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第四章:祭りと畑のレシピ
75、みんなのちがい、私の気づき(前半)
しおりを挟む放課後の私の家。キッチンに面したリビングには、クッションを並べて小さなテーブルを囲んだお菓子試食会の準備が整っていた。
「ねえ、ほんとにこれ、私たちで作ったの?」
いぶきがクッキーをひとつ手に取り、半信半疑の顔をしながら私に尋ねる。
「うん。私と奏汰で、何度も試作して……」
少し緊張した声でうなずいた。
「これはピーマンのチーズクッキー。苦手な子でも食べられるように、白あんで甘さをつけて、ピーマンはペーストにして混ぜたの」
奏汰が横から補足する。
「えー!? ピーマン入ってんの? うそでしょ?」
「ちょっと怖い……けど、食べてみる!」
最初にかぶりついたのは、活発な子のひとり、あやのだった。
「……お、おいしい! なんか、あとからピーマンっぽい香りがくるけど、全然苦くない!」
私はほっと胸をなでおろした。けれど、すぐに別の子が首をかしげた。
「うーん……甘さがちょっと中途半端かも。もっとはっきりした味のほうがいいんじゃない?」
「私は好き。でも、クッキーというより、クラッカーに近いかも」
その言葉に、一瞬沈黙した。せっかく一生けんめい作ったのに、と思ってしまう自分と、真剣に聞こうとする自分がぶつかり合う。
そんなとき、奏汰がさっとノートを広げた。
「意見、メモしよう。クラッカーっぽいって感想は、たぶん油分のせいかも。ピーマンの水分量を減らしたら、もっと軽くなるかもしれない」
私もゆっくりと、手元のノートを開いた。
「……たしかに、私も今日のは少ししっとりしすぎた気がしてた。あれ、ちゃんと記録しておけばよかったね。次は焼き時間、もう少し延ばしてみようかな」
試作品はほかにも、「ミルクのほろにがプリン」「にんじんのシフォンケーキ」など三品。
にんじんシフォンには、「もう少し香りを残したほうがいいかも」という声があり、プリンには「すごくおいしいけど、ちょっと大人っぽい」と笑われた。
みんなの反応は、まるでカラフルな絵の具のようにバラバラ。でも、その違いが、私には少しずつ楽しくなっていった。
「ねえ、みんなさ、食べものの好きとか苦手って、どうやって決まるんだろうね」
ふと私の問いに、しばらく静かな間があってから、いぶきが答えた。
「うーん、たぶん、家でよく食べてるとか、昔の思い出とか……?」
「お母さんがつくるグラタンに、にんじん入っててさ。小さい頃は嫌いだったけど、だんだん好きになった!」
「私は、おばあちゃんの煮もの。にんじんいっぱい入ってたけど、やわらかくて甘くて、好きだったよ」
みんなの話を聞きながら、私はノートに〈味の記憶って、誰かとのつながり〉と小さく書いた。
試食会が終わるころには、テーブルの上の皿は空っぽ。私はキッチンで洗い物をしながら、そっとつぶやいた。
「……言ってくれて、ありがとう」
奏汰が、ふきんを手伝いながら笑う。
「最初は、ちょっと戸惑った?」
「うん、ちょっとどころじゃなかったよ……でも、うれしかった」
「これからも、いろんな人に食べてもらって、いろんな違うを集めよう」
「うん。そして、もっとおいしいに近づけたらいいね」
私のノートには、今日の感想がページいっぱいに記されていた。
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