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1章 姉妹
01 邂逅
しおりを挟む其の夜の私はなかなか寝付けずにいた……。
なぜか不安で落ち着かなかったのだ。
私は枕元のスマートフォンを手に取ると電源を入れ友達からのメールがないか確認をする。
うーん……誰からも着信はない……。まあ今は春休みだし、こんな夜中にメールなんかこないよね。と自分を納得させて電源を切った。その時何気なく時間を確認すると、午後二十三時五十七分……あと三分で四月一日である。でもなんだろう、この違和感は……? 何か変わる。
何かが起きる。そんな気がしてならないのだ。これを虫の知らせとでも言うのだろうか……?
よし、寝よう。
私は布団を被って無理矢理寝ようとするが、そんなに直ぐに眠れる訳もなく闇の中でもぞもぞとしていた。
どれだけ時間が経ったのだろう。とても長く感じたが恐らく数分の短時間である。すると…
目の前の暗闇がグニャリと変質した――。私は驚愕して目をぎゅっと瞑ったが其の変質した闇は脳裏に焼き付いた感覚で見えている。その直後――私の頭の中に何かが流れ込んでくる感覚がした。それと同時に脳に痺れるような感覚が――私は怖くて何も出来ない。此が恐怖とゆうものなのだろう。この現象を私は『金縛り』だと思った。だって初体験だったし……。でも其れは少し違って、私はだんだんぼんやりしてきて、車酔いに似たような感じだが、どんどん意識が薄れてゆき抵抗空しく意識を失ってしまった……。
翌朝――いつもと同じ時間に目覚めた。
うーん……あっそうだ、お姉ちゃんにお汁粉を作ってあげる約束だったのだ。
それと子梅(こうめ)様は甘めの汁粉(しるこ)が好物だからお砂糖いっぱい入れないといけないね――。
そう思って、台所に行き粒餡と水を同量入れ沸騰させたら砂糖を大さじ四杯入れて塩を一撮み
落とせば出来上がり。飛びっきり甘い汁粉の完成である。さて、これをお姉ちゃん達に……。
ん……あれ……? お姉ちゃん達って? 私…自然に認識しているけど……この二人は一体誰なの? まあ二人の名前も分かっているし、姉妹だった記憶もある。寝坊助の姉を起こして真実を確かめるとしましょう。私は甘い物が苦手なのでコーヒー用のお湯を沸かしている間に姉を起にいった――。
其のころ私の姉はベッドの中で――。
ちかちかと――。
ちかちかと、よわい光が私を照らしている。
ああ……もどってきたのか、現世に。
にしても、またぞろ眠い……。とても眠い。
だから、もうすこし寝るとしよう。
すると、一時もしないうちに、いつもの如く起こされた。
ゆさゆさ――、「主よ――」ゆさゆさ――、「そろそろ起きよ――」
またいつもの目覚めか、と思い、童女のすがたを確認して、もう一眠りすることにした。
「ん……、あともう少しだけ」
その日は、なんとも心地よい日和だった。
だが、すぐに私を揺さ振る声の主が異常を知らせる。
「主よ、今回はおかしい……気をつけよ」
いったい何を言っているのだか、私はまどろみながらも耳を傾ける。
「人の気配がする、ここは人の家ぞ!?」
あー? そんなことは今のいままでなかったろうに。
そう思って、寝ぼけまなこを擦りながら体を起こそうとしたときだった。カチャっとドアが開き誰かが部屋に入ってきた。だが、逆光で姿をはっきり目視できない。そうして私が寝惚けていると、相手の方から私に声をかけてきた。
「桃華(とうか)お姉ちゃん、いいかげん起きなよ、もう9時ですよー」
はぁ………。
今、私のことを姉と呼んだのは、誰だ。
その一言で完璧に目覚めた私はあらためて声の主を確認する。
それは、小柄な少女であった。
なっ……、この娘は誰だ?
なんで、どうして…私の名を知っている。
私は、心中で周章狼狽(しゅうしょうろうばい)していた。
すると、さきほど私を揺さぶり起こそうとしていた童女がやわら側に寄ってきて、ひそひそと耳打ちしてくる。
「どうやら、今回は主に家族がおるようじゃな」
と、先程からなにかと私に世話をやいている、この童女、じつは人ではない。
では、何者かというと、世間一般では『神様』と呼ばれるたぐいの物だ。まあつまり、普通の人間には見えない存在なのである。
だが、私のことを姉と呼んだこの娘は、私に一声掛けたあとに視線をすこし横にずらして
こう言った。
「小梅さま、今朝はお汁粉ですよ。好きでしたよね?」
言って、顔を小梅の目の高さまで下げ、あいさつがてら軽く微笑むのだった。
そうして、部屋を出て行くとき、私にも「汁粉を飲むか?」と聞いてきたので、
「とびきり甘くしてくれ」と言ったら、「いつもそうでしょ」と返された。
そう言い残して、その娘はすこし訝るように頸を傾げ、踵を返した。
ぱたん――と、しずかにドアが閉まり、日の差す部屋に残された私達は、ついつい顔を見合わせた。小梅はというと、混乱、困惑、昏迷の感情が入り交ざり、なんとも頓狂な顔をしていた。当然、私も同じような顔をしていたのだろう。そうしているうちに小梅が含みのある笑みを浮かべ、というか、そのうちに、ケタケタと愉快に笑いだしたのだった。
「お主――なにやら面白いことになっておるぞ」
「む……、なにがそんなに愉快なのだ??」
「いやいや、先程は布団の中に潜っておったから、よく分からんなんだが、お主……、その姿どうしたのじゃ………」
と言って、失笑している。
一体全体なにごと。そう思い、辺りを見渡すと、机の上に小さな鏡が置いてあった。
私は、そそくさと其れを取り自分の姿を映し見る。
「おい………小梅よ、これが本当に私なのか??」
「くっくっくっ、そうじゃ……、其れが、お主じゃよ」
そう言って、堪らず笑いだしたのである。
それも其の筈、私は永遠の二十四歳なはずなのに、鏡に映る私の姿はせいぜい十七か十八の小娘であった。容姿は長髪の黒髪で、気品のある顔立ち、のはずなのだが……、なんか幼い。
体付きだって、すらりとした長身で、誰でもが見惚れる腰付きで、胸元だって母性を感じさせる豊かなものであったはずだが……、なんだろう、このまだまだ育ちそうな物は……。尻は痩せて小さく、腿も細い、それに合わせて肩幅も狭く、当然の如く乳房も小さい……。
あああああ、泣きたくなってきた。あああああ、鬱だ。
「くっくっくっ、まあ、仕方無しじゃ、主は日頃の行いが悪いからのう」
あああああ、また笑いやがった、この座敷童が、お前なんかもう知らん。
二度寝してやる、寝ちゃうからなー。
妹か……、布団の中で色々考え、なんとなく状況は呑み込めたが、事情が理解できず、納得できず、生暖かい闇の中で拗ねていると、パタパタと軽快な足音がこちらに向かってくる。
そうか、汁粉か、とびっきり甘い汁粉を頼んだな。きっとあの娘が持ってきたのだろう。
まあ慌て取り乱してもどうなるわけでもないし、話を訊けば何かしら分かるはずだ。
ここは落ち着いて、平静を保ち、冷静にいくとしよう。
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