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第30話 闇落ちした邪竜ちゃんを救おう!

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『あまりにも寂しすぎてわらわは闇落ちしちゃったぞ!』

「闇落ちしたやつは自分で闇落ちしたとか言わないだろ」

 邪竜ちゃんが闇落ちか。
 助ける必要ないな。
 面倒だし放っとこう。

 そう思ったのも束の間、邪竜ちゃんはとんでもないことを言い始めた。

『シロナよ! 今日のパンツは何色なんじゃ?』

「はぁ!? なんでそんなことを教えないといけないんですか!」

『白か? それとも黒か? 教えてくれたってええじゃろ。わらわとシロナの仲じゃないか!』

「仲良くなったつもりはありませんけど!」

 邪竜ちゃんの言動がいつもよりキモい……!
 闇落ちってまさかこういうことなのか?

『こんなけしからん胸をしおって! どれ、わらわが揉み心地を確かめてやろうか?』

『お前ただでさえ粘着ストーカーでやらかしてるのに、セクハラ痴漢わいせつ罪まで加わったら救いようがないぞ』

「ストーカーの時点ですでに救いようはないと思いますけどね」

「マジでキモすぎな」

 邪竜ちゃんが闇落ちしたところでどうでもいいと思っていたが、撤回だ。
 放っておけばセクハラオンパレードでシロナが嫌な思いをしちまう!

「シロナを助けるために闇落ちした邪竜ちゃんを光に戻すぞ!」

「元から闇では?」

『ストーカーが光なわけないよな』

「こんこーん!」

 シロナの前に立ったコンちゃんが、邪竜ちゃんに向けて精一杯の威嚇をする。
 「シロナはボクが守る!」と叫んだ。

「コンちゃん……! ありがとう……!」

「きゅい。きゅきゅきゅい」

『ほう。シロナにちょっかいをかけたかったらまずはお主を倒せと?』

「こんっ!」

『よかろう! 今度こそボコボコにしてやんよ!』

 邪竜ちゃんはまんまと挑発に乗った。
 コンちゃんが時間を稼いでくれているうちにどうにかして邪竜ちゃんを助けるぞ!

「……とは言ったものの、どうやって助ければいいのか」

『美味なご飯でわらわを救えるぞ!』

「闇落ちしたやつはそんな具体的に治し方教えないだろ」

 うまいメシ……ハッ!
 王都で入手した食材がたくさんあんじゃん!

「ドラゴンステーキ、シーサーペントのから揚げ、ショッキングポイズンフィッシュとベニテングタケのホイル焼きを作るぞ、零華!」

『うん! シロナのために我も頑張る!』

 料理開始じゃー!

 ドラゴン肉は王都ですでに解体してもらっているから、ステーキサイズにカットして調理するだけだ。

「下味つけて焼いてハイ完成!」

『ホイル焼きもできたー! 珍しく我だけで作ったぞ!』

「すごい! よく頑張った!」

 残るはから揚げだけだ!
 調理に取りかかろうとした時、邪竜ちゃんがキッチンにやって来た。

『うぅ……。どうやっても勝てん……!』

「また負けヒロインしてんのか」

わらわは敗北者じゃけぇ……! 大人しくアイスでも食べてようかの』

「さりげなくアイス盗み食いしてる時点で全然大人しくないが?」

『まあまあまあ、困った時はお互い様って言うしな!』

「今困ってるのは俺のほうだよ!」

 邪竜ちゃんはアイスを三つ持っていくと、シロナとコンちゃんに一つずつ手渡した。
 いつもなら一人で全部食べてしまうのに珍しい。
 闇落ちしてる時は少しだけ優しくなるのかな?

『どうぞ』

「貴方のじゃありませんけどね」

「きゅー」

 なんにせよ、今のうちにから揚げを作るぞ!

