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第2章
デュークと語る
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「全く眠れなかった……」
ダルい体を起こす。
床にざこ寝したこともそうだが、魔王の新情報と大規模決戦のインパクトが
強すぎて頭が冴えてしまったのだ。
大きくため息をついてから対立について考える。
(他の冒険者パーティを「教会送り」にしたり、町を壊滅させてたりしてるからイイヤツラとは言えない。
でも人間だって悪いことをするヤツラいるしな……)
こう考え出すとキリがないのはわかっているが、止まらない。
(話は通じるんだから、せめて対立を止めることはできないのか?その場合会談になるけど、
場所、代表者はどうなる?それに話し合う前に攻撃が始まる可能性も高い)
「やっぱ厳しいか……」
魔族・魔王は人間に害を与える存在だから討伐せよと訓練所や教会の人達に何度も言われてきた。
当時は何も思わなかったが、今考えると一種の洗脳だったのかもしれない。
(今、俺がここに居れるのは、俺だからだ。似たような性格の冒険者なら話を聞いてくれるかもしれないけど。
そもそも俺みたいな人いるのか?)
かなり少数だと思う。仮に会談が確定して代表者が俺だったとしても、みんなに「隙を見て殺せ」と言われるかもしれない。
だが、俺に魔王を殺すことはできない。
「って、何を考えてるんだろうな俺は……」
「ホ~ント、真剣に考え込んじゃってさ~」
(え゛⁉)
カクカクとした動作で左を向くと、デュークさんがニヤニヤしながら俺を見ていた。
慌てて反対方向にのけぞる。
「おわぁッ⁉」
(い、いつからいたんだ⁉)
「ヤッホ~、モトユウちゃん。そんなにビビらなくてもよくな~い?」
「気配もなく隣にいたらビビりますよ⁉」
「ヒハハハッ、何回か声かけたぜ~?でもモトユウちゃん無反応なんだもん」
今日はデュークさんの用事に付き合うことになっている。いつも通り俺を起こしに来たが、
無反応だったのでビックリさせようと考えたらしい。
「で、何をそんなに考えてたのさ~?」
「えっと……」
「まぁ、ムリに言わなくてもいいけど。
アレだろ~?また何か知って引きずってるとかそんなんだろ?」
(理由当てるのかよ⁉バケモノか⁉)
ここまできたら誤魔化しはきかない。機嫌を悪くするのも嫌なので昨日あったことを話すと、デュークさんは盛大に
笑い出した。
「ヒハハハハハハハハッ‼
だ~から言ったじゃん。どっちにつくか考えておいた方がいいってさ~」
「まさかこんなに早く来るとは思ってなくて。魔王さん、長くても半年以内だとほ言ってましたけど」
「へー。じゃあ明日だったら?」
「明日⁉」
ビックリして声が裏返ったが可能性はゼロではない。
「まだモトユウちゃんが決めていないときに起こったら、戦いに巻き込まれないような所にでも隠れてな」
「巻き込まれないような場所……」
(地下か?)
ドーワ族の工房なら、地面がえぐれるほどの魔法でも使われない限り表に現れることはないだろう。
隠れるとしたらそこになりそうだ。
(参加する資格ないし……)
「そういえばモトユウちゃん、コレどうすんの~?」
少し離れたところからデュークさんの声がした。相変わらず素早い。
そして指さしている先を見ると肉の塊が視界に映るが、腐敗して変色しており、とても食べられそうにない。
(あ、忘れてた)
ここ数日、何かと忙しかった。肉の存在を認識したと同時に強烈な臭いが鼻に入り込んでくる。
腕で鼻を覆いながら塊の前に立ったが、この状態でも隙間から臭うのに
デュークさんは鼻を覆っていなかった。特殊な感覚なのだろうか。
「もう食べられないですよね……」
「しっかり焼いたらギリイケるんじゃない~?俺はここまで腐らせたことないからわかんないけど~」
(でも1個は食べないと。昨日食ってないしな)
次にテナシテさんに会ったら間違いなくサンプルを採られる。それよりは
コレを食べた方がマシだと思った。
「1個は念入りに焼いてから食べますけど、残りが……」
「マジで⁉コレ食うの~⁉」
(焼いたらギリイケるかもって言ったじゃん……)
心の中で文句を言っている俺のことなど気にも止めず、デュークさんは慣れた手付きで肉をロープでまとめると、
なんと窓から投げ捨てた。
「とんでけ~!」
「ちょっ⁉何してるんですか⁉」
「外のモンスターにオスソワケ。大丈夫大丈夫、アイツラは頑丈だから多少腐ってても気にせず食うと思うぜ~。
