命乞いから始まる魔族配下生活

月森かれん

文字の大きさ
53 / 93
第2章

下級魔族とバトルする

しおりを挟む
 (なんだここ……)

 俺が連れてこられたのは、城のせり出した所にある闘技場のような円形の建物。
頑丈な鉄のドアまであり、重々しさを感じる。

 「ここって表ですか?裏ですか?」

 「表。でも冒険者共はマーさんの討伐にしか目がいってないからなー。
最下層っていっつもスルーされる」

 「そ、そうですね……」

 (確かに⁉俺達もよく見もせず階段探してた気が……)

 お宝が隠されているなら念入りに調べるかもしれないが、そんな話は聞いたことがない。 
 ますます、今から何が始まるのか不安になってきたので尋ねてみる。
 
 「えーっと、今から何をするんですか?」

 「下級魔族の訓練。物理・魔法・壁・回復、何に向いてるのか判断するためにな。望んだヤツだけが参加する。 
モトユウちゃんにはソイツらとバトってもらう」

 「バトる⁉」

 「あ、でも殺し合いじゃないぜ~。訓練だからな。
それと今日は物理のヤツらだけ。俺以外にもアパちゃんとかヘネちゃんが担当するし」

 (なるほど。デュークさん達の得意分野を教えるってことか)
 
 俺達にも冒険者志願者が通う養成所はある。強制参加で武器の扱い方、フィールドでの立ち回りなど様々なことを習い、
最後に試験をパスして初めて冒険者と言えるようになるのだ。
 感心して頷いているとデュークさんが取手に手をかける。

 「じゃあ、俺が呼んだら来いよ~?」

 「は、はい……」

 そう言うとデュークさんは中に入っていった。
すぐに威勢のいい声が聞こえる。

 「ウェーーイ!お前ら元気かぁーー?」

 「ウエェーーイ!!」
 
 「元気ッス!!」

 「バリバリッス!!」

 (テンション高ぇーー⁉)

 外から声を聞きながら唖然とした。萌えが入った暗黒ナイトかそれ以上だ。
どうやらデュークさんとは面識はあるようで、気合いが入っている。

 (いやいやいや、ここに俺が入ったら殺されるだろ⁉
人間だし!)

 「武器持ってるヤツ訓練用に持ち替えたか~?」

 「もちろんッス!!」

 「よ~し、指導する前に今日はゲストがいるから紹介するぜ~。入って来な~」

 (呼ばれた⁉早ぇ⁉
 い、行くしかない……)

 意を決して中に入る。とても広く訓練にはうってつけだ。俺達の建物を模範しているのは言うまでもない。

 (どこ行ったらいいんだ?デュークさんの隣?)

 魔族達の視線を痛いほど感じながらデュークさんの隣に立った。全部で10体だろうか。
ガーゴイルに似た姿をした者や手足にヒレがある者もいる。
ようやく人型以外の魔族に会えたことに感動したが、それどころではない。
彼等は明らかに嫌悪感を示して俺を睨んでいるからだ。
 
 (せめて、挨拶はしないと)

 「ど、どうも……」

 「ニンゲンじゃねぇかーー!!」

 「まさかコイツから教われっていうのかよ⁉」

 「デュークさん!!どういう事ッスか!!」

 案の定、魔族達からブーイングの嵐が来た。鋭い爪を出した手や持っている武器を振り上げている。
攻撃してこないだけマシだが怖いものは怖い。

 (ヤバいヤバい殺される)

 横目でデュークさんを見ようとした時だった。

 「静まれ」

 語尾の伸びていない低い声が響き、騒がしかったのが嘘のように静かになる。
魔族達はビックリした顔のままデュークさんを眺めていた。

 「そう。コイツ――モトユウちゃんはニンゲンだ。
いろいろあってな。ただ、マーさんのお気に入りだからな?
間違って殺してみろ、お前らがマーさんから殺されるぞ?」

 魔族達が息をのんだのがわかる。顔を引きつらせている者もいるし、改めて魔王のスゴさを思い知らされた。

 (やっぱり強いのは確かなんだな)

 「あ~、でも「教会送り」にならない程度にならケガさせていいぜ!」

 「え゛⁉」

 「ウオオオォーーー‼」

 (なんで歓声上げてんだよ⁉)

 「よぉ~し、ノッてきた所で訓練開始だ!
間違っても殺すなよ~」

 「ウエェェーーイ‼」

 奇声を上げながらほとんどの魔族が俺に飛びかかってくる。デュークさんが笑顔で俺の肩を軽く叩いた。

 「って事でヨロシク~、モトユウちゃん!」

 「え、え⁉」

 「なんだよ~……あ、素手だからか?
 訓練用の剣貸してやるからコイツらの相手してみな」

 慌てて剣を受け取って構えた。
 数体の攻撃を避けて、次の攻撃を剣で受け止める。誰かと対峙するのは久しぶりだが、
日々体を動かしていたおかげか思うように動く。

 「お、ヤルじゃん~。さっすが~」

 「はぁッ!!」

 剣で攻撃を受け止めた魔族を蹴飛ばした。
そんなに強く蹴ったつもりはなかったのだが、魔族の体は壁に激突してそのまま床に倒れる。
衝撃で気を失ったのかピクリとも動かない。
 すると俺に攻撃を浴びせようとした魔族達の動きが止まった。まさか反撃されるとは思ってなかったらしい。
 
 (やり過ぎた⁉)

 「え、あっ、ご、ごめんなさい‼」

 「いやいやいや、謝る事ないぜ~?モトユウちゃん。
訓練なんだから多少はケガしないとな~?
 って事だから、お前らモトユウちゃんをナメてかかるなよ?
言い忘れたがな、モトユウちゃんは俺を真っ二つにしたんだぜ」

 「コ、コイツが⁉」

 「だが、さっきの動きは……」

 魔族達が焦りながら顔を見合わせてボソボソと話している。
少しだけ顔つきが真剣になったように見えた。

 「ウオオオォーー!」

 (コイツら、ただ勢いで攻撃してるだけだな)

 くらったらダメージは大きいが、それだけだ。当たらなければどうということはない。
隙も大きいので軽く避けてから気絶しない程度の力加減で反撃する。
 彼らに連携や協力という考えはないようで、単体で俺に飛びかかってきていた。
幸い、そこまで強くはないので退けるのに時間はかからないが、死角からも来るので常に把握しないといけない。

 (連携してるつもりはないのかもしれないけど、1人終わったらすぐに1人来るからスタミナは削られる。
ずっと続くのはキツいな)

 「お前ら、ちょっと止まれ」
 
 しばらくの間攻防戦を続けていたが、デュークさんの号令に俺も含めて立ち止まる。

 (ん?何か気になる点でもあったか?)

 何事かと様子をうかがっているとデュークさんはニヤニヤしながら口を開いた。

 「動き回ってる姿見てるとウズウズしてきたわ~。
ってコトで勝負しようぜ、モトユウちゃん」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...