レシピの見つけ方 〜旅するお菓子ノート〜

武内れい

文字の大きさ
49 / 78
第三章:チーズの町、ミルクの風

51、はじめてのリコッタチーズケーキ(前半)

しおりを挟む

 ことりの家のキッチンは、少し狭いけれど、光がたっぷり入るお気に入りの場所。今日は学校が早帰りで、給食だけ食べてすぐに帰宅した。

「よし、やるぞ……!」
 私はエプロンを締め直して、小さく息を吸った。

 奏汰と相談して決めたふわふわリコッタチーズケーキ。
 使う材料も、ちゃんと土屋さんに教えてもらった。リコッタチーズとクリームチーズをブレンドし、甘さは砂糖ではなく白あんで自然に。牛乳は近くのスーパーで買える低温殺菌のものを選んだ。

 ノートには、分量も工程もきっちりメモしてある。

【材料(15cm丸型1台分)】
 ・リコッタチーズ 150g
 ・クリームチーズ 50g
 ・白あん 60g
 ・卵(Mサイズ) 2個
 ・牛乳 100ml
 ・薄力粉 大さじ1
 ・レモン汁 小さじ1
 ・バニラエッセンス 少々

【手順】
 ① チーズと白あんを混ぜ、なめらかにする
 ② 卵黄と牛乳を加えてさらに混ぜる
 ③ 粉類をふるい入れて混ぜる
 ④ 卵白を泡立ててメレンゲにし、さっくり混ぜる
 ⑤ 型に流し、湯煎で150度・45分焼成

「理屈では、完ぺきなんだけどな……」
 奏汰は少し離れたテーブルでノートを見ながら、私の作業を見守っている。彼はレシピ係。私は手を動かす係。

「じゃあ、いきまーす!」
 泡立て器でリコッタとクリームチーズを混ぜながら、私は慎重に白あんを加えていく。ミキサーを使えば早いけれど、今回は感覚を確かめたいから手動にした。

「……重たいなあ」
 滑らかにするのに思ったより力がいる。最初はゴムベラで混ぜていたけど、途中から泡立て器に持ち替えた。

「チーズって、こういう感じなんだね」
「うん。でも、白あんも入れてるから固まりやすいと思うよ。温度に気をつけて」

 私はうなずいて、卵黄と牛乳を加える。でも、ここで思わぬ問題が出た。

「あれ、分離してる……?」
「え、ちょっと見せて」
 奏汰がのぞき込む。確かに、牛乳の水分と白あんの油分が、分離したように見える。

「やっぱり、材料は全部室温に戻すべきだったかも」
「そ、そんな……」

 がくっと肩を落とす私。
「だいじょうぶ、ここでよく混ぜればなんとかなる。ホイッパー貸して」
 私はそっと泡立て器を渡す。奏汰は両手でボウルを支え、ていねいに、ていねいに混ぜていく。ほどなくして、液体はまたひとつにまとまっていった。

「……ありがと」
「どういたしまして」

 そして、メレンゲづくり。これも難関。
 私は卵白をボウルに入れ、電動ミキサーで泡立てた。少しずつ角が立っていくのが楽しい。

「おお……雪みたい……!」
「ここからが勝負。ツノが立っても混ぜすぎるとダマになるよ」
「うう、むずかしい……!」

 最終的に、形はまあまあだけど、表面にちょっと泡の粒が残ってしまった。

「まあ、初回だし、焼いてみないとね」と奏汰。

 型に流し込み、湯煎用のバットにお湯をそっと注ぐ。オーブンに入れて、タイマーをセット。

「……焼けるかな」
「焼けるといいな」

 ふたりでイスに座り、じっとオーブンの中をのぞいた。小さくふくらんでいく生地に、なんだかドキドキする。

 45分後。

 タイマーが鳴った。

 私がオーブンの扉を開けると――

「……あれ?」
 チーズケーキの表面がへこんでいた。真ん中が、少し割れていた。

「ふくらんでたのに、しぼんじゃった……」
「焼き上がってから急に冷めると、こうなるんだよな。あとは焼きすぎか、メレンゲの混ぜ方かも」

 私は切り分けて、そっとひとくち。

 もぐ……。

「んー……味、ちょっと濃い。白あん、多すぎたかも」

「僕も食べてみる」
 奏汰も試食。

「うん、悪くはないけど……チーズの塩気と白あんがケンカしてる。次は甘みを抑えて、レモンをもう少し強めに入れるとか」

 私はうつむいた。

「うう、やっぱり難しいや。もう、私なんて向いてないのかも……」

「……ことり」
 奏汰は、私の手のひらに自分の小さなノートをそっと置いた。

「これ、僕がチーズケーキ試作したときのメモ。失敗だらけだったよ。半生だったこともあるし、焦がしたこともあった。でも、楽しかった」

 私はそのノートを開いた。ぐちゃぐちゃな図、レモンの量のバリエーション、温度と時間の記録。それに〈香りはいい!〉とか〈失敗だけど、家族は食べてくれた!〉とか、手書きの感想もたくさん。

「ことりも、楽しくなかった?」

 私は、そっと笑った。

「……楽しかった」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

【完結】夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで

猫都299
児童書・童話
タイムリープしたかもしれない。中学生に戻っている? 夫に愛されなかった惨めな人生をやり直せそうだ。彼を振り向かせたい。しかしタイムリープ前の夫には多くの愛人がいた。純愛信者で奥手で恋愛経験もほぼない喪女にはハードルが高過ぎる。まずは同じ土俵で向き合えるように修行しよう。この際、己の理想もかなぐり捨てる。逆ハーレムを作ってメンバーが集まったら告白する! 兄(血は繋がっていない)にも色々教えてもらおう。…………メンバーが夫しか集まらなかった。 ※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、Nolaノベル、Tales、ツギクルの6サイトに投稿しています。 ※ノベルアップ+にて不定期に進捗状況を報告しています。 ※文字数を調整した【応募版】は2026年1月3日より、Nolaノベル、ツギクル、ベリーズカフェ、野いちごに投稿中です。 ※2026.1.5に完結しました! 修正中です。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

アリアさんの幽閉教室

柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。 「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」 招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。 招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。 『恋の以心伝心ゲーム』 私たちならこんなの楽勝! 夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。 アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。 心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……?? 『呪いの人形』 この人形、何度捨てても戻ってくる 体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。 人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。 陽菜にずっと付き纏う理由とは――。 『恐怖の鬼ごっこ』 アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。 突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。 仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――? 『招かれざる人』 新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。 アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。 強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。 しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。 ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。 最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。

処理中です...