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番外編:光と鎖の狭間で
16、涙から始まる決意(後半)
しおりを挟む玄関の扉を開けた瞬間、セシリアさんの声が聞こえた。
「おかえりなさい、宮乃」
そのたった一言で、何かが決壊した。
「……っ」
堪えていた涙が、視界ににじむ。震える唇を押さえる暇もなく、私はその場に立ち尽くしたまま、声もなく泣き出してしまった。
「――宮乃?」
セシリアさんが駆け寄ってきて、何も言わず、ただ私の背中をそっと撫でてくれた。やわらかな手が私の肩に添えられ、そのまま、ぎゅっと抱きしめられる。私はもう、こらえることをやめた。
「ごめんなさい……っ、なんでもない、のに……!」
「いいの。泣いていいのよ。言葉にならないこともあるでしょう?」
セシリアさんの胸元に顔を押しつけながら、私はしばらくのあいだ、涙をこぼし続けた。
リビングのソファに腰かけると、リアンさんも何も言わず、そっと温かいお茶を差し出してくれた。二人とも、私が話し始めるまで、ただ静かにそばにいてくれた。
「……見ちゃったの。倫くんが……」
声に出すのが怖かった。でも、ここなら大丈夫だと思えた。やっとの思いで、ぽつりぽつりと言葉をこぼしはじめた。
「邸宅に通ってるうちに……変なことに、気づいてしまって……。大人たちが……仮面をつけて、倫くんに、ひどいことをしてるの。物みたいに扱って……」
手が震えて止まらない。セシリアさんがそっと私の指を包み込んでくれる。
「ダリアンさんも、見て見ぬふりをしてる。いや……たぶん、もっと深く関わってる。私、信じてたのに。雪乃と一緒に助けてくれた恩人だって……そう思ってたのに……!」
涙がまたこぼれる。けれど、今度は苦しさだけではなく、打ち明けられたことで少しだけ心が軽くなるのを感じた。
「私……許婚なんだって。倫くんの……。でも、それが彼を、あの場所に縛りつけてるのかもしれないって……思って……」
声が詰まる。言葉にした瞬間、その痛みが自分でも驚くほどに鋭く胸を刺した。
「彼は……私に縛られてるの。助けたいのに、私が枷になってるなんて……そんなの、やだ……!」
セシリアさんは、何も言わずにうなずいた。リアンさんは少しだけ顔を伏せ、そして静かに口を開いた。
「君は、見て見ぬふりをしなかった。恐ろしいことに気づいて、それを言葉にした。それだけで、どれだけ強いことか……」
リアンさんの声は、深く、穏やかだった。
「だから、君のその想いに、私たちも応えたい」
セシリアさんが優しく微笑みながら言った。
「彼を助けたい。そのために、私たちが何をすべきか、一緒に考えましょう」
「君の願いが、本物だからこそね」
リアンさんが目を細めた。
「私たちも動く。あの屋敷で何が行われているのか、エリダヴォン家の中で誰がそれに加担しているのか。――調べよう。私たちには、そのための手段がある」
私は、驚きに目を見開いた。
「本当に……?」
「もちろん」セシリアさんが笑った。
「あなたが信じてくれたから。今度は、私たちがあなたの願いを信じる番よ」
私は、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。ひとりじゃない。もう、ひとりで抱え込まなくていい。
「……ありがとう。私、絶対に……倫くんを助けたい」
ふたりは、それぞれの手で私の手を包み込み、そっと頷いてくれた。
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