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2章

41話

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 夏休みが終わり――今日から、ゲームでは激動となる二学期が始まろうとしている。
 私は学園に向かっている馬車の中でレックス殿下と会話をしながら、夏休みの出来事を思い返していた。

「リリアン。何か悩んでいることがあるのか?」

「二学期のグリムラ魔法学園は様々な行事がありますから……期待しつつも、不安になっていました」

「そうか。夏休みを経て俺達はかなり強くなっている。リリアンの不安は全て打ち払ってみせよう!」

 目の前のレックス殿下が断言してくれて、私は嬉しくなる。
 夏休みは様々なイベントが発生したけど――私はゲームを逆手にとり、一番強くなれるイベントを選んでいた。

 ロイと聖堂に行くイベントが一番強くなれるから、私、同行したレックス殿下……本来その恩恵を一番受けるカレン、ロイの四人で別大陸にある大聖堂に向かっている。
 そこで聖堂の試練を経て――カレンとロイは、私ほどではないけど、膨大な魔力を得ることができていた。
 私も試練を受けたかったけど闇魔法の素質があるせいで無理だったから――様々な魔法を覚えている。
 ゲームでは聖堂に行っていないレックス殿下の急成長には驚くしかなかったけど、それでも二学期は色々と問題が発生するはず。
 準備は万全にしてきたつもりだけど……大丈夫なのか、私は不安になってしまう。

「ロイとカレンも強くなっているし、ルートも優秀だ。何も心配することはない」

「そうですね」

 ――二学期さえ終わってしまえば、後は平和な日常が待っている。
 グリムラ魔法学園に入学して一年間の出来事がゲーム内容だけど、二学期以降は一気に省略されることとなっていた。
 敵である邪神ロウデスの復活を目論むロウデス教との戦いも、二学期で完全に決着がつくはず。
 ゲーム通りなら全ての元凶である邪神ロウデスが復活する絶好の機会が、二学期で最も重要になる行事だった。

「……レックス殿下。私はこの二学期を、必ず乗り切ってみせます」

「ああ。ロウデス教を潰すことができれば、リリアンを安心させることができそうだ!」

 レックス殿下の発言に頷き、私は決意を強める。
 激動の二学期がはじまると、覚悟はしていた。

 それでも――まさか二学期の初日から驚くことになるなんて、私は想像していなかった。

   ◇◆◇

 馬車がグリムラ魔法学園に到着して、私とレックス殿下は教室に向かう。
 教室内は夏休みで長い期間会えなかったからか、賑わっている様子だ。
 私とレックス殿下が席につき、すでに来ていたカレンとロイが私達に挨拶する。

「リリアンさん、レックス君、おはよう、二人で来たんだね」

「リリアン様、レックス殿下、おはようございます……ルート様は、まだ来ていないようですね」

 ロイが微笑み、周囲を眺めながらカレンが教えてくれる。
 夏休みの期間中、私達は他国の大聖堂に向かっていたから……ルートとは会っていなかった。
 ゲームだとルートは学園内でレックス殿下を護衛する役目があるから、早く登校していて来るのを待っていたはず。
 
「ロイ様、カレン。おはようございます」

「二人ともおはよう。確かにルートがいないのが気になるが、まだ時間に余裕はあるからな」

 私とレックス殿下が挨拶をすると――慌てた様子でルートが教室にやって来て、私達を見て勢い良く頭を下げる。

「護衛としてレックス殿下より先に来なければならないのに……申し訳ありません!」

「そ、そこまで気にすることはないぞ……久しぶりだな」

 焦りながら黒髪おかっぱ頭で長身の美少年、ルートがレックス殿下や私達に頭を下げる。
 私達は必死そうな様子に動揺しながら宥めていると、ルートが俯きながらも話す。

「おはようございます。言い訳になりますが、私は教室に真っ先に来ていました……噂を聞き、情報収集した方がいいと判断したのです」

「噂?」

「情報収集……ですか?」

 レックス殿下とロイが驚き、私が尋ねる。
 カレンも驚いている様子なのは――この発言は、ゲームと違うからだ。
 そしてルートの話を聞いて、私達は驚くことになる。

「どうやらこのクラスに、新入生が来るようです」

「……えっ?」

「新入生、ですか?」

 私とカレンが、思わず驚いた声を漏らす。
 二学期での新入生――それは、ゲームではあり得ない出来事だ。

「今の時期に入学など、ありえるのか?」

「物凄く優秀な生徒が、生徒の推薦で試験を受けて認められたら入学できるはずだけど……この制度が使われたことは、ほとんどないはずだよ」

 驚いているレックス殿下が疑問の声を漏らし、ロイが返答する。
 そして……ルートが、更に気になることを話す。

「そのようです。調べてみましたけど……どうやらカレン様と同じ、平民のようです」

「……平民ですか」

 カレンが唖然としているのは、ゲームと全然違うからね。
 私も気になっていたから、ルートに尋ねる。

「このクラスは特待生のクラスですけど……入学の試験で、凄い魔法を扱ったということでしょうか?」

「むっ。ルートよ、そいつは男か?」

 私が魔法の腕に興味を示したと考えたのか、レックス殿下が嫉妬しながら尋ねる。
 ルートは気にしていない様子で、頷きながら返答する。
 
「はい。男性と聞きましたけど、見てはいません」

「そうか……いや、リリアンより凄い魔法士ということはあるまい」

 ルートの返答を聞いて、レックス殿下が警戒心を強めていた。
 そしてベルが鳴って――これから教室で先生の話を聞き、始業式になるはず。
 担任の先生がやって来て、それよりも私は先生の隣にいる小柄な美少年に驚くしかない。   
 
「本日から新入生がこのクラスに入って来ることとなりました」

 皆に先生が説明して、小柄な少年が一礼しながら自己紹介をはじめる。
 体躯に合っている短い剣、杖を腰に備えた美少年だ。

「ぼくの名前はラギルです――これから皆様、どうぞよろしくお願い致します」

 小柄で少し長い茶髪――赤く大きな目から可愛い系の美少年だけど、とてつもない威圧感を持っていた。
 威圧感の正体は膨大な魔力で、私とは違い抑えずに周囲に見せつけている。
 平民だから蔑まれまいと考えているのかもしれないけど、その膨大な魔力を見て皆は声が出ないようだ。
 ゲームでは一切登場しない謎の美少年ラギルは――私と同じ、もしかしたらそれ以上かもしれないほどの、膨大な魔力を宿していた。
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