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九章 十八歳の激動
(55)よく似合っている
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複雑な顔をしながら薄焼き菓子をかじり始めた私を見て、彼は深いため息をついた。
「多少譲って、お前が魔王の部下になるのを認めても、せめてもう少しましな男にして欲しかったぞ。公私を混同するような男は、お前の上司には相応しくない」
「あれでも立派な魔王だったんだよ。まさかあの方が、あんな……セクハラをするなんて思わなかったんだ」
「立派……まあそうだな。お前が近くでうろうろしていれば、勘違いするなという方が無理だな」
深々とため息をついたナイローグは、話し方を少し変えていた。都風の発音から、村の、というか故郷のランダル地方の発音になっている。そして私の向かいの草の上に直接座った。
腰に帯びた剣が硬い音を立てる。
マントが私のお尻の下にある今、むき出しになったグライトン騎士団の制服は実にまぶしい。
それに、昔から顔は整っていると思っていたけれど、久しぶりに真正面から見ると、やっぱり顔がいいと思い知らされてしまった。
これで上司だった魔王と同じ性別なのだ。この世は不思議に満ちている。
ナイローグも男性ということは、禿げたりお腹だけぽっこり出たりするのだろうか。
二枚目の薄焼き菓子をかじり終え、細かい破片を払い落としながら、ついそんなことを考えてしまう。でも、たぶんそうならないという確信はある。
彼の家系は、おじさんもおじいさんも、おじさんの兄弟も、知っている限り禿げた人はいなかった。多少腹回りに貫禄がある人はいたけれど、ナイローグは騎士だ。これからオジサンになっても、体を鍛えている限り引き締まった体形を保つだろう。
というか、彼はただの騎士ではない。実力重視と言われるあのグライトン騎士団の一員らしいのだ。
悪人なら顔を引きつらせる正義の凄腕集団で、この騎士団に目をつけられたら廃業を考えろ、というのがこの業界の常識だ。そういう栄光のグライトン騎士団の制服を着た人物と、こんなに親しく話すことになるなんて想像したこともなかった。
ナイローグ自身は好きなのに、私の目は習慣的に、銀糸の飾りがある黒い騎士服から逃げてしまう。
……それでも気づくことはある。
大きくて襟元に輝いているのは騎士団の紋章として、その横にずらりと並ぶ金属片のような物はいったい何だろう。
光を反射しているからよく見えないけれど、国王と直接言葉を交わす事が許されたような、そういうお偉いさんたちが身につけていたものによく似ている気がする。どう見ても、普通の騎士のつける階級章ではないと思うのだけれど……都にいたのは短期間だったから、記憶に自信はない。という事にしておこう!
「その首飾りは……」
私が彼を見ていたように、ナイローグも私の服装を見ていたようだ。
彼の視線は私の首元に向いていた。
セクハラ魔王様のように、胸元ではない。
だから警戒もせず、何かおかしな点があるのか、薄焼き菓子の欠片が引っかかっているのかと首元まであるレース編みに触れた。でもないローグは首飾りと言った。私は首飾りは一つしかつけていない。レースの上から鎖骨の上あたりに触れると、細い鎖の一部がレースの上に覗いていた。
私は服の内側に入れ込んでいた金の鎖を引っ張り、黄緑色の宝石を取り出してみせた。
「これのこと?」
数年前にナイローグにもらった首飾りだ。
春先の若葉のようなその色は、私の明るい緑色の目と同じ色だ。
私の外見は、父さんにも母さんにもあまり似ていない。唯一母さんに似ているのが目の色で、普通の緑色よりずっと明るい。時々金色っぽいと言われることもある。
人の目の色としてはかなり珍しく、同じ色の宝石もめったにない。
「これ、ナイローグにもらった首飾りだよ。この黄緑色がきれいだから、いつも使っているんだ」
「そうか。気に入ってもらえてよかった。……それにドレスも悪くないな。色はともかく、よく似合っている」
それを聞いて、落ち込みかけていた私は、一気に浮上した。
当然だ。
私の黒色のドレスは、本物の王女さまもかくやというほど上質のものなのだ。特に流れるようなデザインと引きずるほど長い裳裾は、ちょっと魔族っぽくて素晴らしい。しかも、汚れないように魔力でわずかに浮かせたりしているから、見た目以上に凝っている。
色がもっと鮮やかなら、どんな大国の姫君にも負けないだろう。
でもその一方で、全てが黒一色だからこそ、深く濃い色合いをむらなく染め出すことは難しい。私の色味のない銀髪を引き立ててくれる素晴らしい黒色で、まさに職人たちの苦心の結晶である!
