命乞いから始まる魔族配下生活

月森かれん

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第1部 魔族配下編 第1章

サンドバッグにされかける

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 俺は真っ白な空間に立っていた。

 (ああ、またか……)

 ここに来るのは3度目だ。最初は仲間達と会った直後、2回目は町のようなものが見えたところで
魔王に叩き起こされた。

 「今回はどうなるんだ?」
  

 しばらく歩くと平坦な影が見えた。どうやら町のようだ。

 「前と同じ場所か。行けるところまで行ってみよう」

 町の中に足を踏み込んだ俺は絶句した。何かに襲撃を受けたようで
ガレキの山がそこかしこにあったからだ。

 「なんだよコレ……。それにまだキズが新しい……」

 襲撃した奴等が町にいる可能性が高い。
周囲を警戒しながら慎重に進む。

 (生き延びている人はいないのか?1人でもいたら何があった聞けるのに)

 その時、数十メートル先で砂利を踏む音がした。
俺は急いで近くのガレキに身を隠す。

 (思ったより早かった。何のモンスターだ?)

 影から少しだけ顔を出して相手の姿を確認した俺は息をのんだ。
 数十メートル先にいたのはアリーシャ達だったからだ。

 (な、何で……)

 そのまま様子を伺っていると不意にフローが振り向いた。 
目に光がなく、とても冷たい表情だ。

 (ヤベ、バレた⁉)

 急いで動こうとしたが足が地面から離れない。拘束魔法でも使われたようだ。
 フローに続いてアリーシャとザルドもこちらへ向かって来る。

 (みんな目に光がない。誰かにコントロールされているのか?)

 「ま、待ってくれ!何があったんだ?」

 ダメ元でみんなに声をかけてみる。やはり表情は変わらず
そのまま俺の目の前に立った。全員の姿を見て俺は違和感を覚える。

 (防具は一緒だけど、武器が違う)
 
 ザルドは槍ではなくモーニングスターだし、アリーシャはメイスの代わりに短剣を装備していた。
フローは鞭を腰から下げている。いつもの杖は持っていないようだ。

 (職業変えたのか?いや、そうなら防具も変わるはずだ)

 「ハッ⁉」
 
 顔に影が落ちる。ザルドがモーニングスターを高く上げていた。

 (叩く気か⁉せめてこの町を破壊したのかどうかだけは確かめたい!)

 「ザルド達がこの町を襲ったのか?」

 答えは返ってこず、ザルドは武器を躊躇なく俺に振り下ろした。







 「うわああぁッ!!」

 勢いよくベッドから起き上がった。汗が全身を伝う。

 「ゆ、夢?だけど……」

 (俺が魔族に寝返ったから?だからザルド達から……)

 夢だとわかってはいるものの、落ち着かない。
夢で片付けてはいけないような気がする。

 「それにここに来てから毎日見てる。何かの暗示なのか?」

 考えても答えは出ない。
ひとまずベッドから降りた。

 (あ、そうか。今日は休みをもらったんだったっけ)

 二度あることは三度あるとも言うから、また魔王に叩き起こされるのではないかと少し身構えていた。
無いなら無いで少し寂しい気がする。
 
 (やる事がムチャクチャだけど加減してくれてるんだよな、魔王は。
 それに想像してたより怖くないというか優しいし……本当に魔王だよな?)

 思わず疑うが、対峙した時の強さは本物だった。一瞬で俺以外が戦闘不能になったのだから。
 もしかしたらだんだん厳しくなるタイプなのかもしれないが、今の所は大丈夫そうだ。
 休みをもらったとはいえ、ここに来てした事といえば廊下掃除ぐらいだ。
 
 (2日目は探索だったからな。魔王付きで)

 「今日は自力で探索に行こう。よくわかってないしな」

 軽く体を伸ばしてから身支度を整える。

 「剣は……どうしよう」

 今俺が着ているのは何の変哲もない布の服だ。初日に渡された物で、おそらく村人が着ているのと同じやつだろう。
 ここに乗り込んだ時の装備品は部屋に置いていた。手入れはしているが、
魔族に従うようになってからは1度も身に着けていない。なぜか没収されなかったのだ。

 「でも、持ってたら何か言われるしな。
やめとくか」

 何も持たずに部屋を出ると周囲を見回す。

 「そもそもここ、どこだ?」

 今までは、ほぼデュークさんについて行っていただけなので、内部の造りを全く把握できていない。

 近くの、穴だけが開けられた窓から外を見る。少なくとも
1階ではない。2階以上だということはわかった。

 (でも裏の建物ではない事は明らかだな。表のどこか。
 部屋の造りも古いし、空き部屋に入れられたんだろうな。
 乗り込んだ時はどうだったっけ?)
 
 ただ魔王の討伐のみを目標としていたので、どのように進んだかなんて覚えていなかった。

 歩き回って下に降りる階段を見つけた。
迷わず降りると先程までと同じ景色が広がっていた。

 (さっきと変わらないな。2階か1階か?)

