上 下
65 / 70
第2章

盾防御にチャレンジする

しおりを挟む
 エフォールの指示で外に来た俺は立ち尽くしていた。
いつもの暗黒ナイトの集団は変わらないのだが
彼等の後方に2体、図体の大きいモンスターがいる。 

 (デケェ⁉それに見たことねぇ。ここの団に所属してるんだよな?)
 
 体の色は茶色なので黒色のエインシェントオークとは違う。ゴブリン種かとも考えたが、頭の大きな2本の角はそれらにはない。
顔だけを見れば牛に近いが体は人間のようで四肢の筋肉が盛り上がっている。

 (新種?切り札のようなヤツで表には出してないのか?)

 ボンヤリ眺めていると俺に気づいた暗黒ナイト達が腕を振り上げながら声をかけてくる。
彼等は仲間だと思ってくれているのだろう。少し嬉しい。
 
 「ニトウヘイ!」
 
 「ウィ!」
 
 「さ、みんな揃ってるみたいですし訓練始めるですよ」

 「ちょっと待ってくださいよ⁉何の訓練するんですか⁉」

 さらりと言ったエフォールに慌てて詰め寄ると不思議そうに首を傾げた。

 「あれ?言ってませんでしたっけ?盾を使って猛攻に挑む訓練です」

 「猛攻?じゃああのデカいモンスターは……」

 「攻撃担当でアタウルスと言うのです。魔王様が派遣してくださいました」

 以前デュークさんが言っていた、魔王の言うことしか聞かないモンスターと見て間違いなさそうだ。

 (言ったら貸してくれるのかよ⁉親切だな⁉)

 「じゃ、盾持って4つの塊に分かれてください」

 エフォールの号令で暗黒ナイト達が均等に分かれていく。
向かおうとするとエフォールに肩を小突かれた。 
 
 「モトユウ2等兵はストップです。
  盾持ったことありますか?」

 「ラウンドシールドならあります」

 以前、職業ごとの訓練所で教えてもらった。少数ではあるがソードマンの中には剣と盾を併用する人もいるからだ。
 俺の回答を聞いたエフォールはゆっくり頷く。

 「そうなのですか。自分等が使用しているのはカイトシールドですからね。大きさも重さも違いますよ。
あそこに盾を置いているのて持ってきてください」

 地面に敷かれた厚めの布に盾が5つほど置かれていた。
さっそく向かって手に持つと確かにラウンドシールドとは比にならないぐらいズッシリ重い。

 (ラウンドシールドは木製だったからな。金属だと重い。
それにこれを持ちながら戦うとなると生半可な鍛錬じゃすぐにダウンするな)

 エフォールのところに戻る途中チラリと暗黒ナイト達の方を見ると、
分かれた2つの塊から4体1列でチームを作っており、そこにアタウルスが交互に拳を振り下ろしていた。 
1列目が攻撃を防いだ後すぐに最後尾に回り、次の列がまた攻撃を受け止め最後尾に回る動作を詰まることなく繰り返し行っていた。

 (あれなら体力も筋力もいるな……。俺は参加しない方が正解だ)

 今のまま参加しても「教会送り」になる可能性が高い。どう考えてもそこを考慮したのだろう。

 「俺は何をするんですか?」

 「盾に慣れてもらいます。なので、自分の飛び蹴りを防いでくださいッ!!」

 言い終わらないうちにエフォールは俺より高く飛び上がると蹴りを繰り出してきた。
全く構えられていなかったため頬に直撃をくらう。

 「ぐはっ⁉」

 「こんな感じで行くですよ!!」

 「うぇ!?」

 エフォールが再び飛びかかってくる。
 いきなりだったため盾ではなく腕で防いでしまった。蹴りを入れられたところが地味に痛い。

 「まだまだです!!」  

 「くっ……」

 今度はどうにか盾で防げたが端の方だった。
 エフォールは地面に着地したあと俺を見上げる。

 「今みたいな感じなのです。まだ1方向からしか攻撃しませんが、慣れてきたら多方向からしますよ」

 「わ、わかりました」

 それから何度もエフォールの攻撃を防いだ。慣れてくるとほぼ盾の中央で受け止められるようになってきた。
 防御しながらエフォールを観察しているとあることに気づく。

 (すばしっこいしジャンプ力もスタミナもあるのか。さすが副団長)

 エフォールはまだ息切れしていなかった。
疲れた様子もなく間髪を入れず攻撃を繰り出してくる。

 (ヘネラルさんがエフォールを副団長にしたの、なんとなくわかる気がする)



 しばらくして休憩時間に入ると、訓練が始まってから気になっていることを
俺の肩で休んでいるエフォールに尋ねてみた。

 「そういえばヘネラルさんは?」

 「団長は欠席ですよ。最近忙しいらしいので」

 「何してるんでしょうね?」

 「自分にもわからないのです。
噂では大きな戦いが近づいているそうなので、それに向けて準備してるのではないかと思いますが」

 エフォールが少し眉をひそめて答える。
魔王やヘネラルさんからハッキリとは聞かされていないみたいだ。

 「モトユウ2等兵は何か聞いてないです?」

 「え⁉い、いえ特には……」

 とっさに嘘をついてしまった。
知っていると言ったところで大した情報は持っていないのだが、なぜか隠してしまう。

 「そうですか……。てっきり何か知っているのかと思ったのですが」

 「お、俺にしか言わないことがあるなら、すでにみんな知ってると思いますけど」

 「そうですね。自分の考えすぎなのです。
  モトユウ2等兵はニンゲンなので、割とみんなペラペラ喋ってるんじゃないかと思ってました」

 「それ、どういう意味ですか?」

 思わず尋ねると、エフォールは不思議そうに何度か瞬きをしてから話し始める。

 「……魔族は魔族でいろいろ問題があるのですよ。同族では解決しないこともありますからね。
種族が違えば解決方法が見つかるかもしれないので」

 「な、なるほど」

 (わからなくもないけど……)

 人間と魔族。当たり前と言われればそれまでだが、扱いが違うことに少しショックを受けた。

 「喋りすぎました。
  さー、訓練再開ですよ!!」


 休憩時間が終わると、また猛攻を防ぐ訓練が始まった。
 俺は終始エフォールと別訓練で、最初は何度もくらっていた飛び蹴りを
終わる頃には多方向からでもほとんど防げるようになった。

 「お疲れさまでーす!!今日はここまでですよー!!」

 エフォールの号令でみんなが動きを止めると同時に、2体のアタウルスが背を向けて城に戻り始める。命令を終えたからだろう。
そして暗黒ナイト達も地面に倒れこんでしまった。そうとう体に応えたようだ。

 「大丈夫なんですか?」

 「いつもあんな感じですよ。暗黒ナイトは体力がつきにくいので何をやってもダウンするのが早いのです。
あれでもだいぶ持つようになってきたのですよ」

 「そうだったんですね。
  あ、1つ提案なんですけどフロ入りに行きませんか?」

 「いいですね。さっそく呼びかけるのです。
  今からみんなでフロ入りに行くですよー!!」

 エフォールが声を張り上げると微動だにしていなかった暗黒ナイト達がムクムク起き上がり、腕を上げる。
疲れているからどうかとは思ったが心配なかったようだ。

 「フロ!」

 「イク!」

 「カケユ!!」
 
 「ウィィィー!!」

 その様子を見てエフォールが小さなため息をつく。

 「どれだけ嬉しいんですか……」

 「全く動けなくて城まで運ぶよりはいいと思いますよ」

 「そうですね……」

 苦笑しているエフォールを肩に乗せたままフロに向かった。
しおりを挟む

処理中です...