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三章 十二歳で知った新事実

(10)悪ガキの大将

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 幼い頃から私と一緒に遊んでいた悪ガキたちは、いつのまにか皆大人になって、一緒に遊ぶことはなくなっていた。
 そして気がついたら、私は年下の悪ガキたちの面倒を見る悪ガキ大将になっていた。

 仕方がないのだ。今の悪ガキ連中の中で、私が一番野生児で、頭がそれなりに良く回って、その上に魔法という隠し武器を持っているのだから。
 年齢は、まあまあ上という程度なのに。
 身長なんて、年下の悪ガキに負けているのに。
 ……一応、私は女の子なのに。十二歳ってそろそろ大人に近いんだけど。

 でも悪ガキどもは、私の大人になりかけの年齢なんて全く考えていないようだ。
 たぶん、私が男装を続けているからだと思う。昨年くらいに一気に背が伸びたのに、それからほどんど変化がなくなったこの低身長にも問題があるのかもしれない。

 とにかく村の悪ガキたちにとって、私は気分屋な大将らしい。
 そこで「だから女はダメなんだ!」とか言って喧嘩を売ってくれるのなら、一発殴るだけで許してやるところだけれど。悪ガキ集団に入る時の訓示として「あいつは性別を超えた存在なんだ」とか「ちょっと乱暴だけどいい奴だぞ」なんて、小さい子供に教え込むのはやめて欲しい。


 こんな私を、ヘイン兄さんは「さすが我が妹だね」とのんきなことを言って誉めてくれる。父さんも似たようなものだ。
 ……でもその分、最近の母さんの目はとても怖い。
 ふと気がつくと、新緑と同じ色の黄緑色の目で私をじっと見ていたりする。その視線は、思わず私が動きを止めるとそらされて終わることが多い。

 でも、絶対に何か言いたそうな感じなんだよね。
 私が悪ガキたちの大将をやっていることを怒っているのかな?
 ……それとも私が気付いていないだけで、母さんの逆鱗に触れるようなことをしているのだろうか。

 母さんの視線に耐えきれず、びくびくして兄さんに聞いてみた。
 するとヘイン兄さんは、相変わらずのさらさら金髪を風になびかせながら、やっと長くなってきた私の髪をがしがしとかき乱した。

「ちょ、ちょっと! そんなことしたら絡まるだろう! 兄さんがきれいにしてくれるのかよ!」
「うーん……その言葉遣いはいただけないね。男言葉に磨きがかかっているよ。ナイローグが戻ってくるまでに直しておくんだよ」
「話をそらすなよ。……それで、母さんはやっぱり怒っているの?」

 ヘイン兄さんの手が止まる。
 そして今度は私の顔を両手で挟み込んで、ぐいっと上向かせてため息をついた。

「シヴィルはこんなにかわいい顔をしているのにね。どうして中身は父さんに似ているんだろうね」
「ええっ?! 私、そんなに父さんに似ている?」
「似ているよ。父さんほど豪快ではないけれど、いわゆるあれだね。親分肌というか」

 兄さんはたぶん褒めてくれたのだろう。
 でも、お年頃になってきた私には、父さんに似ていると言われただけで衝撃的だ。……いやいや、そもそもヘイン兄さんは褒めてくれたんだろうか。兄さんと年齢が離れているせいか、時々私にはよくわからないことを言うから悩ましい。
 私が密かに悩んでいることを察してくれたのか、兄さんは今度は優しく頭を撫でた。

「まあ、母さんはいい気はしていないと思うよ。かわいくてしとやかな女の子に育てたかったみたいだから。だけど基本的には仕方がないと諦めていると思う。私が母さんに似たように、シヴィルは父さんに似ただけだから」

 ……確かに、兄さんは母さん似だ。顔も体型も雰囲気も。
 でも、あの母さんがそう簡単に諦めるなんて、あり得るんだろうか。私はそこがひっ掛かって兄さんの言葉を鵜呑みにできない。

 だいたい、私だってなりたくて悪ガキ大将をやっているわけではないのだ。
 でも誰かが年下の悪ガキたちの面倒を見なければいけないから、仕方なく私が面倒を見ているだけで。そういう立場になったから、最近は全く無茶ができなくなった。ストレスだってたまる。

 私は年寄り臭いため息をついた。
 そんな私を、ヘイン兄さんは優しく微笑みながら見ていた。
 こういう顔をしていると、兄さんは本当に似ていると思う。
 簡素な服を着て、古びた農家の居間にいても、どこか浮世離れしたとてもきれいな母さんに。

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