63 / 93
第2章
魔王を心配する
しおりを挟む
「散々だった……」
翌朝、起床した俺は床で盛大に息をつく。
あれからフロに入ったまではよかったものの、デュークさんから頭を掴まれてユに沈められたので危うく溺れるところだったのだ。
イノサンクルーンのフォローと、そもそもデュークさんが本気ではなかったこともあって溺れずに済んだが、掴まれた頭がまだ痛い。
(よっぽどペース乱されたの嫌だったんだな。もう2度としないけど……)
「ふぅ……。それにしても腹減ったな。何か採りに――」
立ち上がろうとしたのををやめて、思わず言葉を繰り返す。
「腹減った……?」
魔王が俺に補助魔法をかけていて、それのおかげて空腹を感じないとテナシテさんから聞いていたし実感していた。
なのに、今空腹感があるということは――
(魔王が弱っている?)
「どうしよう、様子見に行った方がいいのか?いや、でも魔王だしな……」
俺だけでなくデュークさんたち幹部にもいろいろ分け与えているみたいだし、魔力が底を尽くのは考えにくい。
とはいえ、常に魔法をかけているのなら減り続けるはずだ。魔力にほぼ無知な俺でも考えつく。
「そもそも魔力ってどうやったら回復するんだ?寝るとか何か食べるとかか?
フローに聞いておけばよかったな」
あれこれ考えているうちに、ふと素朴な疑問が思い浮かんだ。
「なんで俺は魔王を心配してるんだ?」
俺たち人間にとっては邪魔な存在で冒険者の最終目標。命乞いするまでは血気盛んに進んでいたではないか。
本来なら喜んでいいことなのに全く喜べない。ここで数十日過ごした影響なのは間違いなかった。
「いや、今更だな。デュークさんがケガしたときだって心配したじゃないか」
下級魔族を蹴飛ばしたときもそうだったし、挙げればたくさん出てくる。打ち消すように頭を振った。
普段の状態と違うのなら、人間だろうと魔族だろうとモンスターだろうと心配してしまう。やっぱり俺はどうしようもない
お人好しだ。
「行こう。何もなかったらなかったでいい……はず」
(種族間でいえば弱ってた方がいいけどな。複雑だ)
少しモヤモヤしながらも早足で王座の間に向かって声を張り上げる。
「魔王さん!大丈夫ですか⁉」
「なんだ下僕、騒々しい……」
(いつも通りか……)
俺とは対照的に魔王は余裕そうに座に腰かけて頬杖をついていた。
見た限りでは変化は感じ取れない。理由を言おうとすると魔王が先に口を開いた。
「我を誰だと思っている。心配をされるようなことはない。帰れ」
そう言って俺を軽く睨むと手で促す。少し背筋が寒くなったがそれでも
足を動かさずに魔王を見続けた。
「テ、テナシテさんから聞いたんです。俺に補助魔法をかけてくれてるって。
そのおかげで今まで空腹を感じなかったんですけど、さっき初めて感じて。それで魔王さんに何があったんじゃないかと」
「何も起こってないわ、たわけ。自分の事ぐらい把握していると前にも言ったであろう?」
「そうですけど……」
「ニンゲンに心配されるなど面目が潰れる」
(その心配されたら面目潰れる相手をカワイイと思ったんだよな⁉)
思わず口に出しそうになったが抑える。そう、魔王は命乞いで土下座した俺をカワイイと思ってしまったそうだ。
そして「教会送り」になってしまわないようにコッソリ手を回している。
心情が顔に出ていたのか魔王は俺を見ると少し眉を吊り上げた。
「言いたいことがあるのなら言え」
「言ったら怒りません?」
「内容による」
(マジかよ……。なんだかんだ言ってボコられるパターンか?)
魔王の様子を伺うと、俺に視線を向けたまま右手を腰に伸ばしていた。ここからではよく見えないがメイスを準備しているのだろう。
だが言わなければ間違いなくでボコられる。覚悟を決めてゆっくり話しだした。
「俺に心配されたら面目が潰れるって言いましたけど、その俺をカワイイと思ったんですよね?」
「…………それがどうした」
(開き直った⁉)
「ニンゲンには、だ」
「俺も人間ですけど⁉」
「お前はニンゲンには見えん」
「はい⁉」
(人として見られてない⁉)
かなりショックを受けた。言葉を失っている俺を見ても魔王は眉一つ動かさずに話を続ける。
「ニンゲンとは、己のことしか考えない自分勝手な生き物ではないのか?
