【第2部開始】ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

月森かれん

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第1部 第2章 供物問題解決編

31話 交渉

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 途中、港町コルタルで1泊して、さらに1日歩き、ようやくルオーロに辿り着いた。
 白夜のせいで時間の間隔が鈍ってきている。 

 ルオーロは不思議な町だった。
家の造りや露天の立ち並ぶ広場の賑やかさでは繁栄都市そのものなのに、
どこかピンとした空気が張りつめている。

 これからどうするのか不安で辺りを見回していると、
ジェイドさんが穏やかな声で言った。

 「事前に手紙を出しておいたんだ。使者が待ってくれているはずだから……」

 ジェイドさんがキョロキョロと周りを見わたすと、ハッとして手を上げた。
 彼の視線の先を見ると、街中だというのに全身銀色の鎧に身を固めた騎士が教会の前に堂々と立っている。

 「ジェイド・カントナー氏だな?話は伺っている。案内しよう」

 「ああ。頼むよ」

 私たちは使者の案内で、行政区にある応接室に通された。

 扉の向こうには、黒いマントを羽織った数名の高官たちが並んでいる。
応対してくれるのは、その中でも白髪まじりの男性だった。

 「ホワイトドラゴンが……復活したと聞いているが?」

 「はい。現地で会ってきました。これがその証拠です」

 私は革の包みを開け、中からラディウスの鱗を取り出した。
光を反射して虹色に輝くそれに、場の空気が一変する。

 「確かに、竜の鱗だ。しかも新しい。
これは……まさか、本当に?」

 「間違いありません。本人から直接受け取りました」

 しばらく沈黙が流れた後、別の役人が口を開いた。

 「供物を用意すれば、再び暴れ出すことはないのだな?」

 「はい。ただ、ドラゴンは脅してきたわけではありません。
周囲の竜を抑える対価として、静かに暮らしたいだけです」

 「ふむ……。だとしても、物資の提供は王都にとっても負担だ」

 「要求は控えめでした。肉と、酒だけです」

 「……少なすぎる。逆に不気味だ」

 高官たちはヒソヒソと相談を始めた。
 数分後、白髪の男性が改めてこちらを向く。

 「供物の件、承認しよう。ただし――」

 そこで一拍、わざとらしく間を取った。

 「――我らは“運搬”のみを担う。届けるのは、そなたたちの役目とせよ」

 「なんですって!? 責任を押しつけるつもりですか!?」

 ジェイドさんが立ち上がり、机を叩いた。 
だけど、白髪の男は涼しい顔で返す。

 「責任ではなく、役割だ。ホワイトドラゴンがこちらに来るより、よほど安全であろう?」

 「それは……」

 ジェイドさんが押し黙る。彼らの言い分も、もっともだ。
ラディウスが毎回ここまで来ていたら、間違いなく街中がパニックに陥る。
それなら面識のある私たちが運んだ方がいい。

 「わかりました。運搬の責は、私たちが担います」

 私がそう言うと、ジェイドさんは肩を落として座りなおす。

 「やっぱり、あの竜の信頼は君にしか得られないってわけか……」

 「……ありがとうございます、ジェイドさん」

 そのやりとりを静かに見守っていた高官の一人が、少しだけ表情を和らげた。

 「では、今後の詳細については別途書面で送る。我らが取れるのは、そこまでだ」

 応接室を出たあと、ジェイドさんがため息をついた。

 「まったく……損な役回りばかりだな、俺たちは。
  シーラちゃんも俺たちの宿屋に住み込みになってしまうし……」

 「気にしてません!楽しみですから!
  それに、ラディウスが暴れないなら、届ける役割もいいと思いませんか?」

 そう言うと、彼は肩をすくめて笑った。

 「まぁ、そうだな。それに交渉決裂にはならなかったから、じゅうぶんだ。」

 「はいっ!」

 「じゃあ、買い物してから帰ろうか。せっかくルオーロまで来たんだからな。
そうだ、シーラちゃんも何か1つ買っていいよ」
 
 「え?いえいえ、大丈夫です!お小遣いありますし!」

 これから毎日お世話になるのに、そんな図々しいことなんてできない。 
 だけど、ジェイドさんは引かなかった。

 結局、彼の押しに負けて、白い肩掛けポーチを買ってもらった。

 旅先で使うには少し可愛すぎるかもしれないけど、大切にしよう!
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