レシピの見つけ方 〜旅するお菓子ノート〜

武内れい

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第三章:チーズの町、ミルクの風

57、初めての仕事(前半)

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 朝の空気はひんやりと冷たかったけど、私の心はドキドキで熱かった。
 今日は地元の産業祭り。
 このイベントで、私たちが作ったチーズケーキや焼き菓子を販売できることになったのだ。

「ことり、準備は大丈夫?」
 奏汰が横で大きくうなずく。
 彼も緊張しているようだけど、少し笑顔を見せてくれた。

 私たちは朝早くから、パティスリーツチヤの厨房で焼きあげたお菓子をトレイに丁寧に並べた。
 今回のメインは、「レモンとチーズの二層ケーキ」と、「バター香るクッキー」だ。
 特にクッキーは、バターの香りを引き出すために、生地を冷蔵庫で一晩寝かせるなど、時間をかけて仕込んだもの。
 薄くてサクサク、ほろっと口の中でほどける食感を目指した。

 祭り会場に到着すると、すでに多くの屋台がにぎわっている。
 色とりどりのテントや、焼きそばや地元野菜の香ばしい匂いが漂ってきた。
 私たちのブースは入口に近い場所で、ちょうど通りかかる人たちの目に留まりやすい。

「いらっしゃいませ!」
 店番の私が元気よく声を出す。
 けれど、最初は恥ずかしくて、言葉が詰まってしまった。
 でも、奏汰が隣で「大丈夫、ゆっくりでいいよ」と励ましてくれた。

 最初のお客さんは、小学生くらいの女の子とお母さん。
「わあ、いい匂い!」
 女の子が目を輝かせて言う。

「このクッキー、サクサクしてておいしいよ。バターをたっぷり使ってるんだ」
 私は説明しながら、ふたりに試食用の小さなクッキーを差し出した。

「ありがとう!」
 女の子はうれしそうに食べ、お母さんも笑顔で「こんなに丁寧に作られてるんですね」と感心してくれた。

 次から次へと人が訪れて、お客さんの表情や声を間近で感じるうちに、緊張は少しずつ溶けていった。

 けれど、楽しいだけじゃなかった。
 途中でお菓子が足りなくなりそうになったり、レジの計算ミスをしたり、
 忙しい時間帯には汗が噴き出て、手が震えた。
「すみません、少々お待ちください!」
 焦って声を張る私に、奏汰も一緒に走り回ってフォローしてくれた。

 そんなとき、隣の屋台の大人たちの動きを見て気づいた。
 彼らは長年の経験から、どんなトラブルにも慌てず、チームワークで乗り越えていた。
 一人ひとりが自分の役割を知り、責任感を持って働いている。
 その姿は、キラキラしていて、かっこよく見えた。

 お昼過ぎ、少し落ち着いた時間に休憩をとった私たち。
 テーブルでアイスクリームを食べながら、奏汰がぽつりと言った。
「大人ってすごいね。やっぱり、仕事って責任が重いんだな」

「うん、でも楽しそうでもある。お客さんが喜んでくれるの、嬉しいよね」
 私もそう思った。
 自分たちのお菓子を「おいしい」って言ってもらえる瞬間が、何よりもやりがいなんだ。

 帰り道、友達のいぶきが電話してきて、
「今日のお菓子、めっちゃ人気だったって!すごいね、ことり!」
 と言ってくれた。

「ありがとう。これからも、もっともっと頑張る!」
 私は満面の笑みで答えた。

 奏汰もにっこり笑って、
「次は、新しいレシピも持っていこう」と言った。

 今日学んだことはたくさんある。
 準備の大変さ、売ることの難しさ、そして何より、誰かのために一生懸命働くことの尊さ。
 私はまだまだだけど、もっと成長して、将来は誰かの笑顔を作り出せるお菓子職人になりたい。

 そう心に誓いながら、私はゆっくりと夜空を見上げた。
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