 石造りの城内も穴だけの窓も変わっていない。
強いて言えば壁や床のヒビ割れが酷くなっているぐらいだ。
 とりあえず歩き始める。

 (ん?でも何かが……)

 穴の前を通る時に外を見ていると見え方が違う気がする。
 地面の間から生えている雑草が目立っている。
 
 (階段を降りる前は雑草なんてなかった気が……)

 「おい!下僕!」

 凛々しい声に振り返ると杖を背負った女が立っていた。
グレーの肌、顔や手の模様、どう見ても魔族だ。

 「お、俺?」

 「そうだ!お前以外に誰がいる⁉ついて来い!」

 「でも今日は――」

 「黙れ!下僕に拒否権は無い!」

 女に首根っこを掴まれて強制的に引きずられる。

 (むちゃくちゃだなこの魔族ひと⁉)




 

 「あのー」

 「おし、着いたぞ!」
 
 女はそう言って俺を地面に落とした。とっさに手をついたため全身打撲は免れたが、
手のひらが砂利で擦り切れた。

 (地味に痛てぇ……)

 顔を上げると一面荒れ地だった。草1本も生えていない。
 城の内部だとは思うがこの辺りは手入れされていないのかもしれない。

 「な、何をさせる気ですか?」

 「ん?アタシのサンドバッグ」

 「はい⁉」

 (サンドバッグ⁉聞き間違えじゃないよな⁉)

 驚いていると不思議そうに女が口を開いた。

 「え、だって魔王からコキ使っていいって言われたからさ。ニンゲンが魔族につくなんて初めてだし、いろいろ試そうと思って。
 その辺のモンスターじゃ相手にならないし、部下もすぐに
へバるからな。アタシの魔法に耐えきれるヤツが少ないんだ」

 (やっぱり魔法使いか……杖持ってるしな)

 「おし、早速始めるぞ!立て!下僕!」

 「え、ちょ、待っ――」

 「バーニングトルネード‼」

 止める間もなく女が魔法を放ってきた。魔法には詳しくないが威力が高いのは見てわかる。
 俺はどうにか立ち上がると迫ってくる炎の竜巻を避ける。
直撃は免れたが、服の袖や裾が焦げた。

 「熱ッ」

 (あ、危ねぇ……)

 「へぇ、やるじゃないか!半身は丸焦げかと思ったのに」

 「危うくそうなるところでした!」

 抗議すると女はニッコリと笑った。明らかに嬉しそうだ。

 「じゃ、まだまだ耐えれるな?」

 「え⁉」

 「インフェルノバズーカ‼」

 「おわあぁぁッ⁉」

 走り回ってどうにか炎の筋を避ける。

 (熱ッ!火魔法の使い手か!剣持ってくれば良かった)

 魔法使いになると火・水・雷・土の4つの属性を扱える。
全属性扱えるのだが、個人によって偏りが出るようで1つだけ威力が高いのが一般的だ。
 人間だけかと思ったが魔族にも当てはまるようだ。

 (フローは水魔法が得意だったな。もしこの人と戦ったらフローが勝ちそうだ)

 「ほら、止まるな!ドラゴニックボルケイノ‼」

 俺は情けない声を出しながら逃げ回る事しかできなかった。さらに数発魔法を放ったあと、
女は満足したようでニコニコしながら肩で息をしている俺を見ている。

 「全部避けるとはな~。逃げ足だけは早いのか?」

 「………ま、まぁ……………」

 (体力には自信あるんなけどな。まさかここまで走り回る事になるとは……。
 そういやまだ名乗ってなかったな。相手の名前も知れるし言っとこう)

 「……俺、モトユウって言います。名前を知っときたいんですけど……」

 「アタシのか?……お前から名乗ったし特別に教えてやる。
アパシリアだ」

 アパリシアさんはそう言った後大きく体を伸ばしてから口を開いた。

 「あー、久々に魔法連発して腹が減ったなー。
肉か何か食いたいなー」

 俺をチラチラ見ながらわざとらしく言う。
どう考えても獲って来いと言われているようだ。

 (めんどくせぇ……。そういや、俺も昨日から何も口にしてなかったな)

 だか、不思議と空腹感や脱力感はなかった。
至って元気だが、この機会に食べておくのもいいかもしれない。

 「と、取ってきますんで待っててください。
……どのぐらい食べます?」

 「女に食事の量聞くなよ!お前のセンスに任せる!」

 「は、はぁ……」

 (肉の塊100個って言われるよりはマシなのか……)

 俺の気持ちなど気にも止めずアパリシアさんは笑顔で口を開く。

 「30分以内な!」

 「間に合うように努力します……」

 (間に合う自信がねぇ)

 俺は深いため息を吐くとその場を後にした。
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