無自覚少女は夢をあきらめない 〜鏡を見ろ? 何を言われても魔王を目指して頑張ります!〜

ナナカ

文字の大きさ
20 / 63
四章 十三歳の旅立ち

(19)カラス

しおりを挟む
 ヘイン兄さんの助言に従い、私は家を出る時から目立つ銀色の長い髪は黒っぽい色に染めた。
 それをぎゅっと一つに組んで服の内側に入れ込んでいると、男装のせいで完全に少年に見えるようだ。いかにも田舎から出てきた子供に見えるせいか、市場で食べ物を売っている店で注文すると「早く大きくなれよ」という言葉をもらうし、食べ物の盛りも少しいい。

 これはとてもありがたい。
 身長が伸びないわりに、私の食欲は成人男性並みで、いつもヘイン兄さんと量を競っていた。それでいて身長も体重もほとんど変わらない。さすがに農作業を一日中している父さんよりは少なかったけど。
 こういう私だから、今は子供扱いは大歓迎だ。年下に見られたって気にしない。

 道の端で払った金額よりかなり多い食事を堪能していると、近くの店のおばさんがパンを分けてくれた。息子が食べ盛りだった頃を思い出したらしい。
 ……全然バレないのは誇っていいのかな。一応、私は女なんだけど。
 と思いつつ、もちろんパンはありがたく頂戴した。

 腹が膨れると、これからどうしようかと、ようやく考えた。
 我ながらのんきなものだ。
 でも、魔道学院に潜り込んで魔法を習得するという目的だけははっきりしている。これだけは揺るがない。
 そのためには、まずは都に慣れなければ。それから金を稼ぎながら魔道学院の関係者に近付いて、親の許可がなくても潜り込む方法を探って……。

 広場の中央にある泉の横でそんな事を考えていると、カラスの鳴き声が聞こえた。
 よくいる種類のカラスだ。
 鳴き声もよく聞く平凡なものだ。でも、私はこのカラスの事は知っている。村にいたカラスだ。時々私を助けてくれたり、物を落としてきたり、感謝するべきか腹を立てるべきか、そんな感じではあるけれど、どこか不思議な雰囲気の顔馴染みだ。

 このカラス、実は村を出た二日後くらいから目に入るようになっていた。歩いている時とか乗合馬車から降りた時とか、ふと気がつくと近くを飛んでいたり木にとまったりしていたのだ。
 大きくも小さくもない、ありふれた種類なのにどこか変わっているカラスは、何が楽しいのか、今も私のいる場所から遠くない建物の屋根に止まっている。
 そのカラスが、もう一度鳴いた。
 さらに何かを訴えるように、くいくいとクチバシを動かした。おかしな動きに思わず見入っていると、ばさりと飛び上がった。つられて私も立ち上がると、カラスのくせに頭上に円を描くように飛んで、どこかの方向へと向かった。

「……たぶん、ついて来いと言いたいんだろうな」

 村からきたカラスが、なぜついて来いと言うのか、全く訳がわからない。でも動物たちが何かを伝えようとして来る時は、素直に好意を受け取る方がいい。
 これまでの経験からそう学んでいるから、私はカラスが飛んでいった方向へと足を向けた。



 カラスは思ったより遠くまで私を連れて行った。
 市場広場から遠ざかり、せっかく入ったのに外壁からも出ることになり、私は動物の好意というものを疑い始めていた。
 ……もしかして、ただこちらに飛びたかっただけだった?
 それとも、都はだめだと言いたいのだろうか。

「……まさかと思うけど、村に戻れって言いたいの? それはちょっと嫌だよね。たどり着いたばっかりなんだし……」

 思わず一人で文句をいってしまう。もちろん、誰も相づちなんて打ってくれない。心酔してくれる村の子供たちはいないし、大人びてしまった悪友たちもいない。呆れ顔をしつつも受け入れてくれるヘイン兄さんも当然いない。
 なんだか急に寂しくなって、つい唇を噛みしめてしまった。

 でも、そのしんみりした気分はすぐに吹き飛んだ。
 遠くないところから、恐ろしいうなり声が聞こえたのだ。
 普通の動物の声ではない。空気がびりびりと震えるようなこんな声は、動物が出せるものを超えている。でも私は、この手の声は何度か聞いたことがあった。

「村にいたあの黒狼……ではないよね、さすがに」

 なかなか懐いてくれない大きな狼としか認識していなかった巨大な黒狼が、実は魔獣だったことに気付いたのは昨年のことだ。
 知ってみればなるほどと思うけれど、どうして魔獣が平然と村のすぐそばにいるのかは謎だ。いやそれより、村人が平気な顔をしていたことも、もっと謎ではある。
 村人に悪意を持っていないようだったから、みんなは平気で過ごしていたのだと思う。でも、魔獣のくせにどうしてあんなに大人しかったのか。
 今まで魔獣だと気づかなかったのかと呆れていたヘイン兄さんは、あの黒狼はよっぽど怒らせないかぎり村人を襲ったりしないと言っていた。

 だから、人間に害意を持たない例外的な魔獣がいることは知っているけれど、普通は危険すぎて、吠え声が聞こえたら逃げなければいけない存在だ。
 一般常識で言えば、今もすぐに逃げるべきかもしれない。でも私はなぜかとても気になった。人間への威嚇に聞こえなかったこともある。
 私は一時的にカラスのことを忘れて、声がした方向へと早足で向かった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。 この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ 知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...