婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません

黒木 楓

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7話 カルス視点

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 カルスはパトリシアを連れ戻すしかないと決意するも、婚約破棄を受けた際の行動を思い返す。

 パトリシアはこうなることを予想していたかのように、連れ戻されないよう手を打っていた。
 
 エバンドは婚約破棄の経緯を少ししか知らないからこそ、連れ戻すべきだと提案しているのだろう。

「パトリシアには魔道具の紙がある……あそこまでやられると、再び婚約するのは無理なのではないか?」

 そう言って、カルスはエバンドに今朝のパトリシアがとった行動をエバンドに話す。

 パトリシアの忠告を無視して、婚約破棄の誓約書を2枚書いている。
 
 この婚約破棄は、ルジャス家にとってかなり都合のいいものだった。

 一方的な婚約破棄なのに、違約金は一切ない。
 立場の違いで脅そうと考えていたのに、平然と受け入れた理由は今身をもって理解している。

 エバンドに今朝のことを説明すると、真剣な表情を浮かべて。

「……パトリシア様の功績について知っているのは、ルジャス領の民だけですか?」

「ああ。そうだ」

「それなら……パトリシア様は子爵令嬢ですし、脅せば連れ戻せるのではありませんか?」

 エバンドが提案するも、カルスは首を左右に振って。
 
「いや、婚約破棄の誓約書がある」

「パトリシア様は伯爵家に嫁いだのに婚約破棄を受けた……屋敷に戻ってそのことを伝えれば、家族に糾弾されているはずです」

 エバンドの発言を聞いて、カルスは思考する。
 パトリシアが有能だと知らないのなら、婚約破棄を受け入れたのは愚かな行動だ。

「糾弾されたパトリシア様は婚約破棄を取り消せないか考えるはず……そこに再び婚約したいとカルス様が提案すれば――」

「――しかし、そうなるとミュリナとの婚約はどうする?」

「それに関してはパトリシア様を納得させるしかないでしょう……相手の方が立場が下ですし、何も知らないのなら脅すことで問題ないはずです」

「そ、そうか!」

 それを聞いて――本来なら今すぐにパトリシアの元へ行きたいも、まだ両親が帰って来ていない。

 今日はパトリシアが、どれだけルジャス領に貢献していたのか調査しておき、明日の説得に利用しよう。

 希望が見えてきたカルスは、未だにパトリシアのことを侮っている。
 ルジャス領の者だけが、パトリシアの凄さを知っているとエバンドは想定していた。

 パトリシアは想像を遥かに超える力を持っていることを、カルスは数時間後に知ることとなる。
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