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本編
(27)思いがけない偶然
「お嬢様。お荷物を置いてからにしませんか?」
「そ、そうね。それにお腹も減ってきたわね。どこかいい場所はないかしら」
「あの木陰の辺りがよいかと……あら?」
少し先を指さしたネイラは、ふと首を傾げました。
どうしたのかと私もそちらに顔を向けます。
始めはネイラが何を気にしたのかわかりませんでしたが、すぐに誰かが近づいてきていることに気付きました。
一人や二人ではありません。
十人、二十人、もしかしたらもっと多いでしょうか。揃いの制服を着ています。
皆様、和やかに歩いていらっしゃいますし、誰も馬には乗っていませんが……もしかして、王国軍の騎士様ではありませんか?
そして、向こうも私たちに気付いたようです。
若い騎士様たちは慌てて表情を繕ったりしていますね。でも何人かは、私を見て慌てて来た道を戻っていきます。
「もしかして、ここは騎士様たちがお使いになるのかしら」
「どうでしょうか。別の場所に移りますか?」
「そうねぇ……」
少し迷っていると。
一度止まっていた騎士様たちが、こちらに近付いてきました。
そして……。
「……あ」
「お嬢様? どうかしましたか?」
「あの背の高い方は……グロイン侯爵様だわ」
「えっ?」
ネイラは慌てて目を凝らしました。
そしてすぐに従者を振り返り、立ち尽くしている青年に自分が持っていた飲み物のカゴを押し付けます。それから手早く私の髪を軽く手直しをし、仕上げに私が持っているバスケットを奪い取りました。
その間に、騎士の制服姿のグロイン侯爵様がやってきて、私の前で足を止めました。
他の騎士様たちは、少し離れた場所にいました。
「本当にエレナ殿だったな。今日は散策か?」
「は、はい! 天気がいいので、こちらまで足を伸ばしてみました!」
アルチーナ姉様の代理で。
……と、つい付け加えそうになりましたが、慌ててそれはやめました。
侯爵様は気にしないかもしれませんが、一人できまり悪くなるような失敗は繰り返したくはありませんから。
それにしても、偶然ですね。
「侯爵様は、任務中ですか?」
「まあ、そうだな。若い連中の訓練の一環だ」
「そうでしたか。それで……あの、このあたりも使うのでしょうか」
「主に使っているのは向こうの広場だな」
そう言いながら、視線が一度、来た道の向こう側を示しました。
この先は行ったことがありませんが、どうやら広場があるようですね。そういえば、昔ここに来た時も、軍人たちはこの道の向こうのことに詳しかったような気がします。
……あ、そうだ。
「昼食はもう御済みですか? 簡単につまめるものしかありませんが、よかったらご一緒しませんか?」
「いや、俺は……」
侯爵様は、言葉に詰まりながら困ったような顔をしました。
あ、これは断られるな、と思った次の瞬間。
侯爵様の肩に、左右からガシッと手が置かれました。
「奥方殿、我らのことは覚えているだろうか!」
「いやいや、覚えていなくても構いませんよ。いつぞやは、お茶をご一緒させていただきました」
上位の階級章をつけた騎士様たちが、私に挨拶をしてくれました。
初めて軍本部を伺った時にお会いした騎士隊長様たちですね。
名前は確か、グィド様とフリード様。
お酒の入っていないグィド様は渋くて素敵な男性ですし、フリード様は伯爵家出身とは思えないほど人懐っこい笑顔です。
お二人は侯爵様の肩に手を置いていますが、なぜか力が入っているように見えます。ただ手を置いているというより、ギリギリと押さえつけているようなのはなぜでしょう?
「おい、お前ら……!」
「軍団長。かわいい奥方のお誘いじゃないですか。ゆっくりしていいですよ」
「そうだぞ、オズウェル。若い奴らのことは俺たちに任せてくれ。奥方に色目を使う余裕がないくらいにしごいてやるから安心しろ!」
フリード様の言葉に、グィド様も賛同しながら豪快に笑います。
その後ろで、若い騎士様たちが青ざめているようですが……大丈夫なのでしょうか。
そんなことを考えていたら、侯爵様が深々とため息をつきました。
「わかった。お前たちに任せる。だが、あまり厳しくするなよ」
「了解であります」
騎士隊長様たちはビシリと姿勢を正し、それからすぐにニヤリと笑いました。
私に丁寧な礼をしてくれた二人は、他の騎士様たちとどこかへ行ってしまいました。残ったのはグロイン侯爵様と、フリード様に耳打ちされた硬い顔の若い騎士だけ。
若い騎士様は緊張したようにキョロキョロ周りを見ていましたが、敷物を持った従者と目が合うとすぐに合図を送り、邪魔な石などを撤去して敷物を広げました。
「軍団長閣下っ! 設営が完了しましたっ!」
「……ご苦労。お前も戻っていいぞ」
「いいえ! フリード騎士隊長から、皆様の警備を任されております!」
「…………そうか」
侯爵様は、またため息をつきました。
でも顔を上げた時にはいつもの表情になっていました。
「俺がお邪魔して、本当にいいのか?」
「もちろんです! あ、でも、本当につまむ程度しかありませんよ」
「構わない。本来の食事はすでに終わっている」
そうでしたか。
では、デザート感覚のものをお勧めしましょう。
馬車の中で、バスケットをチラリと確認していますが、いくつかはちょうど良さそうなものがありました。こんなことなら、葡萄酒も用意するべきでしたね。
でも、まだ任務があるのでしたか。
ならば、今日の水出しのお茶はちょうどよかったかもしれませんね。
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