平成生まれの昭和人

塩爺

文字の大きさ
5 / 6

 第 5 話 希望

しおりを挟む
I国の反乱軍とマークの部隊との衝突で反乱軍の一方的な虐殺はおさまったもののパニック状態の住民によりその場から動けない事態のマークの元にミシェルから新しい連絡が入ったのはマークが行動を開始した3時間後のことだ。

新海達がそちらに向かっている。

その内容にマークは(ニヤリ)として少し呆れながら本心ではウキウキしていた。

マークには新海がその場で何を喋るのかが、なんとなく予想できた。

「気持ちの良い理想論をぶちまけるんだろ」

一民間人が傭兵部隊を使ってクーデターを起こし政権を打倒する!

そんなことが公になれば、新海達と傭兵部隊は世界中から非難される、その程度のことが、わからない新海ではない。

だが、敢えてこの場で訴えたいことがあるのだろう。

「これで傭兵稼業もお終いか、奴等の為に最高の舞台を用意してやろう。」

心はもう決まったのかマークはミシェルにそう伝えて動き出す。

新海達がこの場に到着したのは辺りが暗くなり始めた夕刻。

住民の数は昼間より増え数千人になり、もはや群集と化していた。

軍と傭兵部隊そして群集の間で一定の距離感ができ、その空間はあたかも劇場のステージのようだった。

群集が緊張でざわめく中、まるで散歩でもするかの様な足取りで新海は(ステージ)の真ん中に進み出た。

群集、I国軍、皆、何が起こっているのかわからず混乱する中、新海はあたりを見回すと、ざわめく群集をよそに第一声を放った。

「このクーデターを起こしたのは俺だ!」

新海の言葉を全世界に配信する為、群集に混じって待機していた御手洗と愛東はおもわずマイクを覆ってしまった。

大変な事が起こる。

御手洗と愛東は身構え、マーク達も直ぐ行動出来るように準備した。

案の定、一瞬の静寂の後、地を割らんばかりの怒号が沸き上がった。

新海に向かって物が投げられる中、新海はその場から動こうとせず、第二声を発しようとした時。

あたりを切り裂く音と共に一発の銃弾が新海を貫いた。

逃げ惑う群集を掻き分け御手洗と愛東は新海を助けようとするが思う様に進めず、マーク達を見るが行動はなかった。

マーク達は新海が撃たれた瞬間、新海をガードしようと車両のエンジンをかけたが新海を見てその手を止める。

なんと新海は演説を続けようと撃たれた箇所を片手で押さえ立ちあがろうと必死にもがいている。

しかも、その手にはマイクが握りしめられており、その目は光を失っていなかった。

這いずるように体を起こすが、足に力が入らないのか、それ以上、立ち上がれず。

それでも頑張る新海にいつしか群集は逃げるのを止めあたりは静まり返った。

やっとのことで群集を掻き分け新海のところまで来れた御手洗は新海を庇う様に覆い被さると、この場から助け出そうと新海の体に手をかけた。

しかし、新海はその手を振り払うと御手洗の体にもたれかかりながら、また、話し始めた。

「ひとりの人間の持つ大きな力は時に大勢の人間を不幸にする」

とても小さな声だったが静まり返ったこの場では人々に伝わるには充分だった。

「それとは逆に大勢の人間の持つ小さな力は、何かを変え、より良い方向に進んで行く可能性がある」

「しかし、人は時に欲に目が眩み道を間違える、小さな力と大きな力、互いに手を取り合って補え合えれば少しずつ皆が幸せに進んで行ける」

「昨日より今日、今日より明日、違った未来を夢見るのなら、人は協力し合える」

「なぜなら、誰もが幸せになりたいと必死に願っているのだから」

どこかの国の学者に言わせると稚拙で単純な言葉かもしれない。

拍手も歓声も無かった。

しかし、不思議と静かだった。

人々は皆、何かを考えているかのように黙っていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...