レシピの見つけ方 〜旅するお菓子ノート〜

武内れい

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第四章:祭りと畑のレシピ

74、はじめての野菜スイーツ(後半)

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「うーん……あとちょっと、なんだけどなぁ」

 キッチンに立つ私は、オーブンの前で腕を組んでうなった。焼きあがったばかりのピーマンと白あんのフィナンシェをそっと割って、断面を観察する。ふわっとした生地の中に、刻んだピーマンの緑が淡く広がっていた。

「焼き色は悪くない。香りもいいし……でも、口に残る苦みが強すぎるかも」

 ノートにメモを書き足す。
 焼き時間16分→焦げなし。ピーマン香やや強い。白あん+ハチミツでも苦味残る。

 ピーマンとスイーツなんて、初めは信じられなかった。でも、いまは思う。「どうやったら、この素材の声をおいしいに変えられるかな」って。

 ピンポーン。
 玄関のチャイムが鳴った。

「やっほー、やっぱりキッチンにいたか」

 入ってきたのは奏汰。手には小さなタッパーと、いつもの分厚い味ノート。

「持ってきたよ。前に試したピーマンの糖煮。冷蔵庫で一晩寝かせてみた」

 さっそくひと切れ口に運ぶ。……わ、なにこれ、すごくやさしい甘さ!

「すごい。苦味がほとんど消えてる……どうやったの?」

「ピーマンを細かく刻んで、塩で軽く下処理したあと、白ワインとハチミツ、レモン果汁で煮たんだ。糖度は約55%。」

「すごい理科みたい……」

「うん、実験だよ。あと、レモンを入れると香りが立つって、家庭科で習ったろ?」

 たしかに。学校の家庭科の先生が「柑橘系は風味を引き締めてくれる」って言ってたっけ。私は目を輝かせながらメモを取る。

 キッチンのテーブルに材料を並べる。薄力粉、卵白、バター、白あん、ピーマンの糖煮、ハチミツ。奏汰が計量を担当、私は混ぜる担当。

「このバターは焦がしバターにしよう。フィナンシェって、あの香ばしさが大事なんだって」

「焦がしバターは温度が命だよ。火を入れすぎると苦くなる。だいたい150℃前後」

 ことり、温度計を握りしめながら火にかける。きつね色になる直前、香りが立ったところで火を止める。スッと立ち上るナッツのような香りに、思わず顔がほころんだ。

「成功!」

「すごい、完璧じゃん」

 卵白を泡立て、白あんと合わせて、粉をふるい入れる。そのあと、糖煮したピーマンを細かく刻んで生地に混ぜる。

「オーブンは180℃、焼き時間は……前回が16分だったけど、バター増やしたから18分にしてみようか」

「OK」

 二人で息をそろえてオーブンに入れる。
 その時間が、すごくわくわくして、どきどきして、ちょっとくすぐったい。

 焼きあがったフィナンシェを一口食べた瞬間、私は思わず声を上げた。

「……おいしい!」

「ほんと?」

「うん、これ、すごい! ピーマンの香りがちゃんと残ってるのに、甘くて、やさしい……あと味がすっきりしてる」

「バターと白あんの油分、ピーマンの糖煮の水分量、酸味のバランス、ちょうどいいかも」

「でも……もしかして、ピーマンもうちょっと大きくしてもいいかも?」

「苦味が残らないなら、その方が主役感出るね」

 ノートには、こう書き加えた。
 ピーマンの形=存在感。見た目も味の記憶。

 完成した数個のフィナンシェを、透明な袋に詰めて、リボンで留める。次の日、私は学校に持っていった。

「いぶき、昨日のスイーツ、できたんだ。食べてみる?」

「うわー、ありがとう!……え、これ、ピーマン入ってるの? え? でも、めっちゃおいしいんだけど!」

 周りの子たちが集まってきた。

「私も食べていい?」

「ピーマンって聞いたらビビったけど、これなら全然いける!」

 奏汰と目を合わせて笑い合う。いつもなら照れちゃうけど、今日はなんだか胸を張れた。

「ことり、また試作しようか」

「うん。もっといろんな野菜、スイーツにできるかも」

「その前にさ……お菓子って、やっぱり科学と魔法の真ん中にあるよね」

「うん。あと、心と手のあいだ、って気がする」

 私はノートにそっと書いた。

 ピーマンは、子どもの敵だと思ってた。でも、今は仲良し。お菓子にしてくれたから

 ページの端っこに、ピーマンのキャラクターを描き添えた。笑った顔で、フィナンシェを持ってるやつ。

「また、明日も作ろうね」

 私の声に、奏汰が「もちろん」と答えてくれた。
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