命乞いから始まる魔族配下生活

月森かれん

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第2部 「教会送り」追求編

魔王と再会する

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 (い、今までで1番ヤバいワガママだったかもしれねぇっ!) 

 強制的にワガママを聞いて解放してもらってから、
俺はみんなが眠る橋の下で膝を抱えて丸くなっていた。

 もう思い出したくもない。
そうするぐらいなら、アパリシアさんの魔法から逃げ回ってた方がマシだ。

 (クソッ……まだ余韻が残ってて全然眠くない……)

 ゴロゴロと寝返りを打ってみたが、変化はない。
ただ、かすかに水の流れる音だけが耳をついている。

 結局、眠れないまま朝になってしまった。
 陽が顔にあたったザルドが勢いよく起き上がり、大きく伸びをする。

 「よく寝たー!!……ってカルム、顔色悪いぞ?大丈夫か?」

 「ね、眠れなかったんですか?」

 「ああ……」

 モソモソと起きてきたアリーシャにダルさ全開で答えてしまった。
一晩眠れなかったのは痛い。

 「カルム!あんた体調悪いなら早く言いなさいよ!倒れられても困るから!」

 フローがいつも通りの強い口調で言ってくる。
でも、本気で俺を心配してくれているのはじゅうぶん伝わってきた。

 「ありがとう、フロー。
本当に悪くなったら言うから、大丈夫だ」

 正直、気分はよくないが立ち止まるわけにはいかない。フローは不満げだったが、何も言わなかった。
 小石を散りばめて形跡を消してから出発した。


 昨夜、デュークさんと話した時に見えていた西側の街明かりはトゥラクのもので間違いないだろう、とアリーシャから聞いた。
なので、その方向に向けて進んでいる。
 旧街道だけあって石畳はヒビ割れているし、小屋の残骸のような物も落ちていて歩きづらい。
脇には茂みが鬱蒼としていて、道から外れればすぐに迷っていしまいそうだった。


 それにしても、不気味なぐらい追手に遭遇していなかった。
エリクさん達の偽情報が効いているのだろうか。

 「追手の影……見ないよな?」

 「そ、そうですね。トゥラクにも冒険者は居ますから、
探しに来ててもおかしくはないんですけど……」

 俺とアリーシャが話していると、フローが眉をひそめて割り込んでくる。

 「あんまり考えたくないけど、トゥラクの守りを固めてるとかないわよね?」

 「俺達は司祭への侮辱・暴行罪で追われてるんだぞ?トゥラクに向かう理由がないだろ?」
 
 「それもそうね……」

 ザルドの意見を聞くとフローは少しだけ眉を開いた。

 「でも、なんとなく俺も胸騒ぎがするんだ。頭の隅に置いておいたほうがいいかもしれない」

 というのも、フローの考えを聞いて、可能性がないわけではないなと思ったからだ。
その瞬間背筋が寒くなって、腕に鳥肌が立ってきた。

 また、直感が訴えかけてきている。
これまでに何度も危機を回避したため、無駄にはできない。

 (司祭や他の冒険者がどう考えるか知らないけど、
逆恨みで大司教を狙ってるとか思われてたら、守りを固めるだろうし……)

 突如、強い風が吹き抜けた。気づいた時にはデュークさんが道を塞ぐように立っており、真顔で俺達を凝視している。
冗談で塞いでいるわけではなさそうだ。
 茂みが増えてきた辺りで道を塞いできたので追手達には見つかりづらいだろうが、
立ち止まっている暇はない。

 「ちょっと!何のつもり!?」
 
 「マーさんの気配がする」

 「え?」

 「ま、魔王……さんの?」

 (嘘……じゃない。でも気配なんてわかるのか?)

 今度は確信を持って本気だと思った。
 俺が聞こうと口を開く前に、フローが突っ込む。

 「なんでわかるのよ!?」

 「あー、だってコレがあるから、な!」

 デュークさんが言った直後、黄色の目が一瞬赤く光った。
アリーシャとフローが息を呑む。

 「ま、魔眼っ!?」

 「あんた、そんなもの持ってたの!?教えなさいよ!」

 「だって聞かれなかったし~?」 

 (あ、そういや持ってたな……。正しくは魔王からつけてもらってるやつだけど)

 魔眼は罠察知等に使用される、一時的な自己強化魔法だ。
魔族内の問題を解決するために、デュークさんを始めとする幹部はつけてもらっているらしい。

 (知ってたのは黙っとこう。バレたらシバかれる)

 「もちろん、俺のじゃねぇからな?マーさんの。だから近くにいるってわかるのさ」

 デュークさんは笑顔で言うと、また真顔に戻った。  

 「だから、ちょっと連れてくるわ」

 「ま、待て!もしそれで戦闘にでもなったら……」

 「さすがに俺が交渉する。なんだかんだ、連れてきてもらったしな。
それにマーさんもいきなり攻撃はしねぇだろうよ。武器でも構えてない限りな」

 ザルドが閉口する。その間に、デュークさんは右側の茂みに飛び込んでいった。
 俺は念の為注意しておくことにする。

 「ってことだから、武器は構えないでくれ」

 「でも、防御ぐらいはしていいでしょ?」

 「魔王が攻撃しそうな素振りを見せた時は……。
でもギリギリまで手は出さないでほしい」

 「もちろんだ。ここまで来て「教会送り」なんて、ごめんだからな」

 「は、はい。自ら捕まりに行くようなものですし……」

 みんなの顔を見ながら言うと、3人ともしっかりと頷いてくれた。


 少しして、去る前の威圧感はどこへいったのか、デュークさんがニヤつきながら戻ってくる。
茂みに飛び込んだせいで、黒い服に枯れ草がくっついていた。

 「ほらほら、マーさん!」

 腕を掴まれている人影を見て、俺達は絶句した。
 デュークさんと同じように枯れ草をくっつけて、ところどころ破けた麻服を着た赤髪の少年が、面倒くさそうに目を細めている。
そう、大司教の年齢を暴露し、俺達が追いかけられる原因を作った張本人だった。
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