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2章 罪
05 天正十二年へ
しおりを挟むパーン、とゆう音とともに川上の体は光の霧となって消えた。
その瞬間、視界がグニャリと湾曲して大きな変化を感じた。
これで、川上は消失……。そして殺害された4人は蘇る。
だが、今私の居る場所はまるで違う世であろう。
元の世に戻る為には川上の祖先の縁をもう一度結びなおさねばならない。
ああ、面倒だ……。
もう、飽きた……。
助けた友に会えないのに私はなにをやっている……。
こんなことなら、助けても助けなくても同じなのに……。
自分が酷い死に方をしたから助けているのか……?
やはりエゴだな……。
いつか私は最悪の罰をうける……。
ああ、そろそろ誰か変わってくれないかなー。
最近はいつもこんなだ、そしてこんな風に小梅に訊いてしまう。
「なあ小梅……、私はどうしたらいい?」
すると必ずこう返ってくる。
「知らん」と……。
「………」
だろうな、知らんよな、最初に軽い気持ちで助けてしまったから、
その後の私の運命が狂ってしまったのか?
たしか楓と出会ったのは一九九五年だ。そして今も一九九五年のはず。
ただ楓と出会えるかは分からないし、捜す気にもなれない。
前に助けた友を捜して酷い目に遭って以来そんなことはする気もおこらない。
確かなことは、川上忠堅の子孫が居ない世であるということだけ、
大きく歴史が歪んだ世だ。
正直、一刻も早く元の世に戻りたい。
まあ、戻ったとしても楓がいたこの街に戻れる保証はない……。
というか戻った例しがない、毎回戻ると、見知らぬ街の一室で目覚める。
時系列は毎回バラバラで誤差は数年~数十年、
「よく私は正気を保っていられるな」と自分に感心してしまう、
まあ、そんなことを気にしていたら今頃とっくに狂っているだろう。
だから今回も気にせず時間を遡るのだ。
月の力をつかって、小梅の力をつかって……。
「さて小梅、そろそろ神器をだしてくれ―――」
云われて、小梅は懐から輝く玉を取り出した。
神器(月影ノ御魂)(つきかげのみたま)
この一見銀色の球体は鏡にように何でも映しそうだが、
月の影以外は何も映さない。
そして、満月を映した時、過去への時渡りが可能になる。
これから、その力を使って、もと居た世にもどるため、
川上の先祖の縁を新たに結びにいく。それで、もとに戻れる。
それで、川上は殺人を犯さず、私はどこだか分からない場所、時間に流される……。
それはそうだろう、川上に殺された4人が助かるのだから……。
その4人の未来が開ける。
子孫を残すかも知れないし、歴史に大きく関わるかも知れない、
だから、私は殆どの別の時間に流される。
結局、私が救ったのは川上の方で、4人の命は助かったが、運命を変えてしまった。
まぁ、そうなるのは私が川上の縁を結び直してからだな。
そうゆうわけだからとっとと時渡りをして、また元の世に戻ってこよう。
今回は川上の起源がはっきり分かっているから時渡りも楽だ。
もう、ここに用はない……。
「よし……、小梅」
その一言で、小梅は月影ノ御魂を月に翳す。玉は月明りを収束して、薄紅色に輝く。
そして、小さな月になった。
その月は、大きく広がり、時渡りの目的地を映し出す、
そこは何処かの武家屋敷であった。
そこが、川上の祖先がいる場所、天正十二年春の肥後八代なのだろう。
「ふふっ……、島津か、楽しみだのお」
そう云うと小梅が怪訝な顔をして、こう云ってくる。
「主はこれから戦をしにいくのだぞ……、それを『楽しみ』などと……。
戦の悲惨さは主がいちばん分かっておろうに……」
まあ、それは確かだが、云われて私はこう返した。
「べつにいいのだよ、どのみち私が行かなければ歴史がもとに戻らないのだから……。
それに、戦で討死にする者達は死ぬべき運命なのだし……。
私はむこうに行きするべきことをするまでさ」
「………。べつに儂はよいが、主は必ず罰をうけるぞ」
「そうかい、そんな運命は私にも分からんよ……。
でも、そのときは甘んじて罰をうけるさ」
そう云って、私達は光のなかに姿を消した。
時を遡り天正十二年の春へ―――。
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