生徒会の期間限定雑用係 ~庶民の私が王子に囮役としてスカウトされたら、学園の事件に巻き込まれました~

piyo

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囮捜査編

23. クィアシーナの思い描く犯人像

「え!? や、それはさすがに悪いわよ……」

思いがけないクィアシーナの提案に、リンスティーは戸惑いを隠せない様子でいる。
しかしクィアシーナは「遠慮しないでください」と、まったく引くことはなかった。

「私の部屋なら、さすがに誰も来ないでしょう? ね、せっかくだからついでに女子会して仲を深めませんか」

なんとなく勢いで出た言葉ではあったが、クィアシーナとしては、これをきっかけに同じ女性同士としてリンスティーと仲良くなっておきたいと思っていた。
ゆくゆくは、この美人のお姉様と恋バナをしてみたり……そんな果てしない妄想に胸を膨らませていた。

「女子会……」

リンスティーはクィアシーナの言葉を反芻し、考える素振りをする。
これはあと一押しというところか。

「それに、まだ誰もうちに遊びきた人はいないんです。リンスティーさんが、"初めての人"になってくれませんか?
ね?」

「!」

いまの言葉の何かがリンスティーに刺さったのだろう、ゴクリと唾を飲み込む音がし、彼女の空気が変わる。

「わかったわ。じゃあ早くここを出て、移動しましょう」





「会議室を占有してしまってすみません!」

会議室の扉を開けるなり、クィアシーナは廊下に向かって声をあげた。

扉の前にいたのはダンテではなく、鍵束を持って扉を開けようとしていたマグノリアンだった。

「おまえが鍵を閉めてたのか」
「すみません、ちょっとリンスティーさんに女子の悩みを相談してまして」

てへへ、と言った軽い調子でクィアシーナはマグノリアンに告げたが、彼はその言葉にぎょっとした表情を向けた。

「リンスティーさんに……『女子の悩み相談』?」

彼は「何やってんだおまえ」とでも言いたげに、呆れた目をこちらに向けてきた。

「はい、そうです。ここ使いますよね!? すぐに出ますね。あ、今日って急ぎの仕事ってありますか?」

「え、いや、特にないけど……」

「了解です! 明日は私が掃除もやっちゃうんで、今日のところはこれでお暇させてください。私、このあとリンスティーさんと用事があるんで!」

「……」

マグノリアンは、今日のクィアシーナが妙に押しが強いことに、少しばかり不審さを覚えているようだった。
しかし、後ろからやってきたリンスティーが特に何も言わないのを見て安心したのか、最終的に「いってらっしゃい」と送り出してくれた。


マグノリアンの許可を取ったあとは、執務室へ向かう。
リンスティーが鞄を取りに行く間、クィアシーナは席にいたメンバーに先に帰ると挨拶して回った。

ダンテは「何かあったの?」と、こちらの様子を探るように声をかけてきた。
しかしリンスティーが「今日はこの子と仲を深めてくるわ。邪魔しないでね! じゃあねー!」と、有無を言わせぬ調子で遮った。――押しの強さなら、彼女の右に出る者はいなさそうである。

そしてリンスティーはクィアシーナの手首を掴み、急いで扉を開けて執務室を出ようとした。
クィアシーナは慌てて皆に向かってお辞儀をし、彼女とともに生徒会館を後にした。





下校時刻からまだそれほど時間が経っていなかったため、二人は途中で何人かの学園の生徒とすれ違った。

多くの生徒はリンスティーに声をかけてきたが、中には「リンスティーさん、クィアシーナさん、さようなら」と、クィアシーナの名前まで呼んでくれる子もいた。
校内報で周知されたおかげで、名前を覚えてくれたのかもしれない。

悪意なく、自分に向かって挨拶してくれる――そのことが、こんなにも嬉しいのかと、クィアシーナはしみじみと感じた。

リンスティーは昨日の朝に馬で迎えに来てくれたこともあって、「次は右よねー」なんて具合に、下宿先までの道のりをしっかり覚えていた。
そして、クィアシーナは今更ながら、あることに気付いてしまう。

(あれ、来てもらったのはいいけど、帰りはどうすればいいんだろ?リンスティーさんを一人で特別寮まで歩かせるの? 危なくない?この辺って、学園行きの定期馬車とか出てたっけ?いや、あったとしても……そんな大衆の乗り物に乗らせるの?)

悩みぬいたクィアシーナが出した結論はただひとつ。

「帰りは、寮までお送りしますね」

彼女を自分が付き添って送る、という提案だった。

リンスティーはその提案を受けたが、クィアシーナをじっと無表情に見下ろし、
「私の心配はいらないから大丈夫」
と、あっさり断られてしまった。


「へぇ、玄関は共用になってるのね」
「はい、でも共用部はここだけで、部屋はちゃんと独立してるんですよ」

リンスティーはクィアシーナの住むアパートの中に入ると、興味深そうにあちこちを見渡していた。
きっと、生粋の貴族である彼女には、こういった庶民の家が珍しいのだろう。

「こういう庶民の家に入るのは、初めてですか?」
「いいや……、いいえ。私、今でこそ特別寮に住んでるけど、昔は庶民のアパートで暮らしてたことがあるの。ここよりも、もっと設備も古くて汚いところだったけどね」
「え、そうなんですか!?」
「ええ、寧ろ懐かしいわ」


目を細めて昔を思い出しているリンスティーの様子から、彼女が本当にそういった経験をしたことがうかがえた。

しかし――

(まったく想像できない)

上から下まで洗練された、生粋のお嬢様といういで立ちのリンスティーである。
そんな彼女が、庶民的なアパート暮らし?
いったい何を思って、そんな酔狂なことをしたのだろう。
きっと軽い気持ちで住んでみたものの、すぐに根を上げて特別寮へ移り住んだに違いない。


「部屋はこっちかしら?」
「あ、はい、つきあたりの右側が私の部屋です。待ってください、いま鍵をあけますね」

クィアシーナはドアへ駆け寄って鍵をあけ、「どうぞ」と部屋の中へとリンスティーを招き入れた。

「……部屋って、その人の性格が現れるっていうわよね」
「それって、私が清潔感あふれる人だって捉えてもいいですか?」

クィアシーナの部屋は散らかってはいないものの、ベッドと机しかない、良く言えばシンプル、悪く言えば殺風景な空間だった。

唯一のインテリアといえば、壁一面に並んだ護身アイテムである。
まったく女子の部屋には似つかわしくないそれらだが、ある意味では部屋のアクセントとして役目を果たしている……と、クィアシーナは勝手に自己評価していた。

「まったく女の子の部屋に来たと思えない……」

なぜかがっくりした様子のリンスティーに、クィアシーナは首を傾げる。

「めっちゃ女子ですよ。ベッドカバーはピンクだし。護身アイテムも可愛い色をチョイスするようにしてますし」
「いや、そこじゃないから。護身アイテムに可愛さは不要でしょ……」

どうやらリンスティーの思い浮かべる女の子の部屋と、自分の部屋とではかなりの乖離があったらしい。
「前に平和的解決で何人か更生院送りにした経験があるって言ってたけど、絶対物理的にやってるでしょ、これ……」となにやらぶつぶつ文句も言っている。が、そこは聞こえないふりをした。

「適当に荷物を置いて、ベッドにでも座っててください。いま、お茶淹れますね」

「あ……ありがとう」

いつも堂々としているリンスティーが、どこか緊張した様子を見せている。
さっきから口数が妙に少なく、ソワソワしているようにも見える。きっと初めての場所に戸惑っているのだろう。

