83 / 93
第2部 「教会送り」追求編
魔王と再会する
しおりを挟む
(い、今までで1番ヤバいワガママだったかもしれねぇっ!)
強制的にワガママを聞いて解放してもらってから、
俺はみんなが眠る橋の下で膝を抱えて丸くなっていた。
もう思い出したくもない。
そうするぐらいなら、アパリシアさんの魔法から逃げ回ってた方がマシだ。
(クソッ……まだ余韻が残ってて全然眠くない……)
ゴロゴロと寝返りを打ってみたが、変化はない。
ただ、かすかに水の流れる音だけが耳をついている。
結局、眠れないまま朝になってしまった。
陽が顔にあたったザルドが勢いよく起き上がり、大きく伸びをする。
「よく寝たー!!……ってカルム、顔色悪いぞ?大丈夫か?」
「ね、眠れなかったんですか?」
「ああ……」
モソモソと起きてきたアリーシャにダルさ全開で答えてしまった。
一晩眠れなかったのは痛い。
「カルム!あんた体調悪いなら早く言いなさいよ!倒れられても困るから!」
フローがいつも通りの強い口調で言ってくる。
でも、本気で俺を心配してくれているのはじゅうぶん伝わってきた。
「ありがとう、フロー。
本当に悪くなったら言うから、大丈夫だ」
正直、気分はよくないが立ち止まるわけにはいかない。フローは不満げだったが、何も言わなかった。
小石を散りばめて形跡を消してから出発した。
昨夜、デュークさんと話した時に見えていた西側の街明かりはトゥラクのもので間違いないだろう、とアリーシャから聞いた。
なので、その方向に向けて進んでいる。
旧街道だけあって石畳はヒビ割れているし、小屋の残骸のような物も落ちていて歩きづらい。
脇には茂みが鬱蒼としていて、道から外れればすぐに迷っていしまいそうだった。
それにしても、不気味なぐらい追手に遭遇していなかった。
エリクさん達の偽情報が効いているのだろうか。
「追手の影……見ないよな?」
「そ、そうですね。トゥラクにも冒険者は居ますから、
探しに来ててもおかしくはないんですけど……」
俺とアリーシャが話していると、フローが眉をひそめて割り込んでくる。
「あんまり考えたくないけど、トゥラクの守りを固めてるとかないわよね?」
「俺達は司祭への侮辱・暴行罪で追われてるんだぞ?トゥラクに向かう理由がないだろ?」
「それもそうね……」
ザルドの意見を聞くとフローは少しだけ眉を開いた。
「でも、なんとなく俺も胸騒ぎがするんだ。頭の隅に置いておいたほうがいいかもしれない」
というのも、フローの考えを聞いて、可能性がないわけではないなと思ったからだ。
その瞬間背筋が寒くなって、腕に鳥肌が立ってきた。
また、直感が訴えかけてきている。
これまでに何度も危機を回避したため、無駄にはできない。
(司祭や他の冒険者がどう考えるか知らないけど、
逆恨みで大司教を狙ってるとか思われてたら、守りを固めるだろうし……)
突如、強い風が吹き抜けた。気づいた時にはデュークさんが道を塞ぐように立っており、真顔で俺達を凝視している。
冗談で塞いでいるわけではなさそうだ。
茂みが増えてきた辺りで道を塞いできたので追手達には見つかりづらいだろうが、
立ち止まっている暇はない。
「ちょっと!何のつもり!?」
「マーさんの気配がする」
「え?」
「ま、魔王……さんの?」
(嘘……じゃない。でも気配なんてわかるのか?)
