6 / 6
私をもらってくれる?
しおりを挟む「おい、オレン! お前、なんでそこで急に弱気になるんだよ! もっとガツガツいけよ!」
ハールだ。
屋敷を訪問して、私たちを見つけて茂みに隠れていたようだ。
いつからいたのだろう。
腹を抱えて笑っているハールを、オレンはジロリと睨んだ。
「……ハール! お前、もっと正確に手紙を書けよ!」
「いいじゃないか! そうでもしないと、お前は動かないだろう?」
「そ、それはそうかもしれないが……というか、お前、邪魔するな!」
「ああ、それは悪かった。だが、肝心なところで弱気になって……くそっ、しばらく思い出しただけで笑ってしまうぞ!」
そう言って、涙を流しながら笑っている。
……ハールって、昔から笑い出したら止まらない子なのよね。
私がぼんやりそんなことを思い出していると、ぐいと手を引っ張られた。
そうだ。ぼんやりしている場合ではなかった。
まだオレンは私の前に片膝をついていて、私の手は握り込まれている。
「あいつに邪魔されてしまいましたが、その、返事は…………聞かせてもらえると……嬉しい、かもしれません」
「オレン! もっとはっきり言えよ! 俺を笑い殺すつもりか!」
「黙れ! …………ソフィア様、あなたが好きです! 結婚してください!」
真っ赤になったオレンが、自棄になったように叫んだ。
でも、私を見上げる目はとても熱い。
そして不安そうだ。
王国騎士団に入って、私はよくわからないけど、かなりの出世をしていて、黙って立っていると女性たちが大騒ぎしそうな立派な男になったのに、オレンはオレンだった。
強気かと思えば、真っ赤になって、とても控えめな言葉しか使えなくて、でも私を好きだと言ってくれる。
「……私、財産がないどころか、借金があるのよ?」
「俺が財産を作ります!」
「もう二十五歳になったわ」
「俺も、やっと二十三歳になりました!」
「本当に、私でいいの?」
「ソフィア様がいいです」
オレンはキッパリと言った。
でも、すぐにまた視線を揺らがせ、目を伏せた。
「……俺は低い生まれだから、ソフィア様は嫌かもしれませんが」
「馬鹿ね!」
私はぎゅっとオレンの手を両手で握り返した。
また私を見上げた目を見つめ、そっと地面に膝をつけた。
「ソフィア様! 服が汚れます!」
「ねぇ、オレン。お父様は、生まれより本人がどれだけ努力するかが大切だ、といつも言っていたわ」
「……はい。俺はずっと、旦那様のお言葉に励まされてきました」
「私もそう思う。努力して今の地位にいるオレンは、誰より素晴らしいわ」
オレンはゆっくりと瞬きをした。
はにかんだように笑い、私の手に額を当てた。
「ありがとうございます」
顔を伏せたオレンの首に、薄い傷跡があった。
昔はあんな傷跡はなかった。騎士としての日々の中で残ったものだろう。もっと深かったら、もっと位置がずれていたら、オレンはここにいなかったのかもしれない。
そう思うと、とても怖くなった。
私が知らないところでいなくなるなんて、絶対に耐えられない。
私は傷跡の残る首に、ぎゅっと腕を回した。
「……オレン、私をもらってくれる?」
オレンは答えない。
何も言わず、でも私の体を腕で包み込んで決して離そうとはしなかった。
◇
ガストンは、私がハールとは結婚しないと伝えても全く怒らなかった。オレンが用意したお金を受け取ると、半分に分けて「お祝い金です!」と私に押し付けた。
気のせいでなければ、ガストンはとても嬉しそうで、ハールもやっぱりとても嬉しそうだった。
金貸し親子は、突然こだわりも捨てた。
ガストンはすでにあった紙で結婚申請書を作りあげ、金貸しらしい怖い顔で「早く署名しろ」とオレンに迫った。
刺繍の模様にこだわっていたはずのハールは、「この布に刺繍を入れるなんて冒涜だ」と言い出して、職人たちに睨まれていた。
そうして、三ヶ月後。
私は、オレンと結婚した。
王国騎士団の礼装姿のオレンはとても素敵だったけれど、私は見惚れる余裕はなかった。
結婚式には、本当に騎士団長様が参列するためにきてくれた。オレンの部下だと名乗った騎士たちも多数参列していた。
どうやらオレンは、結婚式の一週間前に王国騎士団の副団長に就任していたらしい。
照れずに教えてくれればいいのに。お祝いを言いそびれてしまった。
そして……。
「一緒に屋台巡りをした飲み友達です!」
笑顔でそう名乗ったのは、第三王子殿下だった。
……本当に王子殿下が結婚式に参列してくださるなんて!
いろいろ、オレンには言いたいことがある。……とてもたくさんあったのだけど。
オレンは、式の間も、その後の宴の間もずっと泣いていて、私は呆れてそれどころではなくなってしまった。
こんなによく泣く人だったなんて、知らなかった。
でもそんな一面もオレンらしくて……私は少しも嫌いではない。
◇ 終 ◇
30
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
隣国の王族公爵と政略結婚したのですが、子持ちとは聞いてません!?
朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です
恋愛
「わたくしの旦那様には、もしかして隠し子がいるのかしら?」
新婚の公爵夫人レイラは、夫イーステンの隠し子疑惑に気付いてしまった。
「我が家の敷地内で子供を見かけたのですが?」と問えば周囲も夫も「子供なんていない」と否定するが、目の前には夫そっくりの子供がいるのだ。
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n3645ib/ )
身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~
ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。
彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。
――死んだはずの彼女が、生きている?
同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。
「今さら、逃げ道があると思うなよ」
瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。
秘された皇子と、選び直した愛。
三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?
* * *
後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
老伯爵へ嫁ぐことが決まりました。白い結婚ですが。
ルーシャオ
恋愛
グリフィン伯爵家令嬢アルビナは実家の困窮のせいで援助金目当ての結婚に同意させられ、ラポール伯爵へ嫁ぐこととなる。しかし祖父の戦友だったというラポール伯爵とは五十歳も歳が離れ、名目だけの『白い結婚』とはいえ初婚で後妻という微妙な立場に置かれることに。
ぎこちなく暮らす中、アルビナはフィーという女騎士と出会い、友人になったつもりだったが——。
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!
柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」
『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。
セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。
しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。
だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
良いお話でした
あったかいラブストーリー♡みんな素敵な愛に溢れたひとたち!!ほっこりしました。幸せ充電完了!