10 / 33
2章 罪
03 咎
しおりを挟むそれともう一つ、私は友を蘇らせたいだけだ……。
そんな通力を使ったエゴ―――。
ただ、この男の殺人衝動ぐらいは取り除いてやらないといけない………。
「そっか、うん――よく分かりました。ならば、最後に私を殺してみなさい。
それで、自分のやってきたことがよく分かるから……。さあ―――」
そう云って、私は男を挑発するように顔を突き出す。
「ならばこの細くて、白くて、長い首を思いっきり縊(くび)るといい―――
さすれば、今の自分がよく分かる。簡単だろう、ほれ――遣れよ!?」
その言葉を聞いた途端、男は乱暴に私を壁へ叩きつけた。
直後に両の掌が私の頸部を信じがたい力で締めつけてくる。
「うっ――――――!!!」
想像以上だ……。これじゃ二〇秒も掛からず絶命してしまう……。なんて…握力……。
それでも私は、両の掌を優しく男の頬に添える。そして――しっかりと男の目を見詰めた。
その直後、親指に凄まじい力が入り、自分の喉仏(のどほとけ)が潰れる音が耳に響く―――
「ゴキン――!!!」と鈍い音の後で血の味が口に広がる―――。
その後、霞む意識のなか男の頬に添えた手だけは決して離さない、
何があっても絶対に……。しかし……これはなかなか心地いいな。
本当に、逝ってしまいそうだ………。私は一分と持たずに……。
…………………………………………絶命した…………………………………………。
だが、形式的な死、なのですぐに目覚める。
そして周囲を見渡すと、男はまだ其処にいた。
男は両膝を地べたについて、ぼろぼろと涙を零していた。そのそばには嘔吐物もあった。
私はゆらりと立ち上がると男のそばにいって頭を撫でてやる。
すぐにでも声を掛けてやりたいのだが、喉が潰れて血液が気管支に詰まり声が出せない。
………なので、しばらくそのままでいて「こふっ」と咳払いをした。
すると、どろりとした赤黒い血を吐き出し、ようやく声が出せるようになった。
「やあ……、おはよう、ずいぶんと取り乱しているな。
私を殺してそんなに辛かったのかい?」
意地の悪い問いに男は俯き泣き崩れたまま答えた。
「ごめん……なさい……。ゴメンナサイ……。ゴメンナサイ………」
と―――男は、ただただ「ごめんなさい」と私に謝罪する。まるで拝むように謝った。
「もう……いいよ。お前は愛を知らなかったのだね……。
それは、酷く不幸なことだよ……。だから、すべてを許す――」
「許す」と云われた男は、泣きじゃくった―――。
泣いて、泣いて、アスファルトに涙の溜まりを作った。
泣女ならば二升泣きといったところだ。
男は泣くだけ泣いたら涙を拭い立ちあがって、やっと私と向き合い口を開いた。
「あんたは、本当に神様だったんだな……。
顔に添えられた掌がとても暖かかった……。
最後まで………。
最後まで見詰めてくれた目がとても悲しかった………。
ありがとう……、救われたよ………。
あのまま死なれていたら俺は今頃ビルの上から飛び降りていた………。
もう思い残すことも無い、だからあんたを信じよう……」
云って、男は何かを考えているようだった。
「それで、俺は何をしたらいい……?」
そんな事は今の一言で十分。この男は私を神と認め崇めてくれた。
それで、十分。
私は今までの緊張をほどき男に話し掛ける。
「今の言葉で十分だよ……。あー、それと名前を教えてもらえるかな?」
「俺は、川上玄宗(かわかみげんしゅう)―――。親とはもうずいぶんと会っていないな……」
これで条件は調った。
私は、男の額に手を翳(かざ)し通力を籠める―――。
しばらくして、男の起源が私に流れ込んできた。
先祖、川上忠堅(かわかみただかた)。
時は、一五八四年――天正(てんしょう)十二年の春。
場所は、肥後八代(ひごやつしろ)(今の熊本県南部地方)
そこで、この男の先祖は縁を結んだ。
川上氏だとすると……戦国時代、島津方の武将が先祖に当たる……か。
私が神に転生してから約五百年。
暇で、暇で、やることがなくて、あまたの書物を読みあさった。
なかでも好んで読んだのは軍記物や史実の事件などを記述した書物だった。
これら歴史物は精読して事柄の原因や戦の流れ、
勝敗を追求していくと風土、習わし、食文化、戦術戦略、
など一つの事柄で百の知識を得ることが出来た。
そんなこともあってか、ここ百数十年は教師として人の世を過ごしてきた。
というわけで、過去の戦、事件などに関わる人物ならば、たやすく把握することが出来る。
そして、今回は戦国時代、島津方の若き侍大将。
この世でこの男を消すと先祖の縁が切れて歴史に改竄が発生する。
当然、この男が云ったように改竄されたままだと罪も無い人がこの世から消失してしまう。
なので、私は先祖のいた時代に遡り切った縁を違うかたちで結び直すのだ。
すると、結ばれる相手が同じであっても微妙な改変がおこる。
それが、この男だけに適用される改変だ。
こうすることによって、この男は罪を犯さず違う人生を歩むこととなる。
だが、そんな大罪を犯した私だけは「咎(とが)」を負うことになる……。
それは、友や知り合いの居た元の世に戻っても年月に誤差が生じて時系列がずれる……。
そして、友とは決して出会うことがない……。
例外として、通力を持つ者、または私の遠縁にあたる子孫とは再開できるらしいが……。
この五百年で一度も出会ったことが無い……。
まあ、世の中そんなに都合よくできていないのだ。
霊感や通力をもつ者と知り合う可能性など奇跡に等しい……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
三つの民と神のちからを継ぐ者たちの物語 ヴェアリアスストーリー
きみゆぅ
ファンタジー
『ヴェアリアスストーリー』は神秘と冒険が交差するファンタジー世界を舞台にした物語。
不思議なちからを操るセイシュの民、失ったそのちからを求めるイシュの民、そして特殊な力を持たないがゆえに知恵や技術で栄えたヒュムが共存する中、新たなる時代が幕を開けた。
彼らは悩み迷いながらも、自分たちが信じる正義を追求し、どのように未来を切り開いていくのか。ちからと知恵、絆が交差する物語の中で、彼らは自らの運命に立ち向かい、新しい数々のストーリーを紡いでいく。
第一章はセイシュの民の視点での物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる