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第三章:チーズの町、ミルクの風
58、初めての仕事(後半)
しおりを挟む夕暮れ時、ことりの部屋の机には、先週の産業祭りで販売したお菓子の写真や試作品のメモが広げられていた。
紙には手書きのレシピや、焼き時間、温度、味の感想が細かく書き込まれている。
奏汰がノートをのぞき込みながら言った。
「ことり、見てよ。ここの焼き時間を5分長くしたら、もう少しふんわりしそうじゃない?」
「うん、でもそうすると外側が焦げちゃうかもしれない。温度を下げるとか…」
私はペンを握りしめ、レシピに書かれた数字とにらめっこをした。
数日前の販売会で、私たちが作ったチーズケーキは、ふんわり感が足りず、少し重たく感じるという声があった。
さらに、クッキーの甘さも好みが分かれて、もっと調整が必要だということもわかった。
「味見したときはおいしいと思ったのに、どうしてかな」とつぶやく私に、奏汰は励ますように微笑む。
「失敗も含めて、これが学びなんだよ。どんなに経験豊富な職人さんでも、毎回うまくいくわけじゃない。工夫と挑戦の繰り返しだって、土屋さんも言ってた」
その言葉に、私は少し勇気が湧いた。
ノートのページをめくると、焼き加減や材料の配合、混ぜ方のコツなど、いくつかのポイントが書かれている。
特に「クリームチーズの室温調整」「卵の泡立て具合」「オーブンの温度ムラ」などは、今後の課題だと感じた。
「例えば、卵白をもっとしっかり泡立てると、もっと軽くなるかも」
奏汰が専門的な言葉で説明してくれる。
「うん、そうか。泡立て不足かもしれないね。明日、家庭科の授業で友達にも聞いてみようかな」
学校では家庭科の授業でお菓子作りを習ったことがあり、友達のいぶきも上手だった。
思い返せば、私たちが作りたいのは、ただのお菓子じゃなくて、食べる人が笑顔になれるお菓子。
「もっとおいしく作りたい」その気持ちが、焦りや失敗の中で強くなっていた。
「奏汰、次はどんなレシピに挑戦してみる?」
私は奏汰に問いかけた。
奏汰は考え込むように目を閉じてから、「もっと野菜を使ったスイーツもいいかも。ピーマンのフィナンシェみたいに、新しい味を探してみよう」と提案してくれた。
「いいね。素材の声を聞いて、レシピを自分たちでアレンジするのって楽しいかも」
私は笑顔で答え、ノートに新しいアイデアを書き足した。
ふと窓の外を見ると、隣の家の庭で遊ぶ子どもたちの笑い声が聞こえてきた。
「私たちも、いつかこの声みたいに、誰かを笑顔にできるお菓子を作りたい」
小さな決意が胸の中で膨らんだ。
「明日の家庭科で、失敗談もみんなに話してみるよ。きっとみんなも色々工夫してると思うから」
奏汰が元気よく言った。
「うん、みんなと協力すれば、もっと楽しくなりそうだね」
私は奏汰の言葉に頷き、ノートのページを閉じた。
これからも失敗を恐れず、工夫と探究を続けていこう。
友達や大人たちの支えを受けながら、私の小さな夢は、少しずつ形になっていく気がした。
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