無自覚少女は夢をあきらめない 〜鏡を見ろ? 何を言われても魔王を目指して頑張ります!〜

ナナカ

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幕間 友人一家の騒動に巻き込まれた男

(24)ナイローグへの手紙

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 故郷からの手紙は、何日もかかって都に住むナイローグの元に届く。
 しかし料金の上積みをすれば、通常よりかなり早く届くようになる。早ければだいたい三日ほどだ。
 魔法転送を別にすれば最速の特急便は、圧倒的に早くて便利ではあるが、高い金額と引き換えにしなければならない。極めて重要な用件など、よほどのことがなければ特急便など使わない。
 そんな特急便の手紙が、なぜかナイローグ宛に届いた。
 自室の机についたナイローグは、眉をひそめながら急いで封を切った。

 差出人は親友へインの父親トゥアム。
 近所のおじさんというより、ほとんどもう一人の父親のようなものだ。生粋の農夫の子であるナイローグに、剣の手ほどきをしてくれた。へインと一緒にかなり危険な遊びをするのを笑顔で認めてくれたが、やりすぎると容赦のない拳骨が降ってきたものだ。
 そのトゥアムからの特急便の手紙だから、一体何があったのかとそれなりの覚悟をしていた。しかし中に綴られていたのは、意外すぎる文面だった。

「……次の休暇が知りたい? 何かの暗号なのか?」

 特急便を使った手紙で、次の休暇の予定を知りたい、としか書かないなんてあるのだろうか。もう一枚あるのかと紙が重なっていないか確かめたが、紙は一枚のみ。封筒を覗いてみたり、裏返したり、横から見たり、透かしてみたり、火にかざしてみたり、一応考えうることを全部やってみたが、やはり休暇の問い合わせしか書かれていなかった。
 普通に考えれば、特急便を使うような内容ではない。
 だがこの手紙は届いている。
 何かがあった、あるいは何かがあるのは間違いない。

「トゥアムおじさんにも、二ヶ月後に戻ると伝えていたはずだが……何かあったのか?」

 考え込みながらつぶやいて、壁に張っている暦表の前に立った。
 勤務予定も書き込んでいるそれを見つめ、もう一度手元にある手紙に視線を落とす。
 見かけの割りに筆まめなトゥアムではあるが、息子の友人の休暇の予定を確かめるためだけに、特急便で手紙を出すほどではない。何か大切な用があるのに、手紙には書き難い事情があると考えるのが自然だろう。
 暦表を指先で押さえながら日付と予定を確認していく。

「ゆっくりはできないが……この休みで戻ってみるか」

 ナイローグは暦表の二週間後を指先でなぞり、都でゆっくりするつもりだった数日の休暇を帰省にあてることに決めた。
 そうと決まれば、手紙で知らせておくべきだろう。これは特急便にする必要はないはずだ。
 ナイローグは机に戻り、手紙を書く。しかし混乱を避けるために、トゥアムではなくヘイン宛にした。



 二ヶ月ぶりの村は懐かしい空気が流れていた。
 村には農家が多く、晴れた日には作業や見回りで忙しい。あらかじめ帰宅する日時は伝えて置いたが、ナイローグの家にも誰もいなかった。
 夕方までまだ時間があるから、みんな仕事に出ている。両親はきっと畑だろう。手伝いに行ってもいいが、今回の休暇は短い。優先事項からこなしていかなければならない。
 ナイローグは馬に水と草を与えると、そのままへインの家に向かった。
 両親からは普段通りの手紙しかきていなかったから、何かあったとすれば、へインの家だ。そう思って足を早める。
 ヘインの家は、ほどなく見えてきた。
 誰もいないかもしれない、畑に行くかヘインの牧場に行くかと考えていたが、思いがけないことに、家の前には金髪の友人が待ち構えていた。

「へイン」
「待っていたぞ、ナイローグ。……父さんに会う前に、話をしておいた方がいいと思ってね」

 軽く手を上げて挨拶したへインは、深いため息をついた。
 それから友人の姿を見て、くつろいだ笑みを浮かべた。

「この村で埃だらけのナイローグを見たのは久しぶりだな。悪ガキ時代以来じゃないか?」
「シヴィルの子守りの時を忘れるな。俺の弟たちより動き回って大変だったからな」
「そう言えばそうか」
「おいおい、そう言えばじゃないぞ。あれだけ大変な思いをしたのを忘れるなよ。……今回は休暇が短いから、馬を飛ばしてきたんだよ。顔も洗っていなかったな。水をもらうぞ」

 ナイローグは井戸に近寄って水をくむ。
 桶に水を移して、袖を肘までまくりあげてまず手を洗った。

「それで、やはり何かあったのか? 親父さんからの手紙は変だったぞ」
「うん、それなんだけれどね……」

 へインは口ごもる。
 その様子をちらりと見やり、ナイローグは顔を洗った。

「もしかして、へイン、お前結婚するのか?」
「はぁ? なぜそうなるのかな」
「おまえの親父さんが変だからだよ。急ぐほどではなく、でも俺に伝えたいことと言ったら、お前のことかと思っていたぞ」
「勘弁してほしいね。私はまだ二十代になったばっかりだよ」
「まだと言うが、お前はもう二十三歳だろう? 庶民にとっても十分な年齢だ」

 軽く笑いながら冷たい水で顔を洗っていたナイローグは、ふと顔を上げた。
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