無自覚少女は夢をあきらめない 〜鏡を見ろ? 何を言われても魔王を目指して頑張ります!〜

ナナカ

文字の大きさ
6 / 63
一章 八歳で抱いた夢

(5)大きくなったら

しおりを挟む

「しかし、本当におまえたち兄妹は規格外だよな。都でもヘインほど腕の立つ男はまだ見たことがない。それに……おまえはおまえだし」

 大きな手が動くたびに、私の肩から力が抜けていく。
 あきれ顔で笑うナイローグは、しみじみ見ても整った顔をしている。
 村に戻る度に、村中のお姉さんたちが落ち着かなくなるのも納得だ。村中どころか、周辺の大きな街からも人が集まってきたり、いい年のおばさんたちまで落ち着かなくなるのだって、今では公然の秘密になっている。
 と言うか……そうか。ナイローグはただの村外への出稼ぎじゃなくて、都で働いているのか。
 それで村中のお姉さんたちの目の色が変わるんだろうな。ふーん。

 ……でも、思うのだ。
 ヘイン兄さんがキカクガイというなら、子供時代に大鹿に乗ったり、父さんに捕まって牛の代わりに鋤を引かされたりしていたのは、遊び仲間のナイローグも一緒だったはずだ。兄さんがキカクガイなら、それと同等だった彼も間違いなくキカクガイだと思う。

 私の密かな不満を見抜いたのか、彼は優しく髪をなで、それから髪の毛がぐしゃぐしゃに絡まっていることに気づいたようだ。
 指先で解きほぐしかけて、その手を止めた。

「そうだ、シヴィルに土産があったんだ」
「……お土産?」
「いきなりおばさんに捕まっていたから、すっかり忘れていたよ」

 そういって、ポケットから彼の手のひらより小さめの薄い包みを取り出した。布に包まれていたそれは、きれいな櫛だった。
 ナイローグは、さっそくその櫛で髪を丁寧に解きほぐし始める。

 六人兄弟の一番上であるナイローグは、妹も二人いる。だから、髪に櫛を入れる手つきはとても慣れている。
 見かけのわりに手先の不器用なヘイン兄さんより段違いに丁寧で、それでいて手早い。毛先からそっと櫛を入れていくと、くせのある私の髪はどんどんきれいに整っていく。
 久しぶりに髪の手入れをしてもらって、なんだかとてもいい気分になった。

 そんな中で、ふと思いつく。
 ナイローグの言葉を信じていいのなら、私の魔力は規格外らしい。それならば、私は魔力を生かす職業につけばいいんじゃないかな。

 そう気付いた私は、さっそく魔力を使う職業と言うものを考える。
 髪を整えてもらいながら考えるたけれど、残念ながら私はナイローグの職業が全く思いつかないほどの子供だ。当然のように具体的な職業は出てこない。
 前から横へと編み込みにしてもらいながら、私がどんなにうなっても全く成果が上がらなかった。


 でも、一つだけはっきりしていることがある。
 ヘイン兄さんもナイローグも、どうやら魔力は持っていないらしい。もしかしたら少しくらいは魔法も使えるかもしれないけれど、今でも魔法だけは私の方が上だろう。

 と言うことは。
 私が本格的に魔力を使えるようになれば、兄さんたちより強くなれるかもしれない。つまり、彼らを見下す立場になるのだ。
 なんてすばらしい。
 物心ついたときから圧倒的優位に立っている兄さんたちより上になれるなんて、それだけで価値があるではないか!

 一人で高揚した私は、髪を整えてもらいながらひたすら楽しい未来を思い描いていく。
 優しいナイローグは、私が一人でニヤニヤしていてもあきれ顔をしただけだった。


   ◇◇◇


 ナイローグが次に帰省したのは四ヶ月後だった。
 いつも通りに走って迎えた私は、この四ヶ月間で少し具体的になった将来の夢を語った。

「聞いて、ナイローグ! 私、大きくなったら魔王になる!」

 私は自信たっぷりに言い放つ。
 夢をぶつけられた背の高い近所のお兄ちゃんは、私と目を合わせるためにしゃがみ込みながら、頭を抱えてうなっていた。

「……聞き間違いじゃないよな? 魔王だって? なんで魔王なんだよ……」

 なぜ魔王なのか。
 それは思いついたからだ!
 ……というか、規格外に強い魔法を生かす職業というものが、他に思いつかなかった。

 大きな街に常駐するという魔法使い程度ではダメ。もっと強くて、もっと偉そうで、もっともっとナイローグがびっくりするような職業。それは……魔王以外に思いつかない!
 そんな情けない事情は隠し、私はひたすら偉そうに胸を張り、ほとんど同じ高さにあるナイローグの顔に指を突きつけた。

「だってヘイン兄さんもナイローグも、魔法が使えないから魔王にはなれないんだろう? だからぼくが魔王になって、皆の尊敬を受けるんだ!」
「……シヴィル。お前は何か間違っていないか?」
「なんだよ、ぼくは絶対に魔王になるんだからな。止めてもムダだぞ」
「魔王が何か、知っているのか? おまえの嫌いな悪いヤツなんだぞ?」
「わかっているよ。だから普通の悪いやつじゃなくて、サイキョウサイアクの魔王になるんだよ!」
「……最強最悪……そうきたか」

 ナイローグはため息をつき、私の頭を撫でた。

「あのな、シヴィル。俺は魔王なんかにはさせないからな」
「ナイローグがなんて言っても、ぼくはゼッタイに魔王になるぜ!」
「だめだ。……その男言葉も何とかしろ。また俺がエイヴィーおばさんの愚痴に付き合わされる。あれは上官のつまらん冗談が余裕に思えるくらいにきついんだぞ! ……いや、そうじゃなくてだな。うーん、何と言えばいいのか……ヘインめ、逃げやがったな……!」

 そう言って、また深いため息をつく。
 自分の髪をがしがしとかき乱す情けない姿でも、ヘイン兄さんに比べると格段に隙がない。子供の目から見ても、彼はかっこいいと思った。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。 この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ 知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...