命乞いから始まる魔族配下生活

月森かれん

文字の大きさ
52 / 93
第2章

デュークと語る

しおりを挟む
 「全く眠れなかった……」

 ダルい体を起こす。
 床にざこ寝したこともそうだが、魔王の新情報と大規模決戦のインパクトが
強すぎて頭が冴えてしまったのだ。
 大きくため息をついてから対立について考える。

 (他の冒険者パーティを「教会送り」にしたり、町を壊滅させてたりしてるからイイヤツラとは言えない。
 でも人間だって悪いことをするヤツラいるしな……) 

 こう考え出すとキリがないのはわかっているが、止まらない。
 
 (話は通じるんだから、せめて対立を止めることはできないのか?その場合会談になるけど、
場所、代表者はどうなる?それに話し合う前に攻撃が始まる可能性も高い)

 「やっぱ厳しいか……」

 魔族・魔王は人間に害を与える存在だから討伐せよと訓練所や教会の人達に何度も言われてきた。
当時は何も思わなかったが、今考えると一種の洗脳だったのかもしれない。

 (今、俺がここに居れるのは、だ。似たような性格の冒険者なら話を聞いてくれるかもしれないけど。
そもそも俺みたいな人いるのか?)

 かなり少数だと思う。仮に会談が確定して代表者が俺だったとしても、みんなに「隙を見て殺せ」と言われるかもしれない。
だが、俺に魔王を殺すことはできない。

 「って、何を考えてるんだろうな俺は……」

 「ホ~ント、真剣に考え込んじゃってさ~」

 (え゛⁉)

 カクカクとした動作で左を向くと、デュークさんがニヤニヤしながら俺を見ていた。
慌てて反対方向にのけぞる。

 「おわぁッ⁉」

 (い、いつからいたんだ⁉)

 「ヤッホ~、モトユウちゃん。そんなにビビらなくてもよくな~い?」

 「気配もなく隣にいたらビビりますよ⁉」

 「ヒハハハッ、何回か声かけたぜ~?でもモトユウちゃん無反応なんだもん」

 今日はデュークさんの用事に付き合うことになっている。いつも通り俺を起こしに来たが、
無反応だったのでビックリさせようと考えたらしい。

 「で、何をそんなに考えてたのさ~?」

 「えっと……」

 「まぁ、ムリに言わなくてもいいけど。
 アレだろ~?また何か知って引きずってるとかそんなんだろ?」

 (理由当てるのかよ⁉バケモノか⁉)

 ここまできたら誤魔化しはきかない。機嫌を悪くするのも嫌なので昨日あったことを話すと、デュークさんは盛大に
笑い出した。

 「ヒハハハハハハハハッ‼
だ~から言ったじゃん。どっちにつくか考えておいた方がいいってさ~」

 「まさかこんなに早く来るとは思ってなくて。魔王さん、長くても半年以内だとほ言ってましたけど」

 「へー。じゃあ明日だったら?」

 「明日⁉」

 ビックリして声が裏返ったが可能性はゼロではない。

 「まだモトユウちゃんが決めていないときに起こったら、にでも隠れてな」

 「巻き込まれないような場所……」

 (地下か?)

 ドーワ族の工房なら、地面がえぐれるほどの魔法でも使われない限り表に現れることはないだろう。
隠れるとしたらそこになりそうだ。
  
 (参加する資格ないし……)

 「そういえばモトユウちゃん、コレどうすんの~?」

 少し離れたところからデュークさんの声がした。相変わらず素早い。
そして指さしている先を見ると肉の塊が視界に映るが、腐敗して変色しており、とても食べられそうにない。

 (あ、忘れてた)

 ここ数日、何かと忙しかった。肉の存在を認識したと同時に強烈な臭いが鼻に入り込んでくる。
腕で鼻を覆いながら塊の前に立ったが、この状態でも隙間から臭うのに
デュークさんは鼻を覆っていなかった。特殊な感覚なのだろうか。

 「もう食べられないですよね……」

 「しっかり焼いたらギリイケるんじゃない~?俺はここまで腐らせたことないからわかんないけど~」

 (でも1個は食べないと。昨日食ってないしな)

 次にテナシテさんに会ったら間違いなくサンプルを採られる。それよりは
コレを食べた方がマシだと思った。

 「1個は念入りに焼いてから食べますけど、残りが……」

 「マジで⁉コレ食うの~⁉」

 (焼いたらギリイケるかもって言ったじゃん……)

 心の中で文句を言っている俺のことなど気にも止めず、デュークさんは慣れた手付きで肉をロープでまとめると、
なんと窓から投げ捨てた。

 「とんでけ~!」

 「ちょっ⁉何してるんですか⁉」

 「外のモンスターにオスソワケ。大丈夫大丈夫、アイツラは頑丈だから多少腐ってても気にせず食うと思うぜ~。
 あ、ちゃんと1個残しといたからなー」

 「あ、ありがとうございます……」

 複雑な気持ちでお礼を言う。俺では処分できないのでモンスターに食べてもらうしかないのだが、
食中毒を起こして殺してしまったら大変だ。
モンスターの耐性が強いことを願う。

 (でもデュークさんが言うなら大丈夫か……)

 残してもらった肉を室内に放置されていたボロキレで包んだが、それでも臭いは鼻に届く。

 (う、やっぱキツい。最悪、腹壊すなコレ)

 「調理場に行かないと」

 「あ~、そう言えば案内するって結局そのままだったな~。場所わかる~?」

 「オネットに教えてもらいました」

 「へ~、オネットちゃんに?」

 調理場に向かう道中でドーワ族に会えたこと、プラティヌ鉱を採ってこなければならないことを話した。

 「な~るほど。噂は聞いてたけど、さすがはドーワ族ってとこか。
で、採取を手伝ったらいいんだろ~」

 「すみません、お願いします」

 「別に謝ることじゃないって~。俺も好きでやってんだし」

 「そうなんですか⁉」

 「そうなんですよ~。ヒマだから~」

 (最近はヒマなのか?それとも最初に言ってた「ヒマじゃない」が嘘だったのか?)

 忙しさが変わったのかもしれない。深く考えないようにした。
 調理場で念入りに肉を焼いて食べ終える。とても言葉では表現できない味だったが、どうにか腹に落ち着いた。
あとは腹を壊さないことを祈るしかない。

 (口の中が気持ち悪い)

 「モトユウちゃん度胸ある~!ホントに喰っちゃうなんてさ~」

 「食べてなくて、あることをされるよりはマシなんで……」

 「よっぽど嫌なんだな~、ソレ」

 あることがサンプルを採られることだとは気づいていないらしい。
デュークさんは同情するような顔で言うと俺の腕を掴む。  

 「さ~て、行きますか!モトユウちゃん!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

処理中です...