑張ります!」

大きな声で激励を受けたので、同じような声量で返す。
ルーベントは今の返事で気を良くしたのか、「いいぞ!その息だ!」とクィアシーナの頭をぐしゃぐしゃと撫でて、去って行った。
大きな手で撫でられたので、髪は一気にぐしゃぐしゃになる。手櫛で髪を整えていると、通りすがりの女子生徒たちから「いい気にならないでよね」と小声でけん制されてしまった。


女子、こわい。


「そろそろ時間よ、引き上げましょうか。」

どうやらもう挨拶当番は終わりの時間らしい。予鈴が鳴る5分前、本鈴が鳴る10分前である。

「マグノリアンさんや、ドゥランさんには会えませんでしたね。」
「あの二人はいつも遅刻ギリギリで来るからね。今ごろそのへん走ってるんじゃない?」

マイペースそうなドゥランは予想通りだが、マグノリアンはきっちりしてそうだったので、遅刻ギリギリで来るとは意外だった。

「ほら、さっさと支度して教室に行かないと、私たちも遅刻になるわよ。」
「あ、すいません。」

リンスティーの言葉に、校門脇に置いていたカバンを取りにいくと、明らかに最初の状態と違っていた。

「げ、最悪⋯地味にヤダなぁ。」

少し湿ってるであろう土が、カバンの上にこんもりと乗せられている。カバンを持ってそれらを払っていると、隣でダンテが何かを呟いた。

「魔法かな⋯ほんと、⋯面白いな。」
「え?」
「ううん、それより、カバンの中は大丈夫?外側だけ?」
「あ、確かに。」

ダンテの言葉にカバンを開けて中を確認するが、幸い内側には土が入りこんでいないようだった。

「大丈夫でした。きっと風で土ぼこりがかかっちゃったんですね。そう思うことにしときます。」
「そうだね、クィアシーナがそういうなら、そういうことにしておこうか。」
「まったく、嫌な風ねぇ」

クィアシーナとしては、本当に気にしてなかったし、ダンテとリンスティーが冗談めかして調子を合わせてくれたので、こんな地味な嫌がらせのことなんて頭からすぐに消え去った。

――だからこそ、彼女は気付いてなかった。クィアシーナのカバンを見つめる、ダンテとリンスティーの目が笑っていなかったことに。



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