婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ

文字の大きさ
26 / 54
本編

(27)思いがけない偶然


「お嬢様。お荷物を置いてからにしませんか?」
「そ、そうね。それにお腹も減ってきたわね。どこかいい場所はないかしら」
「あの木陰の辺りがよいかと……あら?」

 少し先を指さしたネイラは、ふと首を傾げました。
 どうしたのかと私もそちらに顔を向けます。

 始めはネイラが何を気にしたのかわかりませんでしたが、すぐに誰かが近づいてきていることに気付きました。

 一人や二人ではありません。
 十人、二十人、もしかしたらもっと多いでしょうか。揃いの制服を着ています。
 皆様、和やかに歩いていらっしゃいますし、誰も馬には乗っていませんが……もしかして、王国軍の騎士様ではありませんか?

 そして、向こうも私たちに気付いたようです。
 若い騎士様たちは慌てて表情を繕ったりしていますね。でも何人かは、私を見て慌てて来た道を戻っていきます。

「もしかして、ここは騎士様たちがお使いになるのかしら」
「どうでしょうか。別の場所に移りますか?」
「そうねぇ……」

 少し迷っていると。
 一度止まっていた騎士様たちが、こちらに近付いてきました。
 そして……。


「……あ」
「お嬢様? どうかしましたか?」
「あの背の高い方は……グロイン侯爵様だわ」
「えっ?」

 ネイラは慌てて目を凝らしました。

 そしてすぐに従者を振り返り、立ち尽くしている青年に自分が持っていた飲み物のカゴを押し付けます。それから手早く私の髪を軽く手直しをし、仕上げに私が持っているバスケットを奪い取りました。

 その間に、騎士の制服姿のグロイン侯爵様がやってきて、私の前で足を止めました。
 他の騎士様たちは、少し離れた場所にいました。


「本当にエレナ殿だったな。今日は散策か?」
「は、はい! 天気がいいので、こちらまで足を伸ばしてみました!」

 アルチーナ姉様の代理で。
 ……と、つい付け加えそうになりましたが、慌ててそれはやめました。

 侯爵様は気にしないかもしれませんが、一人できまり悪くなるような失敗は繰り返したくはありませんから。
 それにしても、偶然ですね。

「侯爵様は、任務中ですか?」
「まあ、そうだな。若い連中の訓練の一環だ」
「そうでしたか。それで……あの、このあたりも使うのでしょうか」
「主に使っているのは向こうの広場だな」

 そう言いながら、視線が一度、来た道の向こう側を示しました。
 この先は行ったことがありませんが、どうやら広場があるようですね。そういえば、昔ここに来た時も、軍人たちはこの道の向こうのことに詳しかったような気がします。

 ……あ、そうだ。


「昼食はもう御済みですか? 簡単につまめるものしかありませんが、よかったらご一緒しませんか?」
「いや、俺は……」

 侯爵様は、言葉に詰まりながら困ったような顔をしました。
 あ、これは断られるな、と思った次の瞬間。
 侯爵様の肩に、左右からガシッと手が置かれました。

「奥方殿、我らのことは覚えているだろうか!」
「いやいや、覚えていなくても構いませんよ。いつぞやは、お茶をご一緒させていただきました」

 上位の階級章をつけた騎士様たちが、私に挨拶をしてくれました。
 初めて軍本部を伺った時にお会いした騎士隊長様たちですね。

 名前は確か、グィド様とフリード様。
 お酒の入っていないグィド様は渋くて素敵な男性ですし、フリード様は伯爵家出身とは思えないほど人懐っこい笑顔です。

 お二人は侯爵様の肩に手を置いていますが、なぜか力が入っているように見えます。ただ手を置いているというより、ギリギリと押さえつけているようなのはなぜでしょう?

「おい、お前ら……!」
「軍団長。かわいい奥方のお誘いじゃないですか。ゆっくりしていいですよ」
「そうだぞ、オズウェル。若い奴らのことは俺たちに任せてくれ。奥方に色目を使う余裕がないくらいにしごいてやるから安心しろ!」

 フリード様の言葉に、グィド様も賛同しながら豪快に笑います。
 その後ろで、若い騎士様たちが青ざめているようですが……大丈夫なのでしょうか。

 そんなことを考えていたら、侯爵様が深々とため息をつきました。

「わかった。お前たちに任せる。だが、あまり厳しくするなよ」
「了解であります」

 騎士隊長様たちはビシリと姿勢を正し、それからすぐにニヤリと笑いました。
 私に丁寧な礼をしてくれた二人は、他の騎士様たちとどこかへ行ってしまいました。残ったのはグロイン侯爵様と、フリード様に耳打ちされた硬い顔の若い騎士だけ。
 若い騎士様は緊張したようにキョロキョロ周りを見ていましたが、敷物を持った従者と目が合うとすぐに合図を送り、邪魔な石などを撤去して敷物を広げました。