今度は確信を持って本気だと思った。
俺が聞こうと口を開く前に、フローが突っ込む。
「なんでわかるのよ!?」
「あー、だってコレがあるから、な!」
デュークさんが言った直後、黄色の目が一瞬赤く光った。
アリーシャとフローが息を呑む。
「ま、魔眼っ!?」
「あんた、そんなもの持ってたの!?教えなさいよ!」
「だって聞かれなかったし~?」
(あ、そういや持ってたな……。正しくは魔王からつけてもらってるやつだけど)
魔眼は罠察知等に使用される、一時的な自己強化魔法だ。
魔族内の問題を解決するために、デュークさんを始めとする幹部はつけてもらっているらしい。
(知ってたのは黙っとこう。バレたらシバかれる)
「もちろん、俺のじゃねぇからな?マーさんの。だから近くにいるってわかるのさ」
デュークさんは笑顔で言うと、また真顔に戻った。
「だから、ちょっと連れてくるわ」
「ま、待て!もしそれで戦闘にでもなったら……」
「さすがに俺が交渉する。なんだかんだ、連れてきてもらったしな。
それにマーさんもいきなり攻撃はしねぇだろうよ。武器でも構えてない限りな」
ザルドが閉口する。その間に、デュークさんは右側の茂みに飛び込んでいった。
俺は念の為注意しておくことにする。
「ってことだから、武器は構えないでくれ」
「でも、防御ぐらいはしていいでしょ?」
「魔王が攻撃しそうな素振りを見せた時は……。
でもギリギリまで手は出さないでほしい」
「もちろんだ。ここまで来て「教会送り」なんて、ごめんだからな」
「は、はい。自ら捕まりに行くようなものですし……」
みんなの顔を見ながら言うと、3人ともしっかりと頷いてくれた。
少しして、去る前の威圧感はどこへいったのか、デュークさんがニヤつきながら戻ってくる。
茂みに飛び込んだせいで、黒い服に枯れ草がくっついていた。
「ほらほら、マーさん!」
腕を掴まれている人影を見て、俺達は絶句した。
デュークさんと同じように枯れ草をくっつけて、ところどころ破けた麻服を着た赤髪の少年が、面倒くさそうに目を細めている。
そう、大司教の年齢を暴露し、俺達が追いかけられる原因を作った張本人だった。
強制的にワガママを聞いて解放してもらってから、
俺はみんなが眠る橋の下で膝を抱えて丸くなっていた。
もう思い出したくもない。
そうするぐらいなら、アパリシアさんの魔法から逃げ回ってた方がマシだ。
(クソッ……まだ余韻が残ってて全然眠くない……)
ゴロゴロと寝返りを打ってみたが、変化はない。
ただ、かすかに水の流れる音だけが耳をついている。
結局、眠れないまま朝になってしまった。
陽が顔にあたったザルドが勢いよく起き上がり、大きく伸びをする。
「よく寝たー!!……ってカルム、顔色悪いぞ?大丈夫か?」
「ね、眠れなかったんですか?」
「ああ……」
モソモソと起きてきたアリーシャにダルさ全開で答えてしまった。
一晩眠れなかったのは痛い。
「カルム!あんた体調悪いなら早く言いなさいよ!倒れられても困るから!」
フローがいつも通りの強い口調で言ってくる。
でも、本気で俺を心配してくれているのはじゅうぶん伝わってきた。
「ありがとう、フロー。
本当に悪くなったら言うから、大丈夫だ」
正直、気分はよくないが立ち止まるわけにはいかない。フローは不満げだったが、何も言わなかった。
小石を散りばめて形跡を消してから出発した。
昨夜、デュークさんと話した時に見えていた西側の街明かりはトゥラクのもので間違いないだろう、とアリーシャから聞いた。
なので、その方向に向けて進んでいる。
旧街道だけあって石畳はヒビ割れているし、小屋の残骸のような物も落ちていて歩きづらい。
脇には茂みが鬱蒼としていて、道から外れればすぐに迷っていしまいそうだった。
それにしても、不気味なぐらい追手に遭遇していなかった。
エリクさん達の偽情報が効いているのだろうか。
「追手の影……見ないよな?」
「そ、そうですね。トゥラクにも冒険者は居ますから、
探しに来ててもおかしくはないんですけど……」
俺とアリーシャが話していると、フローが眉をひそめて割り込んでくる。