そのために他者を騙し、欺き、蹴落とす。
お前にはそれがない。だからニンゲンには見えんのだ」
「俺みたいな人間は探せばたくさんいますよ。命乞いまではしないと思いますけど……」
「フン」
なぜか魔王はほくそ笑んだ。俺の回答が面白かったらしい。
しかし次の瞬間、俺の眼前に移動する。
(は?)
状況を理解する間もなく頭に激痛が走った。言うまでもなく、メイスでボコられたのだ。
「痛ってぇーー⁉」
「我と会話し過ぎだ」
悶えている俺に魔王は淡々と言い放つ。とんでもない理不尽な理由でボコられた。
もはや単なる腹いせではないだろうか。
(やっぱとんでもねぇな魔王⁉しかもデュークさんに掴まれたところも痛み始めたし。連動でもしてるのかよ)
「あと、下僕。近々大戦が起こる。胸騒ぎが酷くなってきた」
「……そう、なんですか」
(シレッと大事なこと言うなよ⁉)
とはいえ、俺がどうするかを言っておかなければならない。
「その戦いですけど、俺はどちらにもつきません!終わるまで待機してます!」
「…………言ったな?」
「へ?」
「ニンゲンと魔族の戦いが数日で終わると思うか?その間、お前は誰にも見つからずにしのげるのか?」
「今から籠る準備をします。どれぐらい集められるかわかりませんけど」
戦いがどうなるか全く予想できないが、7日分は集めたい。
「好きにするがよい。どちらにもつかないと言ったからには参加するなよ?」
「は、はい!」
魔王は鼻で笑うとそのまま外に出ていった。
意外なのとてっきりワープ魔法でも使うかと思っていたのとで、俺はしばらく動けなかった。
翌朝、起床した俺は床で盛大に息をつく。
あれからフロに入ったまではよかったものの、デュークさんから頭を掴まれてユに沈められたので危うく溺れるところだったのだ。
イノサンクルーンのフォローと、そもそもデュークさんが本気ではなかったこともあって溺れずに済んだが、掴まれた頭がまだ痛い。
(よっぽどペース乱されたの嫌だったんだな。もう2度としないけど……)
「ふぅ……。それにしても腹減ったな。何か採りに――」
立ち上がろうとしたのををやめて、思わず言葉を繰り返す。
「腹減った……?」
魔王が俺に補助魔法をかけていて、それのおかげて空腹を感じないとテナシテさんから聞いていたし実感していた。
なのに、今空腹感があるということは――
(魔王が弱っている?)
「どうしよう、様子見に行った方がいいのか?いや、でも魔王だしな……」
俺だけでなくデュークさんたち幹部にもいろいろ分け与えているみたいだし、魔力が底を尽くのは考えにくい。
とはいえ、常に魔法をかけているのなら減り続けるはずだ。魔力にほぼ無知な俺でも考えつく。
「そもそも魔力ってどうやったら回復するんだ?寝るとか何か食べるとかか?