「軍団長閣下っ! 設営が完了しましたっ!」
「……ご苦労。お前も戻っていいぞ」
「いいえ! フリード騎士隊長から、皆様の警備を任されております!」
「…………そうか」

 侯爵様は、またため息をつきました。
 でも顔を上げた時にはいつもの表情になっていました。

「俺がお邪魔して、本当にいいのか?」
「もちろんです! あ、でも、本当につまむ程度しかありませんよ」
「構わない。本来の食事はすでに終わっている」

 そうでしたか。
 では、デザート感覚のものをお勧めしましょう。
 馬車の中で、バスケットをチラリと確認していますが、いくつかはちょうど良さそうなものがありました。こんなことなら、葡萄酒も用意するべきでしたね。

 でも、まだ任務があるのでしたか。
 ならば、今日の水出しのお茶はちょうどよかったかもしれませんね。

感想 18

あなたにおすすめの小説

本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?

神崎 ルナ
恋愛
このシステバン王国では神託が降りて花嫁が決まることがある。カーラもその例の一人で王太子の神託の花嫁として選ばれたはずだった。「お姉様より私の方がふさわしいわ!!」妹――エリスのひと声がなければ。地味な茶色の髪の姉と輝く金髪と美貌の妹。傍から見ても一目瞭然、とばかりに男爵夫妻は妹エリスを『神託の花嫁のカーラ・マルボーロ男爵令嬢』として差し出すことにした。姉カーラは修道院へ厄介払いされることになる。修道院への馬車が盗賊の襲撃に遭うが、カーラは少しも動じず、盗賊に立ち向かった。カーラは何となく予感していた。いつか、自分がお払い箱にされる日が来るのではないか、と。キツい日課の合間に体も魔術も鍛えていたのだ。盗賊たちは魔術には不慣れなようで、カーラの力でも何とかなった。そこでカーラは木々の奥へ声を掛ける。「いい加減、出て来て下さらない?」その声に応じたのは一人の青年。ジェイドと名乗る彼は旅をしている吟遊詩人らしく、腕っぷしに自信がなかったから隠れていた、と謝罪した。が、カーラは不審に感じた。今使った魔術の範囲内にいたはずなのに、普通に話している? カーラが使ったのは『思っていることとは反対のことを言ってしまう魔術』だった。その魔術に掛かっているのならリュートを持った自分を『吟遊詩人』と正直に言えるはずがなかった。  カーラは思案する。このまま家に戻る訳にはいかない。かといって『神託の花嫁』になるのもごめんである。カーラは以前考えていた通り、この国を出ようと決心する。だが、「女性の一人旅は危ない」とジェイドに同行を申し出られる。   (※注 今回、いつもにもまして時代考証がゆるいですm(__)m ゆるふわでもOKだよ、という方のみお進み下さいm(__)m 

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

かつて番に婚約者を奪われた公爵令嬢は『運命の番』なんてお断りです。なのに獣人国の王が『お前が運命の番だ』と求婚して来ます

神崎 ルナ
恋愛
「運命の番に出会ったからローズ、君との婚約は解消する」  ローズ・ファラント公爵令嬢は婚約者のエドモンド・ザックランド公爵令息にそう言われて婚約を解消されてしまう。  ローズの居るマトアニア王国は獣人国シュガルトと隣接しているため、数は少ないがそういった可能性はあった。  だが、今回の婚約は幼い頃から決められた政略結婚である。  当然契約違反をしたエドモンド側が違約金を支払うと思われたが――。 「違約金? 何のことだい? お互いのうちどちらかがもし『運命の番』に出会ったら円満に解消すること、って書いてあるじゃないか」  確かにエドモンドの言葉通りその文面はあったが、タイミングが良すぎた。  ここ数年、ザックランド公爵家の領地では不作が続き、ファラント公爵家が援助をしていたのである。  その領地が持ち直したところでこの『運命の番』騒動である。  だが、一応理には適っているため、ローズは婚約解消に応じることとなる。  そして――。  とあることを切っ掛けに、ローズはファラント公爵領の中でもまだ発展途上の領地の領地代理として忙しく日々を送っていた。  そして半年が過ぎようとしていた頃。  拙いところはあるが、少しずつ治める側としての知識や社交術を身に付けつつあったローズの前に一人の獣人が現れた。  その獣人はいきなりローズのことを『お前が運命の番だ』と言ってきて。        ※『運命の番』に関する独自解釈がありますm(__)m

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。 (私って一体何なの) 朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。 そして―― 「ここにいたのか」 目の前には記憶より若い伴侶の姿。 (……もしかして巻き戻った?) 今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!! だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。 学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。 そして居るはずのない人物がもう一人。 ……帝国の第二王子殿下? 彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。 一体何が起こっているの!?

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています

如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」 何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。 しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。 様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。 この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが…… 男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)