灯びの系譜ー静寂なる闇に芽吹くもの

武内れい

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番外編:光と鎖の狭間で

13、揺れる心、支えの光(前半)

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 屋敷に通い続けて、気がつけば幾度目かの春が過ぎていた。
 私は倫と過ごす時間を大切にしてきた。彼の笑顔を見ると、少しずつ心の氷が溶けていく気がしていた。
 でも、その一方で――どうしても消えない違和感が、胸の奥にひっそりと根を張っていた。

 ある日、応接間の外の廊下を歩いていると、不意に重苦しい空気に包まれた。
 角を曲がった先で、仮面をつけた大人たちが集まって話し込んでいるのが目に入った。
 その一人ひとりが、まるで別の顔を隠しているような――私にはそう感じられた。
 冷たく計算された微笑みと、どこか獰猛な目つき。まるで仮面の裏側には、まったく別の人間が潜んでいるかのようだった。

 その集まりの中心にいたのは、ダリアンだった。
 彼の表情はいつも通り穏やかで温かかったけれど、その瞳の奥に隠された影に、私は気づかずにはいられなかった。

 そのときだった。
 誰かが廊下の向こうからやって来る気配に、私は咄嗟に身を隠そうとした。
 けれど、すれ違った瞬間、彼らの中の一人――貴族と思われる若い男性が、不意に倫に手を伸ばした。

 肩から腕へ、そして身体の線をなぞるように触れたその動作に、私は思わず息を呑んだ。
 倫は、驚くでも拒むでもなく、ただじっとその手を受け入れていた。
 彼の表情には微かな笑みが浮かんでいたけれど、それが自然なものではなく、どこか媚びるような色気を帯びていたことが、私の背筋を凍らせた。

 すぐに私はその場から離れたが、胸のざわつきは収まらなかった。
 その日以来、私は倫の様子を以前よりも注意深く見るようになった。

 ある晩、私は偶然、屋敷の隅にある倉庫の扉が半開きになっているのを見つけた。
 好奇心に駆られて中を覗くと、そこには錆びた鎖や、使い古された衣服の残骸が散らばっていた。
 薄汚れた布の端が、まるで放置されたかのように無造作に重なっていた。

 その光景は、私の胸に冷たい衝撃を与えた。
 何故、こんなものがこんな場所に――?

 問い詰めたい衝動に駆られたけれど、私は自分に言い聞かせた。
(まだ確証がない。焦ってはいけない)

 そんなある日の夕方、私は食堂で倫の姿を目にした。
 彼はいつもの席に座り、豪華な食卓に向かっていた。
 しかし、彼の足元と手首には見慣れない輝きがあった。
 薄暗い照明に照らされたそれは、金属の鎖だった。

 そして、そのすぐ隣には、華やかな衣装を纏った中年の男が寄り添い、静かに倫の足を撫でまわしていた。
 私は息を呑んだ。
 その男は、まるで倫の所有物のように振る舞っていた。

 倫は男の視線に微笑み返し、手を引くような仕草を見せた。
 しかし、その笑みにはどこか無理をしているような、ぎこちなさが感じられた。

 何かが違う――その確信は日に日に強くなっていった。

 また別の夜、私はふと廊下の奥で奇妙な光景を目にした。
 倫が四つん這いで、首に鎖をつけられて歩かされていたのだ。
 その姿は、まるで犬のようで、全裸であった。
 私は思わず目を伏せてしまったが、その目の端に映った仮面をつけた数人の大人たちは、楽しげに囁きあっていた。

 その光景が忘れられないまま、私は大広間に迷い込んだ。
 そこには、男女問わず多くの大人たちが仮面をつけ、裸に近い姿でひしめいていた。
 そして、中央に置かれたステージの上で、倫は露骨に卑猥な衣装を着せられていた。
 彼の身体は手や足、口で弄ばれており、誰もがそれを見て笑っていた。

 それは、まるで淫らな儀式のようだった。

 私は目を背けた。
 その場にいた誰もが、まるでそれが当たり前のことかのように振る舞っていた。

 そして、その中でひときわ目を引いたのは、ダリアンだった。
 彼はまるで監督者のように振る舞い、参加者たちと自然に談笑していた。
 その笑顔には、以前私が感じていた温かさは微塵もなかった。

 心の奥から怒りが込み上げてきた。
 ダリアンへの信頼が、激しく揺らいだ瞬間だった。

 その夜、私は倫に会わず、屋敷を後にした。
 外に出ると、静かな夜風が頬を撫でた。

 帰りの車の中で、グレイウォード夫妻がいつもとは違う様子で私を見つめていた。
 彼らの眼差しに何かを感じつつ、私は話すべきかどうか迷ったまま、言葉を濁してしまった。

「大丈夫、無理しなくていいよ」

 夫人の優しい言葉が胸に染みた。
 でも、私の心にはまだ決して消えない疑問と恐怖が渦巻いていた。
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