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第2章
魔王を心配する
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「散々だった……」
翌朝、起床した俺は床で盛大に息をつく。
あれからフロに入ったまではよかったものの、デュークさんから頭を掴まれてユに沈められたので危うく溺れるところだったのだ。
イノサンクルーンのフォローと、そもそもデュークさんが本気ではなかったこともあって溺れずに済んだが、掴まれた頭がまだ痛い。
(よっぽどペース乱されたの嫌だったんだな。もう2度としないけど……)
「ふぅ……。それにしても腹減ったな。何か採りに――」
立ち上がろうとしたのををやめて、思わず言葉を繰り返す。
「腹減った……?」
魔王が俺に補助魔法をかけていて、それのおかげて空腹を感じないとテナシテさんから聞いていたし実感していた。
なのに、今空腹感があるということは――
(魔王が弱っている?)
「どうしよう、様子見に行った方がいいのか?いや、でも魔王だしな……」
俺だけでなくデュークさんたち幹部にもいろいろ分け与えているみたいだし、魔力が底を尽くのは考えにくい。
とはいえ、常に魔法をかけているのなら減り続けるはずだ。魔力にほぼ無知な俺でも考えつく。
「そもそも魔力ってどうやったら回復するんだ?寝るとか何か食べるとかか?
フローに聞いておけばよかったな」
あれこれ考えているうちに、ふと素朴な疑問が思い浮かんだ。
「なんで俺は魔王を心配してるんだ?」
俺たち人間にとっては邪魔な存在で冒険者の最終目標。命乞いするまでは血気盛んに進んでいたではないか。
本来なら喜んでいいことなのに全く喜べない。ここで数十日過ごした影響なのは間違いなかった。
「いや、今更だな。デュークさんがケガしたときだって心配したじゃないか」
下級魔族を蹴飛ばしたときもそうだったし、挙げればたくさん出てくる。打ち消すように頭を振った。
普段の状態と違うのなら、人間だろうと魔族だろうとモンスターだろうと心配してしまう。やっぱり俺はどうしようもない
お人好しだ。
「行こう。何もなかったらなかったでいい……はず」
(種族間でいえば弱ってた方がいいけどな。複雑だ)
少しモヤモヤしながらも早足で王座の間に向かって声を張り上げる。
「魔王さん!大丈夫ですか⁉」
「なんだ下僕、騒々しい……」
(いつも通りか……)
俺とは対照的に魔王は余裕そうに座に腰かけて頬杖をついていた。
見た限りでは変化は感じ取れない。理由を言おうとすると魔王が先に口を開いた。
「我を誰だと思っている。心配をされるようなことはない。帰れ」
そう言って俺を軽く睨むと手で促す。少し背筋が寒くなったがそれでも
足を動かさずに魔王を見続けた。
「テ、テナシテさんから聞いたんです。俺に補助魔法をかけてくれてるって。
そのおかげで今まで空腹を感じなかったんですけど、さっき初めて感じて。それで魔王さんに何があったんじゃないかと」
「何も起こってないわ、たわけ。自分の事ぐらい把握していると前にも言ったであろう?」
「そうですけど……」
「ニンゲンに心配されるなど面目が潰れる」
(その心配されたら面目潰れる相手をカワイイと思ったんだよな⁉)
思わず口に出しそうになったが抑える。そう、魔王は命乞いで土下座した俺をカワイイと思ってしまったそうだ。
そして「教会送り」になってしまわないようにコッソリ手を回している。
心情が顔に出ていたのか魔王は俺を見ると少し眉を吊り上げた。
「言いたいことがあるのなら言え」
「言ったら怒りません?」
「内容による」
(マジかよ……。なんだかんだ言ってボコられるパターンか?)
魔王の様子を伺うと、俺に視線を向けたまま右手を腰に伸ばしていた。ここからではよく見えないがメイスを準備しているのだろう。
だが言わなければ間違いなくでボコられる。覚悟を決めてゆっくり話しだした。
「俺に心配されたら面目が潰れるって言いましたけど、その俺をカワイイと思ったんですよね?」
「…………それがどうした」
(開き直った⁉)
「ニンゲンには、だ」
「俺も人間ですけど⁉」
「お前はニンゲンには見えん」
「はい⁉」
(人として見られてない⁉)
かなりショックを受けた。言葉を失っている俺を見ても魔王は眉一つ動かさずに話を続ける。
「ニンゲンとは、己のことしか考えない自分勝手な生き物ではないのか?
そのために他者を騙し、欺き、蹴落とす。
お前にはそれがない。だからニンゲンには見えんのだ」
「俺みたいな人間は探せばたくさんいますよ。命乞いまではしないと思いますけど……」
「フン」
なぜか魔王はほくそ笑んだ。俺の回答が面白かったらしい。
しかし次の瞬間、俺の眼前に移動する。
(は?)
状況を理解する間もなく頭に激痛が走った。言うまでもなく、メイスでボコられたのだ。
「痛ってぇーー⁉」
「我と会話し過ぎだ」
悶えている俺に魔王は淡々と言い放つ。とんでもない理不尽な理由でボコられた。
もはや単なる腹いせではないだろうか。
(やっぱとんでもねぇな魔王⁉しかもデュークさんに掴まれたところも痛み始めたし。連動でもしてるのかよ)
「あと、下僕。近々大戦が起こる。胸騒ぎが酷くなってきた」
「……そう、なんですか」
(シレッと大事なこと言うなよ⁉)
とはいえ、俺がどうするかを言っておかなければならない。
「その戦いですけど、俺はどちらにもつきません!終わるまで待機してます!」
「…………言ったな?」
「へ?」
「ニンゲンと魔族の戦いが数日で終わると思うか?その間、お前は誰にも見つからずにしのげるのか?」
「今から籠る準備をします。どれぐらい集められるかわかりませんけど」
戦いがどうなるか全く予想できないが、7日分は集めたい。
「好きにするがよい。どちらにもつかないと言ったからには参加するなよ?」
「は、はい!」
魔王は鼻で笑うとそのまま外に出ていった。
意外なのとてっきりワープ魔法でも使うかと思っていたのとで、俺はしばらく動けなかった。
翌朝、起床した俺は床で盛大に息をつく。
あれからフロに入ったまではよかったものの、デュークさんから頭を掴まれてユに沈められたので危うく溺れるところだったのだ。
イノサンクルーンのフォローと、そもそもデュークさんが本気ではなかったこともあって溺れずに済んだが、掴まれた頭がまだ痛い。
(よっぽどペース乱されたの嫌だったんだな。もう2度としないけど……)
「ふぅ……。それにしても腹減ったな。何か採りに――」
立ち上がろうとしたのををやめて、思わず言葉を繰り返す。
「腹減った……?」
魔王が俺に補助魔法をかけていて、それのおかげて空腹を感じないとテナシテさんから聞いていたし実感していた。
なのに、今空腹感があるということは――
(魔王が弱っている?)
「どうしよう、様子見に行った方がいいのか?いや、でも魔王だしな……」
俺だけでなくデュークさんたち幹部にもいろいろ分け与えているみたいだし、魔力が底を尽くのは考えにくい。
とはいえ、常に魔法をかけているのなら減り続けるはずだ。魔力にほぼ無知な俺でも考えつく。
「そもそも魔力ってどうやったら回復するんだ?寝るとか何か食べるとかか?
フローに聞いておけばよかったな」
あれこれ考えているうちに、ふと素朴な疑問が思い浮かんだ。
「なんで俺は魔王を心配してるんだ?」
俺たち人間にとっては邪魔な存在で冒険者の最終目標。命乞いするまでは血気盛んに進んでいたではないか。
本来なら喜んでいいことなのに全く喜べない。ここで数十日過ごした影響なのは間違いなかった。
「いや、今更だな。デュークさんがケガしたときだって心配したじゃないか」
下級魔族を蹴飛ばしたときもそうだったし、挙げればたくさん出てくる。打ち消すように頭を振った。
普段の状態と違うのなら、人間だろうと魔族だろうとモンスターだろうと心配してしまう。やっぱり俺はどうしようもない
お人好しだ。
「行こう。何もなかったらなかったでいい……はず」
(種族間でいえば弱ってた方がいいけどな。複雑だ)
少しモヤモヤしながらも早足で王座の間に向かって声を張り上げる。
「魔王さん!大丈夫ですか⁉」
「なんだ下僕、騒々しい……」
(いつも通りか……)
俺とは対照的に魔王は余裕そうに座に腰かけて頬杖をついていた。
見た限りでは変化は感じ取れない。理由を言おうとすると魔王が先に口を開いた。
「我を誰だと思っている。心配をされるようなことはない。帰れ」
そう言って俺を軽く睨むと手で促す。少し背筋が寒くなったがそれでも
足を動かさずに魔王を見続けた。
「テ、テナシテさんから聞いたんです。俺に補助魔法をかけてくれてるって。
そのおかげで今まで空腹を感じなかったんですけど、さっき初めて感じて。それで魔王さんに何があったんじゃないかと」
「何も起こってないわ、たわけ。自分の事ぐらい把握していると前にも言ったであろう?」
「そうですけど……」
「ニンゲンに心配されるなど面目が潰れる」
(その心配されたら面目潰れる相手をカワイイと思ったんだよな⁉)
思わず口に出しそうになったが抑える。そう、魔王は命乞いで土下座した俺をカワイイと思ってしまったそうだ。
そして「教会送り」になってしまわないようにコッソリ手を回している。
心情が顔に出ていたのか魔王は俺を見ると少し眉を吊り上げた。
「言いたいことがあるのなら言え」
「言ったら怒りません?」
「内容による」
(マジかよ……。なんだかんだ言ってボコられるパターンか?)
魔王の様子を伺うと、俺に視線を向けたまま右手を腰に伸ばしていた。ここからではよく見えないがメイスを準備しているのだろう。
だが言わなければ間違いなくでボコられる。覚悟を決めてゆっくり話しだした。
「俺に心配されたら面目が潰れるって言いましたけど、その俺をカワイイと思ったんですよね?」
「…………それがどうした」
(開き直った⁉)
「ニンゲンには、だ」
「俺も人間ですけど⁉」
「お前はニンゲンには見えん」
「はい⁉」
(人として見られてない⁉)
かなりショックを受けた。言葉を失っている俺を見ても魔王は眉一つ動かさずに話を続ける。
「ニンゲンとは、己のことしか考えない自分勝手な生き物ではないのか?
そのために他者を騙し、欺き、蹴落とす。
お前にはそれがない。だからニンゲンには見えんのだ」
「俺みたいな人間は探せばたくさんいますよ。命乞いまではしないと思いますけど……」
「フン」
なぜか魔王はほくそ笑んだ。俺の回答が面白かったらしい。
しかし次の瞬間、俺の眼前に移動する。
(は?)
状況を理解する間もなく頭に激痛が走った。言うまでもなく、メイスでボコられたのだ。
「痛ってぇーー⁉」
「我と会話し過ぎだ」
悶えている俺に魔王は淡々と言い放つ。とんでもない理不尽な理由でボコられた。
もはや単なる腹いせではないだろうか。
(やっぱとんでもねぇな魔王⁉しかもデュークさんに掴まれたところも痛み始めたし。連動でもしてるのかよ)
「あと、下僕。近々大戦が起こる。胸騒ぎが酷くなってきた」
「……そう、なんですか」
(シレッと大事なこと言うなよ⁉)
とはいえ、俺がどうするかを言っておかなければならない。
「その戦いですけど、俺はどちらにもつきません!終わるまで待機してます!」
「…………言ったな?」
「へ?」
「ニンゲンと魔族の戦いが数日で終わると思うか?その間、お前は誰にも見つからずにしのげるのか?」
「今から籠る準備をします。どれぐらい集められるかわかりませんけど」
戦いがどうなるか全く予想できないが、7日分は集めたい。
「好きにするがよい。どちらにもつかないと言ったからには参加するなよ?」
「は、はい!」
魔王は鼻で笑うとそのまま外に出ていった。
意外なのとてっきりワープ魔法でも使うかと思っていたのとで、俺はしばらく動けなかった。
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