俺(勇者)の運命を決めるのは神(作者)だけですか⁉︎

塩爺

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第 3話 生還 その一歩 1

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支えを失った俺は糸が切れた操り人形のように地面に尻餅をついた。

扉から入った筈の俺の前には、扉は無く光苔が照らす薄暗い壁があるだけだ。

これはいわゆる地形変化ダンジョンというやつで、上級ダンジョンの中にもある、ダンジョンの階層を行き来する度に地形が変化する仕組みのダンジョンなのだ。

俺は早鐘の様な心臓の鼓動を落ち着かせる、そして腰のポーチから一枚の紙片を取り出した。

この紙片は魔法紙でできている足跡地図という物で今居る階層に限られるが自分が歩いた所が点線で表される便利な品物。

俺は防具や剣をケチってでもこの足跡地図を手に入れた、それだけの価値がある品物だ。

俺は自分の今いる地点を確認する、灯りはつけない、灯りを持っていない訳ではないが光でモンスターに認知されるリスクは避けたい。

僅かな光苔の光で地図を見る、今、俺がいる場所は地図上では中央右下地点、扉(出口)は右上の端、直線距離で約200メートルだ。

200メートル、街中を歩くのなら大した距離ではないが、ここはダンジョン、道も真っ直ぐではないしモンスターもいるし罠だってある出口までの道のりは果てしなく遠い。

俺は自分を落ち着かせる意味で持っている装備を確認する、ポーチの中には地図の他には回復薬のポーションが3本と2液を混ぜると発光する灯り用の瓶が2回分、あとは食料と水が少々。

食料は充分、おそらくこの先、食事を摂っている暇はないだろう、俺は緊張からくる吐き気を抑えて持っている食料を口に入れ無理矢理飲み込んだ。

ポーションは役に立たない、俺のポーションは回復薬としては1番下のもので血止め効果しかなく、このダンジョンに出現されると予想されるモンスターの攻撃はどれも致命傷レベル、一撃でやられては回復薬は意味がない。

意味がないが、貧乏人の性で捨てることはできない、灯りは必要、ダンジョンを照らす意味ではなく閃光弾として価値がある。

ダンジョン内は常に薄暗く、そこに棲息するモンスターは光に敏感な筈だ、倒せないまでも時間を稼ぐことは出来る。

今の俺の全てはこんな物、最恐ダンジョンから生還するには余りにも頼りないが文句は言えない、文句を言う相手もいないし、文句を言っても意味がなく頼れるのは俺1人!

俺は立ち上がり歩き出す、一歩づつ、前方を確認して後方を確認、天井と地面、横の壁を確認して、やっと次の一歩が踏み出せる。

何かの視線を感じて確認したはずの後方を確認する為に足を止める、時間の感覚は既にない、今いる場所は?最初の地点より遠ざかっている?

目指す方向はわかっているが最短距離で進むことを曲がりくねって複雑に分かれた通路がそれを許さない、ひとつの小さなミスが命取りに繋がる。

俺はまた座り込んで地図を確認する、目の前の通路は2本、いずれも出口とは逆方向に向かっている。

どうする?来た道を引き返すか?

いままで来た道にも別れ道はあった、いずれの場合も出口の方向を向いている道を選んだはずだが結果、出口とは遠ざかった。

「・・・っち・・・」

「・・そっちじ・・」

「⁉︎」

何か聴こえたような気がする、とうとう緊張のあまり幻聴が聞こえる様になってしまったのか?

「そっちじゃない!」

「‼︎」

幻聴ではない‼︎

確かにこれは人の声、しかも俺に対して指示する声だ、もしかしたら俺のように迷い込んだ勇者が他にもいるのか?

そっちじゃないとはどういう意味だ?

俺はY字路の中間地点にいる、俺がこれから向かおうとする道が間違っているのか?来た道を戻ろうとする事が間違っているのか?

天の声か、悪魔の囁きか。

俺を迷わせようとしているのか、導いているのか?

酔いは醒めているし、冷静な判断も出来ている俺がこの声をおかしいと思わなかったのはどうかと思うが俺はその声にすがった。

「そっちじゃない」

確かに聴こえるその声は2本の道の左側から聞こえて来る。

出口とは方向が違うが俺はこの小さな変化に賭けてみる、こうした小さな変化をクリアする事で生還できる確率を上げていく。

強いモンスターに偶然出会わずに済み、偶然、強い装備を手に入れて、偶然、道に迷わずに進んでいける。

偶然が重なって0パーセントだった生還の可能性が5パーセントになり10パーセントとなる、どのみち俺の力では実力でこのダンジョンから駄出するのは不可能なのだから偶然と運にかけるだけの価値はある。

俺は断続的に聴こえる声をたよりに道を進んで行くと人間1人がやっと通れる狭い通路にでた、モンスターから隠れるのにはもってこいの通路だが出口に向かう俺には関係ない。

俺はその通路を無視して通り過ぎようとした時、いままでよりはっきりと強い口調で声が聴こえた。

「そっちじゃない‼︎」

しかも光苔の光とは明らかに異なる淡い光が通路の奥から漏れてくる。

これも偶然のひとつなのか?、この偶然を拾うことで生還確率が上がるのならと俺は淡い光に引き寄せられら様に狭い通路に入った。

「‼︎」

引き返すのも苦労するその通路を進んだ先には、物言わぬ亡骸がこのダンジョンの過酷さを物語るように静かに横たわっていた。








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