あ、ちゃんと1個残しといたからなー」
「あ、ありがとうございます……」
複雑な気持ちでお礼を言う。俺では処分できないのでモンスターに食べてもらうしかないのだが、
食中毒を起こして殺してしまったら大変だ。
モンスターの耐性が強いことを願う。
(でもデュークさんが言うなら大丈夫か……)
残してもらった肉を室内に放置されていたボロキレで包んだが、それでも臭いは鼻に届く。
(う、やっぱキツい。最悪、腹壊すなコレ)
「調理場に行かないと」
「あ~、そう言えば案内するって結局そのままだったな~。場所わかる~?」
「オネットに教えてもらいました」
「へ~、オネットちゃんに?」
調理場に向かう道中でドーワ族に会えたこと、プラティヌ鉱を採ってこなければならないことを話した。
「な~るほど。噂は聞いてたけど、さすがはドーワ族ってとこか。
で、採取を手伝ったらいいんだろ~」
「すみません、お願いします」
「別に謝ることじゃないって~。俺も好きでやってんだし」
「そうなんですか⁉」
「そうなんですよ~。ヒマだから~」
(最近はヒマなのか?それとも最初に言ってた「ヒマじゃない」が嘘だったのか?)
忙しさが変わったのかもしれない。深く考えないようにした。
調理場で念入りに肉を焼いて食べ終える。とても言葉では表現できない味だったが、どうにか腹に落ち着いた。
あとは腹を壊さないことを祈るしかない。
(口の中が気持ち悪い)
「モトユウちゃん度胸ある~!ホントに喰っちゃうなんてさ~」
「食べてなくて、あることをされるよりはマシなんで……」
「よっぽど嫌なんだな~、ソレ」
あることがサンプルを採られることだとは気づいていないらしい。
デュークさんは同情するような顔で言うと俺の腕を掴む。
「さ~て、行きますか!モトユウちゃん!」
ダルい体を起こす。
床にざこ寝したこともそうだが、魔王の新情報と大規模決戦のインパクトが
強すぎて頭が冴えてしまったのだ。
大きくため息をついてから対立について考える。
(他の冒険者パーティを「教会送り」にしたり、町を壊滅させてたりしてるからイイヤツラとは言えない。
でも人間だって悪いことをするヤツラいるしな……)
こう考え出すとキリがないのはわかっているが、止まらない。
(話は通じるんだから、せめて対立を止めることはできないのか?その場合会談になるけど、
場所、代表者はどうなる?それに話し合う前に攻撃が始まる可能性も高い)
「やっぱ厳しいか……」
魔族・魔王は人間に害を与える存在だから討伐せよと訓練所や教会の人達に何度も言われてきた。
当時は何も思わなかったが、今考えると一種の洗脳だったのかもしれない。
(今、俺がここに居れるのは、俺だからだ。似たような性格の冒険者なら話を聞いてくれるかもしれないけど。
そもそも俺みたいな人いるのか?)
かなり少数だと思う。仮に会談が確定して代表者が俺だったとしても、みんなに「隙を見て殺せ」と言われるかもしれない。
だが、俺に魔王を殺すことはできない。
「って、何を考えてるんだろうな俺は……」
「ホ~ント、真剣に考え込んじゃってさ~」
(え゛⁉)
カクカクとした動作で左を向くと、デュークさんがニヤニヤしながら俺を見ていた。
慌てて反対方向にのけぞる。
「おわぁッ⁉」
(い、いつからいたんだ⁉)
「ヤッホ~、モトユウちゃん。そんなにビビらなくてもよくな~い?」
「気配もなく隣にいたらビビりますよ⁉」
「ヒハハハッ、何回か声かけたぜ~?でもモトユウちゃん無反応なんだもん」
今日はデュークさんの用事に付き合うことになっている。いつも通り俺を起こしに来たが、
無反応だったのでビックリさせようと考えたらしい。
「で、何をそんなに考えてたのさ~?」
「えっと……」
「まぁ、ムリに言わなくてもいいけど。
アレだろ~?また何か知って引きずってるとかそんなんだろ?」
(理由当てるのかよ⁉バケモノか⁉)
ここまできたら誤魔化しはきかない。機嫌を悪くするのも嫌なので昨日あったことを話すと、デュークさんは盛大に
笑い出した。
「ヒハハハハハハハハッ‼
だ~から言ったじゃん。どっちにつくか考えておいた方がいいってさ~」
「まさかこんなに早く来るとは思ってなくて。魔王さん、長くても半年以内だとほ言ってましたけど」
「へー。じゃあ明日だったら?」
「明日⁉」
ビックリして声が裏返ったが可能性はゼロではない。
「まだモトユウちゃんが決めていないときに起こったら、戦いに巻き込まれないような所にでも隠れてな」
「巻き込まれないような場所……」
(地下か?)
