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第2章
いろいろ振り回される
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「勝負⁉」
嘘であってほしいと思ったが、デュークさんはこんな時に嘘なんて言わないし、
なにより目つきがギラギラしている。
「おうよ。もちろん訓練用の剣でな~。
相手の首に刃を当てたら、勝ち」
「でも……」
「大丈夫大丈夫ー。モトユウちゃんが気絶しない程度にボコる」
「ウオオオォーー‼」
「コテンパンにやっちゃってください!デュークさん!」
周りの魔族たちの方が盛り上がっている。俺にボコられたからというのもあるのだろうが、
ただ単にどっちが勝つのか興味があるみたいだ。
「ヒハハ、物わかりがいいヤツら~。そういうトコ好き」
「デュークさんからお墨付きもらったぞ‼」
「ウエェーーーーイ‼」
「じゃ~さっそく始めようぜ、モトユウちゃん‼」
言い終わらないうちにデュークさんが猛スピードで迫ってきた。
素早く剣を横に構えて攻撃を受け止める。さっき相手した魔族達より遥かに力が強い。
(力を一点に集中させないと弾かれる!)
「ぐっ……」
「ほ~、そう受けるか。いいの?それで?」
「ッ⁉」
(嫌な予感⁉1回弾く!)
ワザと大きく弾いて距離をとった。あのままだったら何かしら追撃されていた可能性が高い。
デュークさんは低い姿勢のまま俺から目を逸らさない。
「フーン、ヤルじゃん」
「鍛えてはいるので。一応……」
「それは知ってるー。走り回ったりモンスター討伐したりしてるもんな」
(でもわざわざ忠告するか普通?すぐ終わると味気ないからそうしたのか?)
疑問を抱きながらもすぐに動けるように踵を床から離した。
「あんまり喋るのやめようぜ。せっかくの手合わせなんだからさぁ‼」
懐に潜り込もうとしてきたデュークさんを避けて、そのまま一直線に走る。
端まで行って素早く振り返ると追いついてきていたデュークさんの攻撃を剣で受け止めた。
あまりの衝撃に右腕が痺れる。
(走った勢いで振り下ろしたのか。そして速ぇ!止まったら負ける!)
左に転がって体勢を立て直した。何もかもデュークさんの方が上なのはわかっているが、なぜか負けたくない気持ちが強い。
(1回攻めるか)
「おりゃあぁッ!」
思い切り踏み込んで剣を振るとデュークさんは簡単に避けた。しかし表情はとても楽しそうだ。
「ヒハハッ!そうこないと」
「簡単に負けませんから!」
「ああ。単に勝負が終わるとツマラナイッ‼」
「おわっ⁉」
咄嗟に身を屈めると頭上を風が吹き抜けた。追撃を受けないように今度は右に転がって体を立て直した勢いで剣を振り下ろす。
しかし涼しい顔で受け止められた。
「まだ続けるよな?」
「もちろんです!」
しばらく攻防戦を繰り返す。本気ではないことはわかるが、俺の息は上がってきていた。
だが止まるわけにはいかない。
(デュークさん、全然呼吸が乱れてない。スゲェ。何をしてたらそんなに
スタミナがつくんだ?)
肉が主食らしいし、よく動き回っているので自然についたのだろうか。
何度も剣を避けていてあることに気づいた。
(そうか!首に刃が当たらなければいいんだから腕や足で受ければセーフだ!)
訓練用の剣は刃がないナマクラ。服や皮膚が斬れる心配もない。
当然のことかもしれないが、動き回ることに集中していて忘れてしまっていた。
「はぁッ‼」
「おっと。そらよッ!」
(来た!さっそく……)
左腕で剣を受け止めると、デュークさんは少しだけ眉を上げた。
「ほぉ……」
(今ッ!)
