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第三章:チーズの町、ミルクの風
55、重なる味、広がる想い(前半)
しおりを挟む「ほんとに、呼んじゃってよかったかな……」
私は、リビングに並べた紙皿と紙コップの数を何度も数えながら、そわそわしていた。
今日の午後は、チーズとレモンの二層ケーキの**試食会**。
来てくれるのは、クラスの友達数人と、お母さん、奏汰の妹のふみちゃんも。
試作品は、昨晩やっと納得のいく味に仕上がったやつ。
下のレアチーズ層はなめらかに、上のスフレ層はふわっと仕上がった。甘さも調整して、酸味とのバランスが前よりずっといい。
レモンピールをほんの少しだけトッピングしたのが、ことりと奏汰の工夫。
「ドキドキするね」
横にいる奏汰も、さすがに少し緊張した顔だった。
ピンポーン。
「きた!」
玄関のチャイムが鳴ると、心臓が跳ねるみたいにドクンとした。
やってきたのは、いぶき、なつめ、そしてクラスの男子のだいご。
いぶきはキラキラしたワンピース、なつめは小さなスケッチブックを手に持っている。
「こんにちは~」と入ってきたふみちゃんは、パティスリーの袋を手にしていた。
「ことりちゃんのお菓子、楽しみだな~って、朝から言ってたよ」
とお母さんが笑う。
私たちは、それぞれに切り分けたケーキを皿にのせて配っていった。
ふみちゃんには小さめ、だいごにはちょっと大きめ。
「ではでは~」といぶきが言う。「いっただっきまーす!」
「いただきます」
それぞれが、スプーンでケーキをひとくち。私は、ごくりと唾を飲んで見守った。
「……あ、おいしい!」といぶき。
「ほんと? よかった……!」
「うん、上のふわふわが好き。軽くて食べやすい」
「でも、下のやつがちょっとすっぱいかも?」
「え、そう?」とだいごが口をはさむ。「おれは、もっとすっぱいのが好き。レモン感足りないくらい」
なつめは、何かを考えるように首をかしげていた。
「ねぇ……これって、なんか味が変わる感じがする。上と下で食感も違って、こう……サンドイッチみたいな?」
「ふたつの味の層になってるからね」
「うん。私は、混ぜちゃって食べた方が好きかも。全部いっぺんに味わいたい」
「へぇー、なるほど……」
いろんな感想が飛び交って、私は少し戸惑っていた。
ひとりひとりが、違うことを言ってる。
「おいしい」って言ってくれたけど、「もうちょっとこうしたら?」って意見もいっぱい。
そのあと、私はノートを開いて、テーブルの端でメモを取り始めた。
【友達の感想メモ】
・いぶき「上の層が好き。軽くて食べやすい」
・だいご「もっとレモン感が欲しい」
・なつめ「層の食感が面白いけど、混ぜて食べたくなる」
「ねぇことり、それってなんのメモ?」
「……えっと、今日の試食会の記録。どこを直したらいいか、あとで考えるから」
「お菓子屋さんみたいだね!」とふみちゃんがうれしそうに言う。
「うまく言えないけど……みんなが違うこと言ってくれるの、ちょっと不思議だよね」
と奏汰が言った。
「うん……おいしいって言ってくれたけど、同じじゃない。人によっておいしいの中身が違うんだって、初めてちゃんと感じたかも」
片づけのあと、いぶきが私の肩をポンとたたいた。
「ねえ、次のお菓子できたら、また呼んでよ。こんどは私もなんか作って持ってくるね!」
「うん……ありがとう」
私はうれしさと、少しの悔しさをまぜこぜにしながら、ノートにこう書いた。
「おいしいはひとつじゃない。
みんなの声がヒントになる。
次は、選べる楽しさとか、もっと香りで印象に残る味を考えてみたい」
その夜、奏汰ともう一度、冷蔵庫の前で話し合った。
「次は、ベリー系のトッピングつけてみようか。見た目のインパクトもあるし」
「いいね。甘酸っぱさで、レモンとのバランスもとれるかも」
「あと、二層じゃなくて、あえて混ぜる系のケーキにもしてみたい。食べたときにひとつになるやつ」
「レア×ムースとか?」
「そうそう!」
レシピの引き出しが、またひとつ増えた気がした。
他の誰かの意見って、最初は戸惑うけど、やっぱり次のなにかの種になる。
そう思えた試食会だった。
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