無自覚少女は夢をあきらめない 〜鏡を見ろ? 何を言われても魔王を目指して頑張ります!〜

ナナカ

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一章 八歳で抱いた夢

(5)大きくなったら

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「しかし、本当におまえたち兄妹は規格外だよな。都でもヘインほど腕の立つ男はまだ見たことがない。それに……おまえはおまえだし」

 大きな手が動くたびに、私の肩から力が抜けていく。
 あきれ顔で笑うナイローグは、しみじみ見ても整った顔をしている。
 村に戻る度に、村中のお姉さんたちが落ち着かなくなるのも納得だ。村中どころか、周辺の大きな街からも人が集まってきたり、いい年のおばさんたちまで落ち着かなくなるのだって、今では公然の秘密になっている。
 と言うか……そうか。ナイローグはただの村外への出稼ぎじゃなくて、都で働いているのか。
 それで村中のお姉さんたちの目の色が変わるんだろうな。ふーん。

 ……でも、思うのだ。
 ヘイン兄さんがキカクガイというなら、子供時代に大鹿に乗ったり、父さんに捕まって牛の代わりに鋤を引かされたりしていたのは、遊び仲間のナイローグも一緒だったはずだ。兄さんがキカクガイなら、それと同等だった彼も間違いなくキカクガイだと思う。

 私の密かな不満を見抜いたのか、彼は優しく髪をなで、それから髪の毛がぐしゃぐしゃに絡まっていることに気づいたようだ。
 指先で解きほぐしかけて、その手を止めた。

「そうだ、シヴィルに土産があったんだ」
「……お土産?」
「いきなりおばさんに捕まっていたから、すっかり忘れていたよ」

 そういって、ポケットから彼の手のひらより小さめの薄い包みを取り出した。布に包まれていたそれは、きれいな櫛だった。
 ナイローグは、さっそくその櫛で髪を丁寧に解きほぐし始める。

 六人兄弟の一番上であるナイローグは、妹も二人いる。だから、髪に櫛を入れる手つきはとても慣れている。
 見かけのわりに手先の不器用なヘイン兄さんより段違いに丁寧で、それでいて手早い。毛先からそっと櫛を入れていくと、くせのある私の髪はどんどんきれいに整っていく。
 久しぶりに髪の手入れをしてもらって、なんだかとてもいい気分になった。

 そんな中で、ふと思いつく。
 ナイローグの言葉を信じていいのなら、私の魔力は規格外らしい。それならば、私は魔力を生かす職業につけばいいんじゃないかな。

 そう気付いた私は、さっそく魔力を使う職業と言うものを考える。
 髪を整えてもらいながら考えるたけれど、残念ながら私はナイローグの職業が全く思いつかないほどの子供だ。当然のように具体的な職業は出てこない。
 前から横へと編み込みにしてもらいながら、私がどんなにうなっても全く成果が上がらなかった。


 でも、一つだけはっきりしていることがある。
 ヘイン兄さんもナイローグも、どうやら魔力は持っていないらしい。もしかしたら少しくらいは魔法も使えるかもしれないけれど、今でも魔法だけは私の方が上だろう。

 と言うことは。
 私が本格的に魔力を使えるようになれば、兄さんたちより強くなれるかもしれない。つまり、彼らを見下す立場になるのだ。
 なんてすばらしい。
 物心ついたときから圧倒的優位に立っている兄さんたちより上になれるなんて、それだけで価値があるではないか!

 一人で高揚した私は、髪を整えてもらいながらひたすら楽しい未来を思い描いていく。
 優しいナイローグは、私が一人でニヤニヤしていてもあきれ顔をしただけだった。


   ◇◇◇


 ナイローグが次に帰省したのは四ヶ月後だった。
 いつも通りに走って迎えた私は、この四ヶ月間で少し具体的になった将来の夢を語った。

「聞いて、ナイローグ! 私、大きくなったら魔王になる!」

 私は自信たっぷりに言い放つ。
 夢をぶつけられた背の高い近所のお兄ちゃんは、私と目を合わせるためにしゃがみ込みながら、頭を抱えてうなっていた。

「……聞き間違いじゃないよな? 魔王だって? なんで魔王なんだよ……」

 なぜ魔王なのか。
 それは思いついたからだ!
 ……というか、規格外に強い魔法を生かす職業というものが、他に思いつかなかった。

 大きな街に常駐するという魔法使い程度ではダメ。もっと強くて、もっと偉そうで、もっともっとナイローグがびっくりするような職業。それは……魔王以外に思いつかない!
 そんな情けない事情は隠し、私はひたすら偉そうに胸を張り、ほとんど同じ高さにあるナイローグの顔に指を突きつけた。

「だってヘイン兄さんもナイローグも、魔法が使えないから魔王にはなれないんだろう? だからぼくが魔王になって、皆の尊敬を受けるんだ!」
「……シヴィル。お前は何か間違っていないか?」
「なんだよ、ぼくは絶対に魔王になるんだからな。止めてもムダだぞ」
「魔王が何か、知っているのか? おまえの嫌いな悪いヤツなんだぞ?」
「わかっているよ。だから普通の悪いやつじゃなくて、サイキョウサイアクの魔王になるんだよ!」
「……最強最悪……そうきたか」

 ナイローグはため息をつき、私の頭を撫でた。

「あのな、シヴィル。俺は魔王なんかにはさせないからな」
「ナイローグがなんて言っても、ぼくはゼッタイに魔王になるぜ!」
「だめだ。……その男言葉も何とかしろ。また俺がエイヴィーおばさんの愚痴に付き合わされる。あれは上官のつまらん冗談が余裕に思えるくらいにきついんだぞ! ……いや、そうじゃなくてだな。うーん、何と言えばいいのか……ヘインめ、逃げやがったな……!」

 そう言って、また深いため息をつく。
 自分の髪をがしがしとかき乱す情けない姿でも、ヘイン兄さんに比べると格段に隙がない。子供の目から見ても、彼はかっこいいと思った。
 
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