フローに聞いておけばよかったな」
あれこれ考えているうちに、ふと素朴な疑問が思い浮かんだ。
「なんで俺は魔王を心配してるんだ?」
俺たち人間にとっては邪魔な存在で冒険者の最終目標。命乞いするまでは血気盛んに進んでいたではないか。
本来なら喜んでいいことなのに全く喜べない。ここで数十日過ごした影響なのは間違いなかった。
「いや、今更だな。デュークさんがケガしたときだって心配したじゃないか」
下級魔族を蹴飛ばしたときもそうだったし、挙げればたくさん出てくる。打ち消すように頭を振った。
普段の状態と違うのなら、人間だろうと魔族だろうとモンスターだろうと心配してしまう。やっぱり俺はどうしようもない
お人好しだ。
「行こう。何もなかったらなかったでいい……はず」
(種族間でいえば弱ってた方がいいけどな。複雑だ)
少しモヤモヤしながらも早足で王座の間に向かって声を張り上げる。
「魔王さん!大丈夫ですか⁉」
「なんだ下僕、騒々しい……」
(いつも通りか……)
俺とは対照的に魔王は余裕そうに座に腰かけて頬杖をついていた。
見た限りでは変化は感じ取れない。理由を言おうとすると魔王が先に口を開いた。
「我を誰だと思っている。心配をされるようなことはない。帰れ」
そう言って俺を軽く睨むと手で促す。少し背筋が寒くなったがそれでも
足を動かさずに魔王を見続けた。
「テ、テナシテさんから聞いたんです。俺に補助魔法をかけてくれてるって。
そのおかげで今まで空腹を感じなかったんですけど、さっき初めて感じて。それで魔王さんに何があったんじゃないかと」
「何も起こってないわ、たわけ。自分の事ぐらい把握していると前にも言ったであろう?」
「そうですけど……」
「ニンゲンに心配されるなど面目が潰れる」
(その心配されたら面目潰れる相手をカワイイと思ったんだよな⁉)
思わず口に出しそうになったが抑える。そう、魔王は命乞いで土下座した俺をカワイイと思ってしまったそうだ。
そして「教会送り」になってしまわないようにコッソリ手を回している。
心情が顔に出ていたのか魔王は俺を見ると少し眉を吊り上げた。
「言いたいことがあるのなら言え」
「言ったら怒りません?」
「内容による」
(マジかよ……。なんだかんだ言ってボコられるパターンか?)
魔王の様子を伺うと、俺に視線を向けたまま右手を腰に伸ばしていた。ここからではよく見えないがメイスを準備しているのだろう。
だが言わなければ間違いなくでボコられる。覚悟を決めてゆっくり話しだした。
「俺に心配されたら面目が潰れるって言いましたけど、その俺をカワイイと思ったんですよね?」
「…………それがどうした」
(開き直った⁉)
「ニンゲンには、だ」
「俺も人間ですけど⁉」
「お前はニンゲンには見えん」
「はい⁉」
(人として見られてない⁉)
かなりショックを受けた。言葉を失っている俺を見ても魔王は眉一つ動かさずに話を続ける。
「ニンゲンとは、己のことしか考えない自分勝手な生き物ではないのか?
そのために他者を騙し、欺き、蹴落とす。
お前にはそれがない。だからニンゲンには見えんのだ」
「俺みたいな人間は探せばたくさんいますよ。命乞いまではしないと思いますけど……」
「フン」
なぜか魔王はほくそ笑んだ。俺の回答が面白かったらしい。
しかし次の瞬間、俺の眼前に移動する。
(は?)
状況を理解する間もなく頭に激痛が走った。言うまでもなく、メイスでボコられたのだ。
「痛ってぇーー⁉」
「我と会話し過ぎだ」
悶えている俺に魔王は淡々と言い放つ。とんでもない理不尽な理由でボコられた。
もはや単なる腹いせではないだろうか。
(やっぱとんでもねぇな魔王⁉しかもデュークさんに掴まれたところも痛み始めたし。連動でもしてるのかよ)
「あと、下僕。近々大戦が起こる。胸騒ぎが酷くなってきた」
「……そう、なんですか」
(シレッと大事なこと言うなよ⁉)
とはいえ、俺がどうするかを言っておかなければならない。
「その戦いですけど、俺はどちらにもつきません!終わるまで待機してます!」
「…………言ったな?」
「へ?」
「ニンゲンと魔族の戦いが数日で終わると思うか?その間、お前は誰にも見つからずにしのげるのか?」
「今から籠る準備をします。どれぐらい集められるかわかりませんけど」
戦いがどうなるか全く予想できないが、7日分は集めたい。
「好きにするがよい。どちらにもつかないと言ったからには参加するなよ?」
「は、はい!」
魔王は鼻で笑うとそのまま外に出ていった。
意外なのとてっきりワープ魔法でも使うかと思っていたのとで、俺はしばらく動けなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~
shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて
無名の英雄
愛を知らぬ商人
気狂いの賢者など
様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。
それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま
幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる