命乞いから始まる魔族配下生活

月森かれん

文字の大きさ
66 / 93
第2章

今までの経緯を振り返る

しおりを挟む
 翌朝、起床した俺は床にあぐらをかいて唸っていた。
雑魚寝でまだ体が痛いのもあるが、エフォールにいろいろ聞きそびれてしまったのだ。

 「食料庫から少し食べ物分けてもらいたいのと、
外に出るときの監視を頼もうかと思ってたんだけどな」

 前者はもちろん自分でも採るが、食料庫があるのならそこから少し貰おうかと考えたから。
後者は単純に身の危険を感じているからだ。
 
 「昨日は明らかに危なかったし……。特に何かしてるわけでもないんだけど、
デュークさんにとっては印象的なのか?」

 理由はハッキリしないにしろアブないのだけはわかる。
 大きく息を吐いてからボンヤリと天井を眺めた。
考えないようにはしていても、どうしても「決戦」が頭をよぎる。

 「俺は……どうすべきなんだ?」

 しかしすでに魔王に「どちらにもつかない」と宣言してしまった。
人間と魔族、どちらが負けそうになっても黙って見ておかないといけない。

 「でも選択は間違ってないはず。戦えと言われても戦えないしな。
モンスター相手ならまだいいんだけど」

 我ながら呆れている。
 実をいうと最近モンスター相手も危うくなってきていた。勝手に数が増えているみたいなので俺が心配するようなことではないのだが、
諸事情を考えてしまうのだ。 

 (よくよく考えればモンスター達も生きるのに必死なんだよな。しかも俺達のように復活システムなんてなくて倒されたら終わり。
それが普通ではあるんだけど……)

 キリがないのは承知の上だが止まらない。 
 しかし、ここまで考えていてあることを思い出した。

 「デュークさんが起こしに来るんじゃね?」

 素早く立ち上がってドアから顔だけを出し様子を伺う。
幸い、誰の姿もなく足音も聞こえてこない。

 「よし、今のうちに出よう」

 周囲の様子を伺いつつ足音を立てないように慎重に移動する。とはいえ、
デュークさんの気配を感じ取れなかったときがあったのであまり意味はないのかもしれないが、ひとまずは大丈夫そうだ。

 「どこか落ち着けそうな場所……」

 デュークさんに会う心配がなく、なおかつ人通りのない場所。
必死に考えているとちょうどいい場所を閃いて手を叩く。
 
 「ドーワ族の工房の入り口付近なら大丈夫じゃないか?」 

 床が扉になっているしデュークさんも知らない。さっそく移動する。ついでにベッドができているかの確認もできるので、得した気分だ。
 先にベッドの確認に行くことにした。入口から様子を伺おうとすると小柄な人物と鉢合わせする。

 「あ、ネキ……」

 ネキはジロリと俺を見たあと無言で中を指さした。
親方がそこにいると教えてくれたのだろう。

 「ありが――」

 しかし、お礼を言い終わる前にネキは外に出ていってしまった。何かすることでもあるのだろうか。
工房に籠もりきりかと思っていたので少しビックリした。 
  
 (まだ怒ってるのか……。前みたいに完全にスルーされてないだけマシだけど) 

 「お、親方さーん」

 声をかけると休憩していたらしい親方が立ち上がってこちらに歩いてくる。 

 「よう。ベッドならまだだぞ。明日取りに来な」

 「あ、ありがとうございます……」

 (先に言われた。
  それにしても最初とだいぶ態度が変わったな。気を許してもらえているのか?)

 警戒しているだったのかもしれない。
 すると親方が思い出したように口を開いた。
 
 「そうそう、ネキへのミヤゲも忘れんなよ?楽しみにしてるみたいだからな」

 「わ、わかりました。
  あの、しばらく入り口付近に居ていいですか?じっくり考え事したくて」

 「別に構わねぇけどよ、なんでだ?自分の部屋とかねぇのか?」
 
 「ありますけど、そこにいたら苦手な人と会ってしまう可能性があるので」 

 「ふーん、よくわからねぇけど大変だな。邪魔にはならないと思うが、
道は譲ってくれよ?」

 「はい」

 返事をして親方と別れ、入り口付近に行くと大きなため息をつく。
たった今の間だけで疲れてしまった。

 「さて、整理するか」

 呟いて、記憶を呼び起こす。

 (もともと俺は「教会送り」になりたくないから魔王に命乞いした) 

 あの戦いで初めて最後に残り、1人になった途端「教会送り」があるにも関わらず死の恐怖が襲ってきた。
今までは何とも思ってなかったにも関わらずだ。
 それからどういうわけか命乞いが受け入れられ、俺は魔王の配下になった。

 「でも魔王にも何か考えがあるのは間違いない」

 命乞いをしてきたのは俺が初めてだったらしい。
ほんの好奇心かもしれないが、用済みだと判断されれば「教会送り」にされるはずだ。

 「それからデュークさんが付いて、魔王に城内を連れ回されて――
そういえば「教会送り」についてどう思ってるか聞かれたんだったな」

 2日目でいきなり尋ねられた。どう答えたらいいかわからないこともあり「便利なもの」と答えたのだが、
「つまらん」と返されてしまったのだ。 

 「でもわざわざ聞くってことは何かあるんだよな?」
 
 魔王は何かを知っている。やっぱり「教会送り」と「墓地送り」についてだろうか。

 「よくよく考えれば「教会送り」と墓地送り」って似てるよな。名前もシステムも」

 そこまで考えてふと新たな疑問が出てきた。 
 
 「なんで俺は「死」を怖いと思ったんだ?」

 普通なら「教会送り」で町に戻されるだけなので怖いことなんてないはずだ。
確かに意識を失うまで感覚はあるから痛いしキツいが、送られたら元通りなので何も心配はいらない。
 
 「もしかして「死」を怖いと思うことがおかしいのか?」

 「教会送り」のせいで老衰以外では人は完全に死ぬことはなくなった。
 生死観が狂っているといえばそうだと思う。

 「そもそも「教会送り」っていつからあるんだ?
まさか人が誕生してからずっとってわけじゃないだろうし」

 少なくとも俺が物心ついたときにはあった。
よく村の外に飛び出し、何度モンスターにやられて「教会送り」になるぞ、と言われたことか。

 「教会があるから村のみんなも「教会送り」があることはわかってたしなぁ。
だからお年寄り以外は死ぬことを怖がってる人なんていなかった。
 「墓地送り」は魔族専用で生き返るのは一緒だけど……
そうか!魂みたいなのが出るのは魔王に殺されたときだけだ!」

 デュークさんから聞いたのは魔王に殺された後のことだ。
魔王以外に殺されたときはどうなるのかわからない。

 「もう1回デュークさんに聞いてみるか?いや、会うの怖いしやめとこう。
 となると、魔王に直接聞くしか……教えてくれんのかな」

 可能性はなくはないが、「教えるわけがなかろう、たわけ!」とボコられそうな気がする。
 どうするかしばらく考える必要がありそうだ。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...