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本編
(32)雨が上がった日
あいにく、雨はさらに続きました。
ずっと降り続くわけではなく、でも馬車での外出は余程の用事でない限り取りやめることを勧められる。
そういう天気です。
アルチーナ姉様のとんでもない秘密を知ってしまった私は、じりじりしながら天気の回復を待ちました。
どちらかといえば出不精の私が、雨の中を出かけるなんてことをしたら、何かあったとばれてしまいます。だから、できるだけ天気が良くて、王宮までグロイン侯爵様にお会いしに行っても変な目で見られないような機会を待ちました。
その間、私は毎日お姉さまのお部屋にいました。
リザたちの懇願に負けたふりをして、ロエルから届くお菓子を食べました。
残念ながら、アルチーナ姉様が食べたくなるようなお菓子はなかったようで、メイドたちを追い出した後に、私が二人分食べていました。
幸い、私は痩せすぎていますからね。
少しくらい太っても、ちょうど良い肉付きになるだけです!
五日後。
ついに雨が上がりました。
密かに緊張しながら、眠れない夜に考え続けた作戦を実行することにしました。
「ねえ、ネイラ。今日か明日に、グロイン侯爵様にお会いすることは無理かしら?」
「それは可能とは思いますが、ずいぶん急ですね。何かありましたか?」
「何か、というか……」
不審そうなネイラに、私は眠れない夜に考えた口実を語りました。
「先日、郊外の公園でお世話になってからお会いできていないし、それに……ほら、最近は雨が続いていたでしょう? 雨の日は古傷が痛むことがあると聞いているから、侯爵様のことも気になって……」
「まあ、まあ。そう言うことですか。では、ルーナを呼びましょう」
怪しまれるかと思いましたが、ネイラは信じてくれたようです。
ニコニコしながらルーナを呼んでくれました。
ルーナは、私の言い訳を聞くと、急に笑顔を輝かせて胸を張りました。
「お任せください、奥様! 必ず旦那様とお引き合わせいたしますっ!」
相変わらず、ルーナは元気いっぱい。
自信もたっぷりです。
でも、今日は特に頼もしく思えます。
手土産代わりに、上質の葡萄酒を少し持ち、早速王宮へと向かうことにしました。
ルーナは相変わらず敏腕メイドでした。
するすると王宮の門を通り抜け、あっという間に目的の東棟の軍本部までたどりつきました。
その後も早かった。
ルーナが入り口に顔を出すと、すぐに立派な騎士たちが走ってきて、奥へと案内してくれます。
私だけでは、こんなにスムーズにはいかないでしょう。
何より、今日の私には、精神的な余裕が全くありません。
なんでもないやりとりでも、言葉に詰まり。
軽く会釈をすればいい時でも、笑顔を作れません。
幸いなことに、ルーナは私が緊張しているだけと思っています。緊張しているのは間違っていないので、私は特に言い訳はしませんでした。
「大丈夫ですよ、奥様! 今日の奥様はとてもおきれいです! 旦那様も絶対に見惚れますよっ!」
……ん?
「私、知っているんですよぉ? 今日のドレス、旦那様が選んだ色なんでしょう? 奥様の白い肌と赤い髪がとっても映えていて大成功です! それに、そのちょっと胸元が広いデザインも大人っぽくていいですよね! いくら理性ある大人ぶっていても、旦那様も男ですからね! 色仕掛けは絶対に成功しますよっ!」
……あれ?
結婚前に仕立てられていたものなので、もしかしたら侯爵様が選んだ色かもしれませんが。
このドレス、本当はアルチーナ姉様が着るはずだったものですよ?
たまたま私にも似合う色だから着ているだけですし、胸元が広く開いているのは、元のサイズが大きすぎて手直ししてもどうしようもないからこうなっているだけで。
えっと……色仕掛けとは?
こっそり首を傾げているうちに、以前とは違う部屋の前の扉に到着しました。
ルーナの様子をこっそり見ると、ルーナも不思議そうな顔をしていました。やはり初めてくる場所のようです。
案内してくれた若い騎士様が扉を叩く前に、私は聞いてみました。
「ここは?」
「会議室です。奥方様」
会議室?
「つい先程まで会議中だったので、軍団長はまだここにいるんですよ」
……お仕事の邪魔をしてしまったようです。
出直すべきでしょうか。
そんな心配が顔に出てしまったのでしょう。若い騎士様は慌てたように言葉を続けました。
「会議自体はもう終わっているから大丈夫です! ただ騎士隊長の皆さんが揃っているので、ついでにいろいろやることがあるだけです! あ、ほら、もうもう終わっていますよ!」
手早くノックして、扉を開けてみせます。
ちらりと見えた騎士隊長様たちは、立ち上がって伸びをしていたり、あくびをしていたりと、確かに会議中には見えませんでした。
私が戸口に立つと、以前お会いした騎士隊長様が驚きながら笑顔を見せてくれました。
「おお、これは奥方殿ではないか! さっきの報告はそれだったのか。なるほどな」
「この方が奥方か。くそっ、聞いていたより若くて美人じゃないか!」
「ふーん、それで俺たちをさっさと追い出そうとしたんだな?」
初めてお会いした方も、以前お会いした方も、くつろいだ口調で私の周りに集まりました。
皆様は背が高くて、肩も胸も分厚くて、こういう状況は二度目ですが、見上げる私は圧倒されてしまいます。
それを助けてくれたのは、グロイン侯爵様でした。
「お前たちの用事は済んでいるはずだ。もう任務に戻れ」
「ちっ。かわいい奥方を出し惜しみする気か?」
「貴重な時間を浪費させるなと言っている。こんなところまで足を運んでいただいたのだからな」
立ち上がった侯爵様は、騎士隊長様たちの肩を叩き、背を押します。
騎士隊長様たちは文句を言いながら、でも特に抵抗するでもなく、すぐに退室していきました。
残ったのはグロイン侯爵様と、私だけ。
いつの間にか、ルーナもいなくなっていました。
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