隙をついたつもりだったがデュークさんは後ろに飛び退いた。そして素早く間合いをつめて俺の右腕を掴むと床に引き倒す。
背中が打ち受けられて一瞬息が止まった。骨は折れていないようだが、ジンジンと痛みだしてくる。
「がっ⁉」
「腕落ちてないようで安心したわ。でも残念」
そう言って笑うと首に軽く刃が当てられた。
「あ」
「はい、俺の勝ち。
あ~、楽しかった。立てるか?モトユウちゃん」
「はい……」
差し出されたデュークさんの手を取って立ち上がる。背中の痛みも少しひいていた。
するとデュークさんが開いた口が塞がっていない魔族達に向き直って笑顔で言い放つ。
「お~し、じゃあお前ら続きやっていいぜ~!」
「ムリです!!」
「負ける気しかしません!!」
「コテンパンにされます!!」
反応が最初とは正反対だ。勝負を間近で見て、勝てないと判断したらしい。
「でもさ~それじゃ訓練に来た意味ないだろ~?」
「だ、だってデュークさんと互角なんスよ⁉」
「いいじゃん~。強い相手と戦うのも大事だぜ。それに「墓地送り」には
ならないんだからさ、今のうちにコテンパンにされときな~?」
「そう言われてもッ⁉」
「ん?モトユウちゃんにコテンパンにされるのが嫌なら、
俺がコテンパンにしようか?」
デュークさんの提案に魔族達が固まる。そしてかなり焦った様子で顔を見合わせた。
「ヘ?」
「じょ、冗談ですよね?」
「マジの話。そんなカチコチに緊張しなくてもいいだろ。
んで、どうするよ?」
剣を肩に担いでジリジリと迫るデュークさんを見て魔族達は後退りを始める。
彼らは再び顔を見合わせて大きく頷くと一斉に俺の方に走ってきた。
「ニ、ニンゲンにコテンパンにされる方がマシだーー!!」
(なんだそりゃ⁉)
よっぽどデュークさんとの訓練が嫌らしい。ほぼヤケクソ気味に魔族達が飛びかかってくる。
(さっきとあんまり変わってないな。隙をなくせばいいんだけど)
一通り訓練が終わった後、再びデュークさんの隣に立った俺は魔族達に土下座されていた。
「ナメてかかってスミマセンでした!!」
「バカにしてスミマセンでした!!」
「い、いや……俺人間だし……」
(なんか思ってたより素直?)
上辺だけかもしれないご愛着がわいてきてしまう。
「ヒハハッ!コイツら種族とか関係なくモトユウちゃんのこと認めたんだと
思うぜ~。
この辺まで来る冒険者共は強いからな。半端な覚悟で行ったら「墓地送り」になるぜ。
あと、お前らもう少し連携ってモンを考えな。複数で戦うんなら必須だ」
「了解ッス‼」
「また訓練お願いします‼」
「時間取れればな~。じゃあ訓練はこれでおしまい!帰っていいぜ!」
魔族達が散り散りになっていく。
デュークさんに声をかけようとすると背後から声が飛んできた。
「あ、あの、モトユウさん!」
振り返ると背の低い少年がオドオドして立っていた。
デュークさん達と同じ人型の魔族だ。
(コイツはあんまり訓練に参加してなかった気が……)
「どうやったらあんなに強くなれるんですか?」
「え?どうやったらって、毎日鍛錬するとか……」
「個別に教えて下さい!お願いします!」
(魔族にも強くなりたいって願望があるのか?)
まさか指導してくれと言われるとは思っていなかったので、リアクションに困る。
さらに少年の目はキラキラと輝いていて断りづらい。
「ヒハハッ!よかったじゃん~、モトユウちゃん」
デュークさんはバシバシと俺の肩を軽く叩きながら、素早く耳元に口を近づけて囁いた。
「気を許すな。常に警戒しとけ」
「え」
(どういうことだ?素直で真面目そうなのに)
思わずデュークさんを見たが何事もなかったかのように無邪気な笑みを浮かべている。
「んで、指導すんのー?しないのー?」
「指導します!」
「本当ですか⁉ありがとうございますっ‼」
少年は目をキラキラさせながら何度も頭を下げた。
何か裏があるようには見えないが、デュークさんが言ったこともスルーできない。
(語尾が伸びてなかったし)
「ヒハハッ!なら後は時間とか決めてここで指導しな~。
使われてないことの方が多いから、訓練し放題」
「じゃあ、明日の夕方さっそくいいですか?」
「う、うん……」
「ありがとうございます!よろしくお願いしますね!
じゃあ、僕はこれでっ!」
少年は深く頭を下げて、そそくさと去ってしまった。
やっぱり礼儀正しいしモヤモヤしながら後ろ姿を見送る。
「サンキューな、モトユウちゃん!