ドーワ族の工房なら、地面がえぐれるほどの魔法でも使われない限り表に現れることはないだろう。
隠れるとしたらそこになりそうだ。
(参加する資格ないし……)
「そういえばモトユウちゃん、コレどうすんの~?」
少し離れたところからデュークさんの声がした。相変わらず素早い。
そして指さしている先を見ると肉の塊が視界に映るが、腐敗して変色しており、とても食べられそうにない。
(あ、忘れてた)
ここ数日、何かと忙しかった。肉の存在を認識したと同時に強烈な臭いが鼻に入り込んでくる。
腕で鼻を覆いながら塊の前に立ったが、この状態でも隙間から臭うのに
デュークさんは鼻を覆っていなかった。特殊な感覚なのだろうか。
「もう食べられないですよね……」
「しっかり焼いたらギリイケるんじゃない~?俺はここまで腐らせたことないからわかんないけど~」
(でも1個は食べないと。昨日食ってないしな)
次にテナシテさんに会ったら間違いなくサンプルを採られる。それよりは
コレを食べた方がマシだと思った。
「1個は念入りに焼いてから食べますけど、残りが……」
「マジで⁉コレ食うの~⁉」
(焼いたらギリイケるかもって言ったじゃん……)
心の中で文句を言っている俺のことなど気にも止めず、デュークさんは慣れた手付きで肉をロープでまとめると、
なんと窓から投げ捨てた。
「とんでけ~!」
「ちょっ⁉何してるんですか⁉」
「外のモンスターにオスソワケ。大丈夫大丈夫、アイツラは頑丈だから多少腐ってても気にせず食うと思うぜ~。
あ、ちゃんと1個残しといたからなー」
「あ、ありがとうございます……」
複雑な気持ちでお礼を言う。俺では処分できないのでモンスターに食べてもらうしかないのだが、
食中毒を起こして殺してしまったら大変だ。
モンスターの耐性が強いことを願う。
(でもデュークさんが言うなら大丈夫か……)
残してもらった肉を室内に放置されていたボロキレで包んだが、それでも臭いは鼻に届く。
(う、やっぱキツい。最悪、腹壊すなコレ)
「調理場に行かないと」
「あ~、そう言えば案内するって結局そのままだったな~。場所わかる~?」
「オネットに教えてもらいました」
「へ~、オネットちゃんに?」
調理場に向かう道中でドーワ族に会えたこと、プラティヌ鉱を採ってこなければならないことを話した。
「な~るほど。噂は聞いてたけど、さすがはドーワ族ってとこか。
で、採取を手伝ったらいいんだろ~」
「すみません、お願いします」
「別に謝ることじゃないって~。俺も好きでやってんだし」
「そうなんですか⁉」
「そうなんですよ~。ヒマだから~」
(最近はヒマなのか?それとも最初に言ってた「ヒマじゃない」が嘘だったのか?)
忙しさが変わったのかもしれない。深く考えないようにした。
調理場で念入りに肉を焼いて食べ終える。とても言葉では表現できない味だったが、どうにか腹に落ち着いた。
あとは腹を壊さないことを祈るしかない。
(口の中が気持ち悪い)
「モトユウちゃん度胸ある~!ホントに喰っちゃうなんてさ~」
「食べてなくて、あることをされるよりはマシなんで……」
「よっぽど嫌なんだな~、ソレ」
あることがサンプルを採られることだとは気づいていないらしい。
デュークさんは同情するような顔で言うと俺の腕を掴む。
「さ~て、行きますか!モトユウちゃん!」
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