命乞いから始まる魔族配下生活

月森かれん

文字の大きさ
14 / 93
第1部 魔族配下編 第1章

思っきり脅される

しおりを挟む
 しばらくの間、室内が静寂に包まれる。
 俺の場合はなんて返したらいいのかわからなくなってしまっただけだが、テナシテさんは眉を寄せて何か考えていた。
引っかかることでもあるのだろうか。
 
 (なんか話題……そうだ!)

 俺の心の声を聞いたテナシテさんが顔を上げる。

 「そういえば、能力をスゴイって言ってもらえたの 
俺で2人目って言ってましたけど……」

 「……1人目は魔王様です」

 「え⁉魔王さん⁉」

 驚くとテナシテさんが眉をひそめた。
どうやら不快に思ったようだ。

 「い、いや、魔王さんが褒めるところ見たことないんで、ビックリしてしまいました。
すみません……」

 「そうですね。魔王様がお褒めの言葉を言うのは稀です。最近来たばかりのあなたなら
聞いた事もないでしょうね」

 慌てて弁解したもののまだ機嫌は良くなっていないみたいだ。

 (気を悪くさせるつもりなんてなかったのにな。
どうしたらいいんだ?)

 「あ、あの……」

 「フフフッ」

 戸惑っているとテナシテさんが小さく笑った。
わけがわからないまま彼を見る。

 「すみません、少しからかいました。
機嫌悪くなっていませんよ」

 「え……」

 「魔王様が変わっている方だと仰っていたので試しました」

 「意外に性格悪いですか?」

 「そうですね。良いとは言えません」

  (あっさり認めた⁉
 でも焦った……。このまま良くならなかったら
どうしようかと思った)

 安心して息を吐くとテナシテさんがまた笑う。

 「あなたは面白い方ですね」

 「え……あっ!」

  (そうだった!心を読めるんだった!)

 「はい。よく考え事をするタイプのようですね」

 「ハハ……そうなんですよ」

 「………………」

 乾いた笑い方をする俺をテナシテさんはどこか微笑ましそうに見ていた。
 ふと、疑問が思い浮かぶ。

 「あ、1つ聞きたいことがあるんですけど」

 「何でしょうか?」

 「デュークさんのこと、どう思います?」

 「どう、とは?人柄でしょうか?」

 「まぁ……」

 デュークさんの事だから裏はないとは思うが、
イマイチ信用できていない。せっかく心を読めるというのだから、聞いておきたかったのだ。
 テナシテさんは考え込んでから口を開く。

 「そうですねえ、彼の心は真っ白なので裏表のない方だとは思います。
いろいろ気遣ってもらってますし」

 「真っ白⁉考えが読めないってことですか?」

 「はい。ですが、真っ白なのはいい事なんですよ。
本心で話しているという証拠ですから」

 「………………………」

 (最初の方に「全部本心」だって言ってたな。
テナシテさんまで言うのなら間違いないか)

 デュークさんに裏がないようで安心した。
あったら逆に怖いが。

 「でも心が読めるんなら、多くの魔族からアイツの心を読んでくれとか頼まれないんですか?」
 
 「ありませんね。私の存在を知っている人が少ないですし、能力については魔王様とあなたしか知りません。
 もしかしたらデュークさんは感づいているかもしれませんが」

 「……俺知って良かったんですか?」

 「フフフ、そうしたらあなたはさらに帰れなくなりますからね」

 「え」

 ゆっくりとテナシテさんを見ると薄い笑みを浮かべている。
意図がわからない。

 「冗談です。
 それと、1つ教えていただきたいことがあります」

 「はい……」

 「どうして降伏したのですか?」

 ここに来てから2度目の質問だ。どうも魔族にとってニンゲンを配下に加えるというのは初めてらしいし、
聞かれるのは仕方のないことなのだが、こうも短い期間に何度も尋ねられると少しウンザリする。
 それに自分で決めたこととはいえ、理由を話すのは辛い。

 (死にたくなかったからです)

 「……………嘘でしょう?まさかそんな……」

 「本当です」

 (俺は自分が助かりたいがために仲間を見捨てました。
「教会送り」になるのが嫌だったんです)

 「……………………………………………」

 言葉と心で訴えるとテナシテさんは頭を抱えてしまった。
呆れているのだろうか。それとも失望したのだろうか。
 しかし、ほどなくして彼の体が小刻みに揺れ始めた。

 「……フ、フフフフフフフフッ」

 (わ、笑ってる⁉怖ぇ⁉)
 
 狂気じみた笑い方に恐怖を覚えて身震いする。するとテナシテさんが顔を上げて俺を見た。
目を閉じているせいでよけいに怖い。

 「フフ、そう怯えないでください。笑っているだけですから。
 あなたはもしかしたら、とんでもないニンゲンかもしれないと思いましてね」

 「やっぱ俺、最低なヤツですよね……」

 「フフフフフ、違います。
なるほど、魔王様の仰っていたことが理解できました。フフフ」

 「え?」

 (俺の行動に呆れてたんじゃないのか?)

 わけがわからないまま見ているとテナシテさんが笑うのをやめた。
落ち着きを降り戻したようだ。

 「ふぅ……失礼しました。
 呆れていませんよ。確かにニンゲンからすれば最低な行動なのでしょう。
ですが、魔族間ではなんてことありません。
仲間を見捨てるなんて日常茶飯事です」

 「俺が魔族っぽい行動したから笑ったんですか?」

 「いいえ。理由はまだ話せませんが、
あなたの行動がおかしくて笑ったわけではありません」

 「気になるんですけど……」

 「もう少し待ってください。
話す時がきたら話しますから」

 まだ食い下がろうかと思ったが、そう言われると気持ちが薄れる。
いずれ話すと言っているのだから待つしかない。

 「わかりました。
 あ、もし良かったらですけど、時々こうやって
訪ねてもいいですか?」

 そう言うとテナシテさんが固まった。予想外だったようだ。

 「構いませんが……なぜ?」

 「ずっと1人っていうのも辛いでしょうし……。嫌だったら断ってもらっていいんで」

 「……嫌ではありませんよ。わかりました。訪ねてくる時はドアを6回ノックしてください。
そうしたらロックを解除しますから」

 「ろ、6回⁉」

 (多くないか?デュークさんは4回だった気が……)

 「『モトユウです』で、6回です。
4回だとデュークさんと被ります」

 「な、なるほど……」

 (やっぱりノックの回数は意味があったんだな)

 そう思っているとテナシテさんがイスから立ち上がって俺の真正面に立った。
自然と体がこわばる。

 「あと、1つ忠告しておきます」

 「はい?」

 「魔王様を悲しませたら許しませんから」
 
 「へ?」

 (悲しませる?裏切るとかそういうことか?)

 やはり目は閉じたままだが、声の低さや顔つきは
真剣そのもので、冗談ではないことがうかがえる。

 「ええ。悲しませたのがわかった後、私を訪れた時に部屋から出しません。
絶対に」

 「今さら裏切りませんよ……」

 「…………………………」

 テナシテさんは眉をしかめたまま俺を見つめている。
しかし諦めたように息を吐くとイスに座った。
 
 「そうですか……」

 「はい。お、お邪魔しました……」

 (最後のアレ、脅しだよな?なんかどっと疲れが――)

 複雜な気分で部屋を出た俺は固まる。
 目の前に魔王が立っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...