……のだけれど、童顔は童顔らしく、もっと胸元の開いていないドレスにするべきだった。
大人っぽいデザインは、子供っぽい顔立ちと貧弱な体形を強調している気がする。レース編みでほんのり透ける程度に抑えていても、覗き込めば物量的に物足りない胸は丸見えだ。
こんなドレスだから、上司はロリコンセクハラに走った気がする。
そう考えると、ため息が出てしまう。
「多少譲って、お前が魔王の部下になるのを認めても、せめてもう少しましな男にして欲しかったぞ。公私を混同するような男は、お前の上司には相応しくない」
「あれでも立派な魔王だったんだよ。まさかあの方が、あんな……セクハラをするなんて思わなかったんだ」
「立派……まあそうだな。お前が近くでうろうろしていれば、勘違いするなという方が無理だな」
深々とため息をついたナイローグは、話し方を少し変えていた。都風の発音から、村の、というか故郷のランダル地方の発音になっている。そして私の向かいの草の上に直接座った。
腰に帯びた剣が硬い音を立てる。
マントが私のお尻の下にある今、むき出しになったグライトン騎士団の制服は実にまぶしい。
それに、昔から顔は整っていると思っていたけれど、久しぶりに真正面から見ると、やっぱり顔がいいと思い知らされてしまった。
これで上司だった魔王と同じ性別なのだ。この世は不思議に満ちている。
ナイローグも男性ということは、禿げたりお腹だけぽっこり出たりするのだろうか。
二枚目の薄焼き菓子をかじり終え、細かい破片を払い落としながら、ついそんなことを考えてしまう。でも、たぶんそうならないという確信はある。
彼の家系は、おじさんもおじいさんも、おじさんの兄弟も、知っている限り禿げた人はいなかった。多少腹回りに貫禄がある人はいたけれど、ナイローグは騎士だ。これからオジサンになっても、体を鍛えている限り引き締まった体形を保つだろう。
というか、彼はただの騎士ではない。実力重視と言われるあのグライトン騎士団の一員らしいのだ。
悪人なら顔を引きつらせる正義の凄腕集団で、この騎士団に目をつけられたら廃業を考えろ、というのがこの業界の常識だ。そういう栄光のグライトン騎士団の制服を着た人物と、こんなに親しく話すことになるなんて想像したこともなかった。
ナイローグ自身は好きなのに、私の目は習慣的に、銀糸の飾りがある黒い騎士服から逃げてしまう。
……それでも気づくことはある。
大きくて襟元に輝いているのは騎士団の紋章として、その横にずらりと並ぶ金属片のような物はいったい何だろう。
光を反射しているからよく見えないけれど、国王と直接言葉を交わす事が許されたような、そういうお偉いさんたちが身につけていたものによく似ている気がする。どう見ても、普通の騎士のつける階級章ではないと思うのだけれど……都にいたのは短期間だったから、記憶に自信はない。という事にしておこう!
「その首飾りは……」
私が彼を見ていたように、ナイローグも私の服装を見ていたようだ。
彼の視線は私の首元に向いていた。
セクハラ魔王様のように、胸元ではない。
だから警戒もせず、何かおかしな点があるのか、薄焼き菓子の欠片が引っかかっているのかと首元まであるレース編みに触れた。でもないローグは首飾りと言った。私は首飾りは一つしかつけていない。レースの上から鎖骨の上あたりに触れると、細い鎖の一部がレースの上に覗いていた。
私は服の内側に入れ込んでいた金の鎖を引っ張り、黄緑色の宝石を取り出してみせた。
「これのこと?」
数年前にナイローグにもらった首飾りだ。
春先の若葉のようなその色は、私の明るい緑色の目と同じ色だ。
私の外見は、父さんにも母さんにもあまり似ていない。唯一母さんに似ているのが目の色で、普通の緑色よりずっと明るい。時々金色っぽいと言われることもある。
人の目の色としてはかなり珍しく、同じ色の宝石もめったにない。
「これ、ナイローグにもらった首飾りだよ。この黄緑色がきれいだから、いつも使っているんだ」
「そうか。気に入ってもらえてよかった。……それにドレスも悪くないな。色はともかく、よく似合っている」
それを聞いて、落ち込みかけていた私は、一気に浮上した。
当然だ。
私の黒色のドレスは、本物の王女さまもかくやというほど上質のものなのだ。特に流れるようなデザインと引きずるほど長い裳裾は、ちょっと魔族っぽくて素晴らしい。しかも、汚れないように魔力でわずかに浮かせたりしているから、見た目以上に凝っている。
色がもっと鮮やかなら、どんな大国の姫君にも負けないだろう。
でもその一方で、全てが黒一色だからこそ、深く濃い色合いをむらなく染め出すことは難しい。私の色味のない銀髪を引き立ててくれる素晴らしい黒色で、まさに職人たちの苦心の結晶である!
……のだけれど、童顔は童顔らしく、もっと胸元の開いていないドレスにするべきだった。
大人っぽいデザインは、子供っぽい顔立ちと貧弱な体形を強調している気がする。レース編みでほんのり透ける程度に抑えていても、覗き込めば物量的に物足りない胸は丸見えだ。
こんなドレスだから、上司はロリコンセクハラに走った気がする。
そう考えると、ため息が出てしまう。
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