……実は、自分も少しばかり緊張していた。
自分のプライベートを見せるというのは、やはりそれなりにドキドキするものだ。
しかも、相手はただの友達ではない。
これまでなら絶対に関わることがなかったであろう、圧倒的美人の先輩なのだから。

「どうぞ」

お茶の入ったマグカップを手渡し、ベッドの上にトレーを置く。
行儀が悪いのは承知だが、仕方がない。サイドテーブルなんておしゃれなものは、この部屋にはないのだ。

クィアシーナ自身はベッドではなく、いつもの定位置である椅子にカップを持って腰掛けた。

「やっと落ち着いたところで、さっそく会議室の話の続きをしますね」

クィアシーナはお茶を一口飲むと、カップを机に置いた。

「私が考える犯人像ですが、今のところ二つあります」
「二つ?」

クィアシーナの言葉に、リンスティーが顔を傾けた。

「はい。一つは、犯人像というか、アリーチェさんの……自作自演の可能性です。マグノリアンさん以外の目撃者がいないことから、この可能性は高いと思ってます」

これは最初から考えていたことだ。

アリーチェさんが、故意に落ちたのか、それとも偶然足を踏み外して下に落ちたか……どちらにせよ、この場合は犯人はアリーチェ自身ということになる。

「やっぱり……あなたもそう思うのね」

リンスティーの表情に陰が落ちた。どうやら彼女も、アリーチェの自作自演の可能性に気付いていたらしい。

「リンスティーさんも同じように考えていたんですね。ちなみに、アリーチェさんが“犯人の顔を見ていない”って言っていたかどうかって、ご存じですか?」
「アリーチェが? ええと、確か、『周りには誰もいなかった』って言ってたと聞いたわ」

誰もいなかった。
つまり、"自分の目で周囲を確認した"、そして誰もいなかったということだ。

「そこが、少し食い違ってるんですよね。
第一発見者のマグノリアンさんは、彼女が『痛みで目を開けることができなかった、だから誰も見てない』と言ってたと言いました」
「え!? そうなの!?」
「はい、犯人は、階段の上……マグノリアンさんが降りてきていた方ではなく、下の教室棟の方に逃げたという可能性があります」

リンスティーは「そんなことに気付かなかったなんて」と小さな声で呟く。

「たぶん、“誰も見てない”を各自が勝手に解釈して食い違ってしまったのでしょう。あくまで憶測ですが。
でもその場合、アリーチェさんの自作自演じゃなく、本当に第三者から突き落とされたことになります。
こちらの犯人像は、正直まだ見当もつかないのですが、自分の勘では窓ガラスの件の犯人と同じなのではないかと思ってます」

「それって、昨日、あなたを狙って起こったかもしれない、あの昼休みの事件のことかしら?」

「はい。階段から突き落としたり、外から狙ってガラスを割ったり……二つとも、人が怪我をするのを躊躇わないような行為です。
そこだけしか共通点がないので、あくまで私の想像に過ぎませんが……同一犯の可能性もあり得るかと」

「確かに、あなたの言う通り、同一犯の可能性はあるかもしれないわ。
アリーチェは今回のような大きな怪我こそなかったけど、これまでにも危険な目にあうことが何度もあったから」

クィアシーナは、最後のリンスティーの言葉が気になり、詳しく話を聞くことにした。

「それ、具体的に聞かせてもらってもいいですか?」

「色々あるんだけど……例えば、机の中に毒蛇が仕込まれていたり、手紙を読んだら爆発したり、とか。
あわや怪我じゃ済まないことが何度かあったわ。
図太い子だから、さっさと処理したあと、しれっと怖がるフリをして生徒会メンバーに泣きついてたけど」