「あんまり考えたくないけど、トゥラクの守りを固めてるとかないわよね?」
「俺達は司祭への侮辱・暴行罪で追われてるんだぞ?トゥラクに向かう理由がないだろ?」
「それもそうね……」
ザルドの意見を聞くとフローは少しだけ眉を開いた。
「でも、なんとなく俺も胸騒ぎがするんだ。頭の隅に置いておいたほうがいいかもしれない」
というのも、フローの考えを聞いて、可能性がないわけではないなと思ったからだ。
その瞬間背筋が寒くなって、腕に鳥肌が立ってきた。
また、直感が訴えかけてきている。
これまでに何度も危機を回避したため、無駄にはできない。
(司祭や他の冒険者がどう考えるか知らないけど、
逆恨みで大司教を狙ってるとか思われてたら、守りを固めるだろうし……)
突如、強い風が吹き抜けた。気づいた時にはデュークさんが道を塞ぐように立っており、真顔で俺達を凝視している。
冗談で塞いでいるわけではなさそうだ。
茂みが増えてきた辺りで道を塞いできたので追手達には見つかりづらいだろうが、
立ち止まっている暇はない。
「ちょっと!何のつもり!?」
「マーさんの気配がする」
「え?」
「ま、魔王……さんの?」
(嘘……じゃない。でも気配なんてわかるのか?)
今度は確信を持って本気だと思った。
俺が聞こうと口を開く前に、フローが突っ込む。
「なんでわかるのよ!?」
「あー、だってコレがあるから、な!」
デュークさんが言った直後、黄色の目が一瞬赤く光った。
アリーシャとフローが息を呑む。
「ま、魔眼っ!?」
「あんた、そんなもの持ってたの!?教えなさいよ!」
「だって聞かれなかったし~?」
(あ、そういや持ってたな……。正しくは魔王からつけてもらってるやつだけど)
魔眼は罠察知等に使用される、一時的な自己強化魔法だ。
魔族内の問題を解決するために、デュークさんを始めとする幹部はつけてもらっているらしい。
(知ってたのは黙っとこう。バレたらシバかれる)
「もちろん、俺のじゃねぇからな?マーさんの。だから近くにいるってわかるのさ」
デュークさんは笑顔で言うと、また真顔に戻った。
「だから、ちょっと連れてくるわ」
「ま、待て!もしそれで戦闘にでもなったら……」
「さすがに俺が交渉する。なんだかんだ、連れてきてもらったしな。
それにマーさんもいきなり攻撃はしねぇだろうよ。武器でも構えてない限りな」
ザルドが閉口する。その間に、デュークさんは右側の茂みに飛び込んでいった。
俺は念の為注意しておくことにする。
「ってことだから、武器は構えないでくれ」
「でも、防御ぐらいはしていいでしょ?」
「魔王が攻撃しそうな素振りを見せた時は……。
でもギリギリまで手は出さないでほしい」
「もちろんだ。ここまで来て「教会送り」なんて、ごめんだからな」
「は、はい。自ら捕まりに行くようなものですし……」
みんなの顔を見ながら言うと、3人ともしっかりと頷いてくれた。
少しして、去る前の威圧感はどこへいったのか、デュークさんがニヤつきながら戻ってくる。
茂みに飛び込んだせいで、黒い服に枯れ草がくっついていた。
「ほらほら、マーさん!」
腕を掴まれている人影を見て、俺達は絶句した。
デュークさんと同じように枯れ草をくっつけて、ところどころ破けた麻服を着た赤髪の少年が、面倒くさそうに目を細めている。
そう、大司教の年齢を暴露し、俺達が追いかけられる原因を作った張本人だった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
自力で帰還した錬金術師の爛れた日常
ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」
帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。
さて。
「とりあえず──妹と家族は救わないと」
あと金持ちになって、ニート三昧だな。
こっちは地球と環境が違いすぎるし。
やりたい事が多いな。
「さ、お別れの時間だ」
これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる