婚約破棄されたので、愛さないと決めました

2話

「僕の婚約者がここまで愚かだとは思わなかった……君との婚約は破棄するつもりだ」

　私の発言を信じず、婚約者カルドは公爵令嬢マリザの嘘を信じている。
　そこから婚約破棄を言い渡されたことに、私は驚いてしまう。

　カルドは右手でマリザの肩をつかみ、私を非難している。
　騙されている婚約者を眺め、言いたいことがあった。

「カルド様は、婚約者の私よりもマリザ様の発言を信じるのですね」
「今日の模擬戦で君はマリザを圧倒している。それが証拠のようなものだ」
「魔法が上手く扱えない私は、他のことで成績をよくしないといけません。それはカルド様もわかっているはずです」

　私は最低限の魔法は使えるけど、何をしても上達しなかった。
　それでも魔法学園を卒業して欲しいと家族に期待されているから、魔法の知識や剣技で成績をよくしていた。

　マリザは病弱だけど優秀な魔法士で、模擬戦ならそんな彼女より強いと証明できる……それもマリザの方から挑んできたのだから、私は拒む理由がなかった。

「そ、それは――」
「――うぅっ。カルドは、私を信じてくれないの？」

　戸惑っているカルドに対して、急にマリザが崩れ落ちる。
　カルドは反射的に動き体を支えているけど、顔を近づけて囁いているようにみえてしまう。

「模擬戦でやられた私にかけてくれた言葉は、嘘じゃないわよね？」
「嘘じゃない。君を虐げたソニアとは別れて、これからずっと傍にいよう」

　どうやら私が全て悪いことにして、カルドはマリザと付き合いたいようだ。
　こんな人を愛していたことが恥だと思えてしまうほどで、茫然としていると声が聞こえる。

「話を聞いていたが、要するにカルドはソニアを捨ててマリザと一緒にいたいだけだろう」
「フィリス様。悪いのはソニアです」
「君達の婚約関係がどうなろうと構わないが、悪いのは間違いなくマリザとカルドだ。反論したいのならこの場で私に言って欲しい」

　隣の席にいるフィリスが、カルドを睨んで告げる。
　そこにハネス王子もやって来て、マリザに対して話す。

「俺が昨日ソニアに話しかけた時、マリザは睨んでいた。嫉妬からソニアを苦しめたくなり、カルドを利用している」
「ハネス様は何を言っている！　そんなことあるわけがない！！」
「入学してすぐ、マリザは席が離れている俺を頼ろうとしていた。拒んだから仕方なくカルドを頼っている」

　嫉妬していることをカルドは否定したかったけど、ハネスが根拠を話す。
　立場の差から言い返せないようで、話が続いた。
　
「今までの言動からマリザの発言は何一つ信じられない。カルドは婚約者のソニアがいるのに、マリザを好きになっただけだ」
「ハネスの言うとおり、それはこの数ヶ月が証明しているようなものだろう。婚約破棄の際ソニアのギャラク伯爵家に迷惑をかけることは、私達が許さない」
「うっ……わかり、ました」

　まさか人と関わらない王女と王子が、この場で意見してくるとは思わなかったようだ。
　反論できないカルドは俯いているから見えていないようだけど、マリザは私を忌々しく睨んでいる。
　ハネス王子が私に声をかけたことによる嫉妬なのは、間違いなさそうだ。

　　　◇◆◇

　その後は屋敷に戻り、部屋で私は一人になっていた。

　今日の出来事は衝撃的で、呆然としていると時間が過ぎていく。
　立ち尽くしながら思い返し、悲しくなり独り言をつぶやいてしまう。

「カルドは穏やかで優しかったのに……マリザと出会ってから、変わってしまいました」

　婚約者になったのは二年前で、数ケ月前までは楽しく過ごせている。
　親同士が決めたことだけど、ずっとカルドと一緒にいたいと思っていた。

「……私を信じず、マリザの嘘を信じるなんて」

　今日の出来事を思い返すと、涙が出てしまう。
　優しいからマリザの傍にいると信じたかったのに、それも裏切られてしまったからだ。

　裏切られることがここまで辛いのなら、これからは誰も愛さない。
　カルドから婚約を破棄されそうになり、私はそう決意していた。