没落令嬢と年下の幼馴染 〜「心に決めた人がいる」と嘘をついた令嬢が幸せな結婚をするまでの話〜

ナナカ

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騎士

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 何もないせいで、前庭はとても日当たりがいい。最近の流行りなら、石像とかを飾るらしいけれど、私はこの何もない昔風の姿に馴染んでいた。

 ここで、昔はお父様が子供たちに本の読み聞かせをしていた。
 昔の伝説、王様の話、守るべき法律の話もした。
 大人たちを集めて、効率のいい農作業の方法について話し合うこともあった。
 お父様も、子供たちも、大人たちも、皆が草の上に座っていた。簡単なお菓子を振る舞ったこともあった。収穫の時期は、ここで農民たちに食事や酒を振舞った。

 騎士たちが新しい就職先へと旅立った日は、私はここでみんなを見送った。オレンが何度も何度も振り返っていたことを覚えている。
 あの頃のオレンは背は伸びていたけど、騎士たちに比べるとまだ細かった。あれから何度か手紙が来て、王国騎士団に入ったことは知っている。お父様が亡くなった時は、丁寧なお悔やみの手紙が届いた。でもそれっきりだ。今は何をしているのやら。

「……私より二歳下だから、オレンも二十三歳になっているわよね。早ければ結婚していてもおかしくないかな」

 王国騎士団は、若い女性たちに人気があると聞いている。
 オレンは低い生まれだけど、異国の血が入っているせいか独特の雰囲気があったし、顔立ちも整っていた。
 きっと女性たちが放っておかない。
 この屋敷に通っていた頃だって、メイドや出入りしていた街の娘たちが騒いでいたから。

 それに引き換え、私は行き遅れの二十五歳。
 ガストンやハールの好意で、やっと体面を保っている没落貴族だ。使用人を使っていないから手は荒れているし、肌だってガサガサだ。髪も手入れが行き届かなかった。
 ……でもここ最近は、ハールが用意した美容液などのおかげで、少しだけきれいになりつつある。
 ハールは、本当によく気がつくいい人なのだ。

「私と結婚するのが、もったいないわよね……」

 つい、そんなことをつぶやいてしまった時、遠くから馬が駆けてくる音がした。
 あんなに走らせているなんて、この辺りでは珍しい。
 どうしたのだろうと目を向けると、ものすごい勢いで馬を走らせる騎士が見えた。鮮やかな色のマントが翻っている。

 王国騎士団の制服だ。

 そう気付いた瞬間、私は立ち尽くしてしまった。心臓がうるさいほど早く打っている。
 なぜ、ここに王国騎士がやってくるのだろう。
 ……まさか。いや、そんなはずはない。

 私が混乱している間に、騎馬は屋敷の敷地に入ってきた。一応、門にはハールが派遣してくれた人がいる。でも王国騎士団の制服を見て、慌てて門を大きく開いてしまった。
 ものすごい速さで駆けてきた馬は、私のすぐ近くで止まった。

 とても美しくてたくましい馬だ。かなりの距離を走ってきたようなのに、まだまだ体力が残っている。鎧には王家を示す金の紋章が入っている。
 私は顔を上げる勇気がなくて、じっと馬の腹ばかりを見ていた。

「ソフィア様!」

 馬から飛び降りた騎士が、駆け寄ってくる。
 私はおそるおそる目を上げた。
 立派な剣と、王国騎士団の紋章の入った制服。マントは土埃で白っぽく汚れている。しっかりと鍛えているのか肩幅は広く、背も高い。……私が覚えているよりも、少し背が伸びたようだ。

「オレン……」

 ぐしゃぐしゃになった髪を乱暴にかきあげて、騎士は……オレンは呆然とする私の両肩に手を置いて、顔をしかめた。

「お久しぶりです。ソフィア様。……ハールと結婚すると聞きました」
「え、ええ、そうよ。ああ、ハールが知らせてくれたのね」
「なぜ、あいつと結婚するんですか! あなたはずっと想い人を待っていると聞いていたのに!」
「……え?」
「あなたが心に決めた人を待っていると聞いたから、せめてあなたに誇ってもらえるような、立派な参列者になろうと頑張ってきたのに。なぜあきらめるんですか! ハールの野郎が脅してきたんなら、俺が脅し返してやりますよ!」

 オレンの口調は激しい。
 怖いくらいだ。でも、オレンの目は昔のままで、私の肩に置いている手は大きい。
 なんて立派な騎士になったんだろう。
 誤解して私のために怒っているようだ。昔のまま、私を「お嬢様」として守ろうとしてくれている。

 もう、忘れられてしまったかと思っていた。
 でも……私のことを覚えてくれていた。
 お父様も、こんなに立派な騎士になったオレンを見たら、とても喜んでいただろう。きっと嬉しそうに笑って、肩を叩きながら「今夜はとっておきの酒を開けよう!」と言ったはずだ。

「……あ、ソフィア様?! す、すみません! 俺、お嬢様を脅しているわけじゃないんですっ! どうしよう、仕事柄、ちょっと強面になってしまったようで……すみません!」

 急に涙を流してしまった私に、オレンは慌てて肩から手をのけた。どうすればいいかわからずに、おろおろと手を動かしている。

 ああ、オレンだ。
 私が知っているオレンのままだ。
 私は嬉しくて、少し笑ってしまった。笑いながら、頬に落ちてしまった涙を急いで拭った。
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