灯びの系譜ー静寂なる闇に芽吹くもの

武内れい

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番外編:光と鎖の狭間で

18、その手で、守るために(後半)

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 再びエリダヴォン邸の門の前に立った私は、胸の奥で小さく震えていた。
 前回のようにただ倫に会いに来たわけじゃない。今日は、私なりの目的があるのだ。

 薄暗い曇り空の下、古い石造りの門扉は冷たく、重々しい。遠くに見える邸宅の屋根は、どこか威圧的に感じられ、私は一瞬ためらった。
 けれど、すぐに肩を正して、軽く息を吐いた。気持ちを落ち着けるために深呼吸をすると、襟元のイヤリングに触れた。
 それは、ただのアクセサリーのように見えるけれど、小型のカメラが内蔵されている。リアンさんとセシリアさんが用意してくれた、見た目には全くわからない特別なものだ。


「無理はしないで、何か一つでも得られればいいのよ」
 セシリアさんの優しい声が頭の中で繰り返され、私は強く頷いた。自分ができることを、できる範囲でやろう。そう自分に言い聞かせた。

 門のベルを押すと、重い音が邸内に響き、すぐに扉が開いた。迎えに出たダリアンは、相変わらずの優雅な笑みを浮かべている。
「ようこそ。 君が来てくれると、あの子もきっと喜ぶ」
 彼の言葉に私は少し緊張しながらも微笑み、静かに頷いた。足元の震えを見せるわけにはいかなかった。

 邸内に入ると、重厚な家具や絵画が迎えてくれる。だが私はそれらに目を奪われてはいけない。頭の中で、ここがただの美しい場所ではなく、倫が閉じ込められている世界であることを再確認した。

 応接間に案内され、すぐに倫が現れた。彼はいつも通りの優しい笑顔で、私を迎えてくれた。
「また来てくれて、ありがとう。」
 その笑顔は穏やかで、温かいけれど、どこか計算されたものにも感じられてしまい、胸が痛んだ。私は気持ちを見せまいと表情を変えず、椅子に腰掛けた。

 紅茶を口に運ぶふりをしながら、私はイヤリングのカメラに映るように自然に視線を動かし、部屋の細部を記録させる。壁の装飾、テーブルの上の置物、遠く廊下に立つ使用人の姿まで。
 すべてがこの先の証拠になるかもしれない。

 だが、怪しまれてはいけない。無理はしない。
 これは、長期戦だ。私の役目は、ここで見たことをできるだけ正確に持ち帰ること。焦らずに、冷静に。

「倫……この屋敷のこと、少しだけ教えてくれない?」
 私の声は自然に震え、緊張を隠せなかった。
「……何か、気になることでも?」

「ここへ何度も来ているけれど、まだ行ったことがない場所があることに気付いたの。せっかくだし、この屋敷のことを探検させてもらえないかなって思って。とても素敵なんだもの。」

 彼は少し間を置いて、静かに頷く。

 少しの間だけ、彼が私を案内してくれた。
 私は歩く速度を合わせ、自然に彼の横を歩いた。階段、廊下、扉の位置、影の濃さ。脳内で構造を描きながら、イヤリングのカメラは微細な動きを捉えている。

 二階への階段は重厚で、手すりは磨き込まれた大理石のようだ。
 地下室への扉は、厳重に閉ざされている。黒服の男たちが立ち番をしているのも見えた。彼らは厳しい表情で、邸宅の秘密を守っているように思えた。

 そんな中で、倉庫の扉がわずかに開いているのに気づいた。
 一瞬ためらったが、誰の視線も感じないことを確かめ、さりげなく中を覗き込んだ。

 中には埃をかぶった古びた家具が乱雑に積まれている。
 天井からは錆びた鎖がぶら下がり、床には古い布切れが散らばっていた。
 そこにはうっすらと血の跡のようなものもあった。

 私は息を呑み、身体の震えを押さえつつ、イヤリングのカメラが確実にその光景を映していることを信じて、じっと見つめた。

 私の心は折れそうになる。
 けれど、ここで無理は禁物だ。何も知らずに突然の行動を取れば、自分も倫も危険に晒されてしまう。

 証拠は少しずつ、慎重に集めればいい。焦らず、できるだけ長くこの場所にいるために、私はいつも通りに振る舞った。

「ありがとう、倫。今日は屋敷を案内してくれて」
 その言葉に彼は静かに微笑み返した。
 その笑顔が本物でありますように、と願わずにはいられなかった。

 邸宅を後にする足取りは重かったが、心の中には確かな決意が芽生えていた。

 この場所に真実を掘り起こし、倫を守るために、私は戦わなければならないのだと。
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