 シーサーペントは元々から揚げにしようと思って下味だけつけてるから、あとは二度揚げするだけだ。
 そこまで時間はかからない。
 邪竜ちゃんがアイスを食べている間に完成させるぜ!

 片っ端から揚げていると、シロナの悲鳴が家中に響き渡った。

「ぎゃあああああああああああんぬ!? 辛い辛い辛ーいっ! ナニコレ辛すぎ助けてー!!!」

「んぁああ!? そうだった! 邪竜ちゃん対策にと思って激辛アイス冷蔵庫に入れてたんだった!」

『フハハハハハハハ! バカめぇ! そんな姑息な手でわらわを欺けるわけがないのじゃー! わらわは普通のアイスを食べちゃうぜー! ハ~、美味じゃのぉ~!!!』

 チクショウ! やられちまった!
 闇落ちした邪竜ちゃんが優しいわけがなかった!

 シロナに油でうがいさせる。
 アイスに混ぜたカプサイシンは脂溶性だからな。
 水でうがいするより効果的だ。

「うえええん! 辛かったよぉ……。まだヒリヒリするし油の味が残って気持ち悪い……」

「大丈夫か、シロナ!」

「なんとか致命傷で耐えました……」

「それホントに耐えれてる!?」

『朗報だシロナ! 料理はすべて完成したぞ!』

「もうこれで邪竜ちゃんの脅威から解放されるからな!」

「ありがとうございます……。早くなぎさのご飯食べて口直ししたい……」

 料理をテーブルに並べる。
 邪竜ちゃんは上機嫌で椅子に座った。

 それじゃあ、いっただっきまーすっ!

「は~、うんめ~っ!!!」

 ドラゴンステーキがパねぇ!
 肉そのもののうま味もすごいんだが、脂身とのバランスが絶妙すぎる!

 A5和牛もビックリのうまさだぜ!

「おいしすぎる……! ストレスが、ストレスが消えていく~……!」

『それはよかった! シロナが元気になったようでわらわも嬉しいぞ!』

「よくのうのうと言えますね。元凶のくせに」

 マジでそれな。
 面の皮百メートルくらいあるだろ。

『から揚げうんま~い!』

「きゅい~」

 零華とコンちゃんも頬をとろけさせていた。

 俺もから揚げをぱくり。
 ん~、こってりしててうめえ!
 味変用に作っておいたユーリンチーのタレもまた、さっぱりした酸味が相性よくて最高だった。

「最後はショッキングポイズンフィッシュとベニテングタケのホイル焼きか……」

「このキノコ、ベニテングタケっていうんですね。食べるの初めてです~」

「そりゃ初めてだろうな。バリバリ毒キノコだもん」

「えっ、毒キノコなの!? 食べて大丈夫なんですか!?」

 ベニテングタケには、イボテン酸という超うまい毒が含まれている。
 露店のおっちゃんにショッキングポイズンフィッシュの食べ方を教えてもらった時にビビッときたのよ。
 ベニテングタケも解毒魔法使いながら食べればいいんじゃね!? と。

