レシピの見つけ方 〜旅するお菓子ノート〜

武内れい

文字の大きさ
35 / 78
第二章:大人たちのお菓子作り

37、焼き上がりの味と改良案(前半)

しおりを挟む
 柔らかな日差しが部屋の窓から差し込み、私のリビングは明るく温かい空気に包まれていた。テーブルの上には、前回作った基本のクッキーのレシピノートと、新たに挑戦するための材料がきちんと並んでいる。

 クッキー作りをはじめたきっかけは、パティスリーツチヤで初めて買った一枚のクッキーだった。表面に薄くシュガーコーティングがかかっていて、ひとくちかじると、さくっ、ほろっとほどけるように崩れて、バターの香りがふわりと広がった。派手さはないのに、心がほどけるようなやさしい味。それが、忘れられなかった。

「あのお菓子みたいに、誰かをほっとさせるようなクッキー、自分でも作ってみたい」——そう思ったのが始まりだった。

 だから、いろんなアイデアを試す前に、まずは基本のクッキーをしっかり作れるようになろうと決めた。前回、奏汰くんと一緒にレシピを調べて、材料をそろえて、試作をしてみた。形はちょっといびつだったけれど、香りや食感は思った以上にうまくいった。母や弟も「おいしい!」と言ってくれて、自信につながった。


 そして今日は、その基本のレシピをもとに、もっと自分らしいクッキーに挑戦する日。

「今日は地元で採れたフルーツを使って、ちょっと変わったクッキーを作ってみよう」と奏汰くんが言った。手には、近くの農家で買ってきたばかりのブルーベリーと小さなリンゴがあった。

 私はうなずきながら、「このブルーベリー、すごく新鮮だね。香りもとてもいい」と指でそっと果実をつまんだ。

「そうだね。素材の味を生かしたいから、甘さは控えめにして、フルーツの自然な風味が引き立つようにしたい」と奏汰くんが説明する。

「ピューレを作って生地に混ぜるのはどう?」と私はアイデアを出すと、奏汰くんも「いいね。でも水分量が変わるから配合を調整しないと」と真剣な表情で返した。

 二人でレシピノートを広げながら、材料の重さや分量を計算し始めた。基本のクッキー生地の配合はバター80g、砂糖50g、卵1個、小麦粉120g、バニラエッセンス少々。今回は砂糖を30gに減らし、ブルーベリーのピューレを50g加える予定だ。

「よし、じゃあピューレ作りから始めよう」と奏汰くんが言い、私はブルーベリーを洗い、鍋に入れて弱火でゆっくり煮詰め始めた。つぶしながらヘラで混ぜると、甘酸っぱい香りが部屋にふんわりと広がった。

(学校での家庭科の授業を思い出すなあ。)
 私はつぶやいた。「友達のさくらも、果物のコンポート作るのが好きなんだって。次に会ったら教えてもらおうかな。」

 ピューレが程よく煮詰まったところで火を止め、粗熱を取ってから冷蔵庫で冷やす。奏汰くんは「これで水分が落ち着いて、生地に入れやすくなるはず」と話した。

 次に、生地作りに取りかかる。バターを室温に戻し、砂糖を加えてクリーム状に練る。私は「バターが柔らかいと混ぜやすいね」と感心した。

「この工程がしっかりできていないと、食感が悪くなるんだって、工場の人が教えてくれたよね」と奏汰くんも言った。

 卵を割り入れ、バニラエッセンスを数滴落とす。泡立て器でよく混ぜた後、小麦粉をふるい入れ、木べらで優しく切るように混ぜる。

「ここで混ぜすぎると、クッキーが硬くなっちゃうらしいから注意しよう」と私は声をかける。

 冷やしておいたブルーベリーのピューレを加え、生地全体に均一になるよう素早く混ぜ合わせた。

「この時点で、ちょっと生地が柔らかいかもしれない」と奏汰くんが言い、私は生地の硬さを手で触って確かめた。

「冷蔵庫で30分休ませて、成形しやすくしてみよう」と私が提案し、生地をラップに包んで冷蔵庫に入れた。

 その間、私たちは学校の話をした。私は「今日は算数の授業で分数の問題が難しかったけど、先生がわかりやすく説明してくれて助かった」と笑顔を見せる。

 奏汰くんは「僕は理科で植物の授業をやって、果物の成長について学んだよ。こういうのって、料理にもつながるよね」と話した。

「うん、そうやっていろんなことを学ぶのが楽しいよね」と私は共感した。

 冷蔵庫から生地を取り出すと、私は作業台に小麦粉を振り、生地を薄く伸ばし始めた。型抜きで星形や丸型を作りながら、「どんな形が一番フルーツの味を引き立てるかな」と考えた。

「フルーツの色がきれいに見えるように、丸型のほうがいいかも」と奏汰くんが提案してくれた。

 型抜きした生地を天板に並べ、170度のオーブンで焼き始める。部屋にフルーツの甘酸っぱい香りが漂い、私たちの期待も高まった。

 焼き上がりを待ちながら、私は「次はリンゴを使ったバージョンも作ってみたいな」と目を輝かせて言った。

 奏汰くんも「リンゴは水分が多いから、ピューレの量や砂糖の調整が大事だな」と続けた。

「そうだ、学校の友達にも食べてもらって感想を聞きたい!」私は嬉しそうに話した。

 焼きあがったクッキーは、薄く香ばしい焼き色とブルーベリーの紫が美しく混ざり合っていた。二人は一枚ずつ味見をし、香りと食感のバランスを確かめる。

「甘さ控えめだけど、フルーツの酸味がいいアクセントになっているね」と私は言うと、

「でも、生地がちょっとしっとりしすぎて、もう少しサクッと感が欲しいかも」と奏汰くんが答えた。

「次は焼き時間を少し長くしてみようか」と私が提案し、メモを取った。

 お互いの意見を尊重しながら、私たちのクッキー作りは少しずつ進んでいった。(次はもっと美味しく作れるように、工夫していこう。)そう心に誓いながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

【完結】夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで

猫都299
児童書・童話
タイムリープしたかもしれない。中学生に戻っている? 夫に愛されなかった惨めな人生をやり直せそうだ。彼を振り向かせたい。しかしタイムリープ前の夫には多くの愛人がいた。純愛信者で奥手で恋愛経験もほぼない喪女にはハードルが高過ぎる。まずは同じ土俵で向き合えるように修行しよう。この際、己の理想もかなぐり捨てる。逆ハーレムを作ってメンバーが集まったら告白する! 兄(血は繋がっていない)にも色々教えてもらおう。…………メンバーが夫しか集まらなかった。 ※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、Nolaノベル、Tales、ツギクルの6サイトに投稿しています。 ※ノベルアップ+にて不定期に進捗状況を報告しています。 ※文字数を調整した【応募版】は2026年1月3日より、Nolaノベル、ツギクル、ベリーズカフェ、野いちごに投稿中です。 ※2026.1.5に完結しました! 修正中です。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

トウシューズにはキャラメルひとつぶ

白妙スイ@1/9新刊発売
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。 小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。 あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。 隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。 莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。 バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。

処理中です...