じゃあ次はモトユウちゃんの用事だな~」
「そ、そうですね……」
(やっぱ聞いておいた方がいいよな。道中教えてもらうか)
肩を組んできたデュークさんを重いと感じながら、
城外に出るために歩き始めた。
嘘であってほしいと思ったが、デュークさんはこんな時に嘘なんて言わないし、
なにより目つきがギラギラしている。
「おうよ。もちろん訓練用の剣でな~。
相手の首に刃を当てたら、勝ち」
「でも……」
「大丈夫大丈夫ー。モトユウちゃんが気絶しない程度にボコる」
「ウオオオォーー‼」
「コテンパンにやっちゃってください!デュークさん!」
周りの魔族たちの方が盛り上がっている。俺にボコられたからというのもあるのだろうが、
ただ単にどっちが勝つのか興味があるみたいだ。
「ヒハハ、物わかりがいいヤツら~。そういうトコ好き」
「デュークさんからお墨付きもらったぞ‼」
「ウエェーーーーイ‼」
「じゃ~さっそく始めようぜ、モトユウちゃん‼」
言い終わらないうちにデュークさんが猛スピードで迫ってきた。
素早く剣を横に構えて攻撃を受け止める。さっき相手した魔族達より遥かに力が強い。
(力を一点に集中させないと弾かれる!)
「ぐっ……」
「ほ~、そう受けるか。いいの?それで?」
「ッ⁉」
(嫌な予感⁉1回弾く!)
ワザと大きく弾いて距離をとった。あのままだったら何かしら追撃されていた可能性が高い。
デュークさんは低い姿勢のまま俺から目を逸らさない。
「フーン、ヤルじゃん」
「鍛えてはいるので。一応……」
「それは知ってるー。走り回ったりモンスター討伐したりしてるもんな」
(でもわざわざ忠告するか普通?すぐ終わると味気ないからそうしたのか?)
疑問を抱きながらもすぐに動けるように踵を床から離した。
「あんまり喋るのやめようぜ。せっかくの手合わせなんだからさぁ‼」
懐に潜り込もうとしてきたデュークさんを避けて、そのまま一直線に走る。
端まで行って素早く振り返ると追いついてきていたデュークさんの攻撃を剣で受け止めた。
あまりの衝撃に右腕が痺れる。
(走った勢いで振り下ろしたのか。そして速ぇ!止まったら負ける!)
左に転がって体勢を立て直した。何もかもデュークさんの方が上なのはわかっているが、なぜか負けたくない気持ちが強い。
(1回攻めるか)
「おりゃあぁッ!」
思い切り踏み込んで剣を振るとデュークさんは簡単に避けた。しかし表情はとても楽しそうだ。
「ヒハハッ!そうこないと」
「簡単に負けませんから!」
「ああ。単に勝負が終わるとツマラナイッ‼」
「おわっ⁉」
咄嗟に身を屈めると頭上を風が吹き抜けた。追撃を受けないように今度は右に転がって体を立て直した勢いで剣を振り下ろす。
しかし涼しい顔で受け止められた。
「まだ続けるよな?」
「もちろんです!」
しばらく攻防戦を繰り返す。本気ではないことはわかるが、俺の息は上がってきていた。
だが止まるわけにはいかない。
(デュークさん、全然呼吸が乱れてない。スゲェ。何をしてたらそんなに
スタミナがつくんだ?)
肉が主食らしいし、よく動き回っているので自然についたのだろうか。
何度も剣を避けていてあることに気づいた。
(そうか!首に刃が当たらなければいいんだから腕や足で受ければセーフだ!)
訓練用の剣は刃がないナマクラ。服や皮膚が斬れる心配もない。
当然のことかもしれないが、動き回ることに集中していて忘れてしまっていた。
「はぁッ‼」
「おっと。そらよッ!」
(来た!さっそく……)
左腕で剣を受け止めると、デュークさんは少しだけ眉を上げた。
「ほぉ……」
(今ッ!)
隙をついたつもりだったがデュークさんは後ろに飛び退いた。そして素早く間合いをつめて俺の右腕を掴むと床に引き倒す。
背中が打ち受けられて一瞬息が止まった。骨は折れていないようだが、ジンジンと痛みだしてくる。
「がっ⁉」
「腕落ちてないようで安心したわ。でも残念」
そう言って笑うと首に軽く刃が当てられた。
「あ」
「はい、俺の勝ち。
あ~、楽しかった。立てるか?モトユウちゃん」
「はい……」
差し出されたデュークさんの手を取って立ち上がる。背中の痛みも少しひいていた。
するとデュークさんが開いた口が塞がっていない魔族達に向き直って笑顔で言い放つ。
「お~し、じゃあお前ら続きやっていいぜ~!」
「ムリです!!」
「負ける気しかしません!!」
「コテンパンにされます!!」
反応が最初とは正反対だ。勝負を間近で見て、勝てないと判断したらしい。
「でもさ~それじゃ訓練に来た意味ないだろ~?」
「だ、だってデュークさんと互角なんスよ⁉」
「いいじゃん~。強い相手と戦うのも大事だぜ。それに「墓地送り」には
ならないんだからさ、今のうちにコテンパンにされときな~?」
「そう言われてもッ⁉」
「ん?モトユウちゃんにコテンパンにされるのが嫌なら、
俺がコテンパンにしようか?」
デュークさんの提案に魔族達が固まる。そしてかなり焦った様子で顔を見合わせた。
「ヘ?」
「じょ、冗談ですよね?」
「マジの話。そんなカチコチに緊張しなくてもいいだろ。
んで、どうするよ?」
剣を肩に担いでジリジリと迫るデュークさんを見て魔族達は後退りを始める。
彼らは再び顔を見合わせて大きく頷くと一斉に俺の方に走ってきた。
「ニ、ニンゲンにコテンパンにされる方がマシだーー!!」
(なんだそりゃ⁉)
よっぽどデュークさんとの訓練が嫌らしい。ほぼヤケクソ気味に魔族達が飛びかかってくる。
(さっきとあんまり変わってないな。隙をなくせばいいんだけど)
一通り訓練が終わった後、再びデュークさんの隣に立った俺は魔族達に土下座されていた。
「ナメてかかってスミマセンでした!!」
「バカにしてスミマセンでした!!」
「い、いや……俺人間だし……」
(なんか思ってたより素直?)
上辺だけかもしれないご愛着がわいてきてしまう。
「ヒハハッ!コイツら種族とか関係なくモトユウちゃんのこと認めたんだと
思うぜ~。
この辺まで来る冒険者共は強いからな。半端な覚悟で行ったら「墓地送り」になるぜ。
あと、お前らもう少し連携ってモンを考えな。複数で戦うんなら必須だ」
「了解ッス‼」
「また訓練お願いします‼」
「時間取れればな~。じゃあ訓練はこれでおしまい!帰っていいぜ!」
魔族達が散り散りになっていく。
デュークさんに声をかけようとすると背後から声が飛んできた。
「あ、あの、モトユウさん!」
振り返ると背の低い少年がオドオドして立っていた。
デュークさん達と同じ人型の魔族だ。
(コイツはあんまり訓練に参加してなかった気が……)
「どうやったらあんなに強くなれるんですか?」
「え?どうやったらって、毎日鍛錬するとか……」
「個別に教えて下さい!お願いします!」
(魔族にも強くなりたいって願望があるのか?)
まさか指導してくれと言われるとは思っていなかったので、リアクションに困る。
さらに少年の目はキラキラと輝いていて断りづらい。
「ヒハハッ!よかったじゃん~、モトユウちゃん」
デュークさんはバシバシと俺の肩を軽く叩きながら、素早く耳元に口を近づけて囁いた。
「気を許すな。常に警戒しとけ」
「え」
(どういうことだ?素直で真面目そうなのに)
思わずデュークさんを見たが何事もなかったかのように無邪気な笑みを浮かべている。
「んで、指導すんのー?しないのー?」
「指導します!」
「本当ですか⁉ありがとうございますっ‼」
少年は目をキラキラさせながら何度も頭を下げた。
何か裏があるようには見えないが、デュークさんが言ったこともスルーできない。
(語尾が伸びてなかったし)
「ヒハハッ!なら後は時間とか決めてここで指導しな~。
使われてないことの方が多いから、訓練し放題」
「じゃあ、明日の夕方さっそくいいですか?」
「う、うん……」
「ありがとうございます!よろしくお願いしますね!
じゃあ、僕はこれでっ!」
少年は深く頭を下げて、そそくさと去ってしまった。
やっぱり礼儀正しいしモヤモヤしながら後ろ姿を見送る。
「サンキューな、モトユウちゃん!
じゃあ次はモトユウちゃんの用事だな~」
「そ、そうですね……」
(やっぱ聞いておいた方がいいよな。道中教えてもらうか)
肩を組んできたデュークさんを重いと感じながら、
城外に出るために歩き始めた。
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