「それは……図太いというか……」

色々と強すぎる。
自分もそれなりにタフな部類だが、もしかしたら彼女はそれ以上かもしれない。
学園は平和な人が多いと思わせておいて、一部はかなり過激だ。

「でも、アリーチェを狙ってた犯人と、ガラスの件の犯人が同じなら、目的はアリーチェを害することじゃなかったということよね。だって、昨日はあなたが狙われたわけだし」

「確かに、そうなりますね。であれば、犯人の目的は、庶務の座を狙っている人。
もしくは、生徒会メンバー……特にダンテ会長と仲良くしているのが気に食わない人。あとは……」

ふと浮かんだ可能性に、言葉が詰まった。

(さすがに考えすぎかもしれないけど)

続きを焦らすクィアシーナに、リンスティーがしびれを切らして催促した。

「何よ。続きが気になるじゃない。言いなさいよ」
「あと……アンチ生徒会の人の仕業、とか?」

さっきとは違い、現実味のないクィアシーナの言葉に、リンスティーはがっくりと肩を落とした。

「ちょっと、アンチ生徒会って、どこの闇組織よ! 悪さをしてみんなを困らせる愉快犯とでもいうの?」

呆れながら言うリンスティーに対し、クィアシーナは真剣そのものだ。

「あらゆる可能性を考えた結果ですよ!
だって、生徒の間で起きた事件は、生徒会が代表して解決しなきゃいけないんですよね?
事件が起きれば起きるほど、負担は増えるし、解決できなければ評判も下がる。
一般生徒を狙ったものだと話題性に欠けるので、生徒会メンバーを狙う。
でも、人気のある生徒だと逆に同情を買うおそれもあるから、狙いやすい人物、つまりアリーチェさんや私を度々嫌がらせの対象にした……。
こんなことも考えられると思いませんか?」

「……なに、この妙な説得力……」

リンスティーは反発心と納得の間で感情がせめぎ合いをしているらしい。
なんとも複雑な表情だ。

「でも、アリーチェさんの自作自演説も濃厚なんで、まだなんとも言えません」

「まあ、そうね。私も、アリーチェの自作自演の可能性が一番高いと思ってるわ。……ダンテはそう思ってないみたいだけど」

(そうだ。なんでリンスティーさんは、この話をダンテさんには聞かせたくなかったんだろ?)

いまのところ、この場にダンテがいても困る話ではなかったように思う。
それなのになぜ、彼女は自分と二人だけで話すことにしたのだろうか。

「あの、リンスティーさん。今日の話、なんでダンテ会長には知られたくなかったんですか?」
「それは、あいつがいたら話がややこしくなるからよ」
「ややこしくなる?」

リンスティーはクィアシーナを真っ直ぐ見つめ問いかける。

「あなた、この数日ダンテと接して、どう思った? どんな人だと感じた?」
「どうって……」


(キラキラ王子)


この一言に尽きる。

周囲から敬われて、頼りになる、同じ学生とは思えない人。
それがこの数日で彼に抱いた印象だった。

「簡単に纏めると、とにかく、凄い人ってイメージです。落ち着いてるし、第二王子としての身分や、生徒会会長としても学園で権力を持ってるのに、それを鼻にかける感じもないし」

クィアシーナの言葉に、リンスティーも肯定の頷きを見せる。

「まあ、私も、彼がすごい人だというのは認めるわ。昔から神童としてこの国では有名だったもの。特に、魔法の腕に関してはこの国で一番なんじゃないかしら」
「え、そんなに凄いんですか!?」

指先一本で浮遊魔法を使ってるところしかまだ見ていないが、まさかそれほどの実力を持っているのだとは。

というより、クィアシーナはそういったことを含め、自分がいかにこの国の事情に疎いかということを改めて思い知らされた。

「実際はそんな大それた人物じゃないけれどね。
アイツは退屈が大嫌いな変態よ。しかも、退屈しのぎのためなら平気で他人を巻き込んで暇つぶしを始める、迷惑この上ない奴なんだから」

「え!?」

嫌悪感とはまた別の、うんざりした様子でダンテのことを語るリンスティーに、クィアシーナは驚きを隠せなかった。

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