「そして誕生したのがこの料理だ。ちな味は未知数」

「この料理の味知ってる人がいたら変態すぎますよ」

『コンちゃん、我らに解毒魔法を頼む』

「きゅい!」

 コンちゃんの解毒魔法が発動したのを確認してから、俺たちは恐る恐るホイル焼きを口にする。

「「「『……………………』」」」

 あまりのうまさに俺たちは言葉を失ってしまった。
 なんというか……他の料理と比べてうまみが段違いだ。
 ホイル焼きが一番うまいまである。

「破壊的なおいしさですね」

『うまみの大洪水が起きて思考停止してる今』

「この料理思いついた俺天才じゃね?」

「きゅん!」

 予想外のうまさに俺たちが驚いていると、邪竜ちゃんが奇声を上げながら震えだした。


『ふおおおぉぉぉおお……っ! 美味! 美味なのじゃあああ……! あまりにも美味すぎて光に戻ってしまったわ!』

「よかったな」

「よかったですね」

『もう帰っていいぞ』

「こーん」

『冷たっ!? もっと喜んでくれてもええじゃろ!? この世界の太陽と言っても過言ではないわらわが完全復活したんじゃぞ!』

「沈め!」

「二度と昇ってくるな!」

『太陽に謝れ!』

『あーもうわらわ拗ねた! お腹いっぱいになったしもう帰るもん!』

 邪竜ちゃんの幼稚園児みたいな精神年齢が幸いして、すんなり帰ってもらうことができた。
 よかったよかった、これでまだ居座られたりしたらシロナのストレスが限界を迎えていたことだろう。
 後でたくさん労ってやらないとな。

『なぎさ! マンドラゴラは植えないのか?』

「そーいやそうだった。植えるんだったな。邪竜ちゃんのせいですっかり忘れてたぜ」

 俺は畑にマンドラゴラを植える。

 化学肥料で栄養たっぷりの土だ。
 結界で魔物が侵入してくることはないから、のんびりすくすく育ってくれ。
 農薬で病気にも負けないようにしてやるからな!

「きゅーうい!」

 コンちゃんが成長促進のバフをかける。
 マンドラゴラの葉っぱがぴょこぴょこと動いた。

「食べる時が楽しみだぜ。うまくなってくれよ!」





◇◇◇◇


 数日後。
 朝から俺とシロナは人類最難関ダンジョンにやって来た!
 目的はもちろん食材エリアの探索とアイテム収集だ。

 ちなみに零華とコンちゃんは二人でお出かけしている。
 俺とシロナが二人でいるのもそれが理由だ。

「なぎさ! なぎさ! 特上黒毛ダンジョン牛がスポーンしてますよ! しかも群れで!」

「うひょー! マジじゃん! 全部倒すぞ!」

 ダンジョンの法則に知見のあるシロナのおかげで、さっきから特上黒毛ダンジョン牛が見つかりすぎて大変だぜ。
 零華と俺だけで探索した時とは効率が段違いだ。

「シロナは頼りになるなぁ。マジサンキュー!」

「えへへ、任せてください! もっといっぱい見つけてやりますよ!」

 ウッキウキで探索を続けていると、突如俺の足元に魔法陣が広がった。
 なんかトラップでも踏んだか?
 そんな感じはなかったけど。

「ッ! これ転移系の魔法陣です!」

「シロナ、俺から離れるなよ」

 俺はシロナを抱き寄せた。

 シロナを置いてけぼりにしたら間違いなく死ぬ。
 転移するなら必ず二人で、だ。

「何があっても俺が守るから安心しろ」

「頼みましたよ!」

 目の前が光に包まれる。
 次の瞬間、俺たちは森の中にワープしていた。

「ここどこ?」

「きれいな景色……」

 木々の隙間から暖かい木漏れ日が差す。
 周囲には美しい花々が咲き誇っていた。

「とりあえず進んでみるか」

「ですね。何か情報を手に入れないと!」

 周囲の観察をしながら適当に進む。
 動物たちが遠目からこちらの様子をうかがっていた。

 全然魔物がいないな。
 少なくとも人類最難関ダンジョンの中ではなさそうだ。

 しばらく進むと、森の中にひっそりと佇む集落にたどり着いた。
 遠くのほうには超巨大な樹が生えている。

「ここってもしや……」

「何か知ってるのか?」

「エルフの国」

 シロナがそう呟いた時、集落のほうから数人の人間が走ってきた。

「レイスを連れているぞ!」

「気をつけろ! 例の元凶やもしれん!」

「里はアタシたちが守る!」

 よく見ると全員耳が尖っていた。

 うおー! エルフだ!
 モノホンエルフ! スゲー!

 という感動はいったん置いといて、明らかに怪しまれてるな俺たち。
 一触即発の空気だ。

 エルフの国に来てそうそう対立することになってしまった。

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