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私をもらってくれる?
しおりを挟む「おい、オレン! お前、なんでそこで急に弱気になるんだよ! もっとガツガツいけよ!」
ハールだ。
屋敷を訪問して、私たちを見つけて茂みに隠れていたようだ。
いつからいたのだろう。
腹を抱えて笑っているハールを、オレンはジロリと睨んだ。
「……ハール! お前、もっと正確に手紙を書けよ!」
「いいじゃないか! そうでもしないと、お前は動かないだろう?」
「そ、それはそうかもしれないが……というか、お前、邪魔するな!」
「ああ、それは悪かった。だが、肝心なところで弱気になって……くそっ、しばらく思い出しただけで笑ってしまうぞ!」
そう言って、涙を流しながら笑っている。
……ハールって、昔から笑い出したら止まらない子なのよね。
私がぼんやりそんなことを思い出していると、ぐいと手を引っ張られた。
そうだ。ぼんやりしている場合ではなかった。
まだオレンは私の前に片膝をついていて、私の手は握り込まれている。
「あいつに邪魔されてしまいましたが、その、返事は…………聞かせてもらえると……嬉しい、かもしれません」
「オレン! もっとはっきり言えよ! 俺を笑い殺すつもりか!」
「黙れ! …………ソフィア様、あなたが好きです! 結婚してください!」
真っ赤になったオレンが、自棄になったように叫んだ。
でも、私を見上げる目はとても熱い。
そして不安そうだ。
王国騎士団に入って、私はよくわからないけど、かなりの出世をしていて、黙って立っていると女性たちが大騒ぎしそうな立派な男になったのに、オレンはオレンだった。
強気かと思えば、真っ赤になって、とても控えめな言葉しか使えなくて、でも私を好きだと言ってくれる。
「……私、財産がないどころか、借金があるのよ?」
「俺が財産を作ります!」
「もう二十五歳になったわ」
「俺も、やっと二十三歳になりました!」
「本当に、私でいいの?」
「ソフィア様がいいです」
オレンはキッパリと言った。
でも、すぐにまた視線を揺らがせ、目を伏せた。
「……俺は低い生まれだから、ソフィア様は嫌かもしれませんが」
「馬鹿ね!」
私はぎゅっとオレンの手を両手で握り返した。
また私を見上げた目を見つめ、そっと地面に膝をつけた。
「ソフィア様! 服が汚れます!」
「ねぇ、オレン。お父様は、生まれより本人がどれだけ努力するかが大切だ、といつも言っていたわ」
「……はい。俺はずっと、旦那様のお言葉に励まされてきました」
「私もそう思う。努力して今の地位にいるオレンは、誰より素晴らしいわ」
オレンはゆっくりと瞬きをした。
はにかんだように笑い、私の手に額を当てた。
「ありがとうございます」
顔を伏せたオレンの首に、薄い傷跡があった。
昔はあんな傷跡はなかった。騎士としての日々の中で残ったものだろう。もっと深かったら、もっと位置がずれていたら、オレンはここにいなかったのかもしれない。
そう思うと、とても怖くなった。
私が知らないところでいなくなるなんて、絶対に耐えられない。
私は傷跡の残る首に、ぎゅっと腕を回した。
「……オレン、私をもらってくれる?」
オレンは答えない。
何も言わず、でも私の体を腕で包み込んで決して離そうとはしなかった。
◇
ガストンは、私がハールとは結婚しないと伝えても全く怒らなかった。オレンが用意したお金を受け取ると、半分に分けて「お祝い金です!」と私に押し付けた。
気のせいでなければ、ガストンはとても嬉しそうで、ハールもやっぱりとても嬉しそうだった。
金貸し親子は、突然こだわりも捨てた。
ガストンはすでにあった紙で結婚申請書を作りあげ、金貸しらしい怖い顔で「早く署名しろ」とオレンに迫った。
刺繍の模様にこだわっていたはずのハールは、「この布に刺繍を入れるなんて冒涜だ」と言い出して、職人たちに睨まれていた。
そうして、三ヶ月後。
私は、オレンと結婚した。
王国騎士団の礼装姿のオレンはとても素敵だったけれど、私は見惚れる余裕はなかった。
結婚式には、本当に騎士団長様が参列するためにきてくれた。オレンの部下だと名乗った騎士たちも多数参列していた。
どうやらオレンは、結婚式の一週間前に王国騎士団の副団長に就任していたらしい。
照れずに教えてくれればいいのに。お祝いを言いそびれてしまった。
そして……。
「一緒に屋台巡りをした飲み友達です!」
笑顔でそう名乗ったのは、第三王子殿下だった。
……本当に王子殿下が結婚式に参列してくださるなんて!
いろいろ、オレンには言いたいことがある。……とてもたくさんあったのだけど。
オレンは、式の間も、その後の宴の間もずっと泣いていて、私は呆れてそれどころではなくなってしまった。
こんなによく泣く人だったなんて、知らなかった。
でもそんな一面もオレンらしくて……私は少しも嫌いではない。
◇ 終 ◇
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