社畜、ケモミミ幼女を拾う。~てぇてぇすぎる狐っ娘との癒され生活が始まりました~

狐火いりす@商業作家

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第9話 潮干狩りをしよう

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「葛葉ちゃんは初めてなんだっけ?」

「うん! だからたのしみ!」

 葛葉ちゃんは眼前の光景に目が釘付けになっている。

 それもそのはず。
 私たちの目の前には、太陽の光を反射してキラキラ輝く青い海が広がっているのだから。

「海ってかわったにおいがするね」

「潮風の匂いだよ」

「葛葉、このにおいすき~」

 初めての海を堪能する葛葉ちゃんをしり目に、私は道具の準備をしていく。

 海を一度も見たことがないという葛葉ちゃんに海を見せたかったというのもあるけど、今回の一番の目的は潮干狩りだ。
 自分で獲ったあさりをバター醤油で焼いたら、さぞかしおいしいだろうねぇ。

「葛葉ちゃん、海は危ないからちゃんと私のそばにいてね」

「はーい。葛葉、ずっとなるせお姉ちゃんのおそばにいる~」

「熊手は持った?」

「もったよ、ほら!」

 葛葉ちゃんは熊手を持った状態で、ビシッとポーズを決める。
 はぁ~、てぇてぇ。

「うんうん。やる気バッチリだね。それじゃあ、始めようか」

「アサリさん、いっぱいとるぞー! おー!」

「おー!」

 現在、干潮の二時間前。
 アサリは普段海に浸かっている場所の砂の中にしかいないから、干潮前~干潮にかけて潮干狩りしていくのが定石だよ。

「うみのお水つめたくてきもちいい~」

 波に当たらないように波打ち際を行ったり来たりしていた葛葉ちゃんが、楽しそうに呟く。

 私も子供のころ姉とやってたな~、それ。
 どこまで波に当たらずギリギリを攻められるかチキチキレースするの楽しいよね。

「なるせお姉ちゃーん」

「なーにー、葛葉ちゃん……って、ひゃぁっ!?」

 葛葉ちゃんに呼ばれて振り向くと、いきなり海水をかけられた。
 ひんやりとした感触が心地いい。
 海水をかけてきた張本人は、楽しそうにお腹を抱えて笑っていた。

「あはは、なるせお姉ちゃんおもしろーい!」

「やったな、この! そーれ!」

「きゃー!」

 私も負けじと葛葉ちゃんに海水をかける。

「フッ。私のほうが手のひら大きいから、一度にたくさんバシャァァンってできるんだよ」

「ぐぬぬ……。だったら葛葉はこうするよ! えいやー!」

 葛葉ちゃんは腕の部分まで使って、大きく海水をすくいあげる。
 それを、私めがけて放ってきた。

「ぐわ~~~!? やられた~~~!?」

「葛葉のかち! みたかぁ!」

「私の負けだぁ……。おめでとう、葛葉ちゃん!」

「やった~!」

 そんな感じで葛葉ちゃんと一緒にはしゃいでいたら、いつの間にか一時間が過ぎていた。
 え? 待って、もうこんな時間経ったの? 早すぎない?
 ヤバい、このままだと潮干狩りしに来たのに一度も狩ることなく終わっちゃうよ。

「葛葉ちゃん、潮干狩りしようか!」

「はっ!? すっかりわすれてた……! しおひがりしなきゃ!」

 私たちは熊手を手に、海と浜辺が接するポイントに移動する。

「アサリなんかの貝はこういうところにいるんだよ。それじゃあ掘っていこうか」

「ん、いっぱいほりほりする!」

 砂浜にしゃがみこんだ私たちは、熊手を使って砂をかき分けていく。
 五分ほど続けていると、そこそこ大きなアサリが出てきた。

「こんな感じでやるんだよ」

「わぁ! なるせお姉ちゃん、じょーずだね!」

「がおー! 葛葉ちゃんを食べちゃうぞー!」

「なに言ってるの、なるせお姉ちゃん?」

「なんでもないです気にしないでください」

 はい、完全にスベりました。
 葛葉ちゃんが「じょーず」って言うから、某サメ映画ネタをマイルドにやったんだけど……。
 サメ映画を知らない葛葉ちゃんに通じるわけなかった。

 ……てか、サメはがおー! って鳴かないでしょ。

「あ、なにかにあたった!」

 葛葉ちゃんが表情を輝かせる。

「貝を傷つけないように、優しく掘るんだよ」

「はーい!」

 葛葉ちゃんは丁寧に砂を掘っていく。
 しばらくすると、小さなアサリが出てきた。

「やったぁ! 葛葉もとれたー!」

「……喜んでるところ悪いんだけど、このアサリさんはバイバイしよっか。まだ子供だから、大きくなるまではそっとしておいてあげようね」

 小さな貝をリリースするのは海の資源を守るためだけど、私の語彙力じゃ子供でも分かるようにかみ砕いて説明することができない。
 けど、葛葉ちゃんはシュンとしながらも頷いてくれた。

「……おおきくなったら、またとりにくるね。ばいばい」

 葛葉ちゃんがリリースしたところで、私は元気づけるために話しかける。

「葛葉ちゃん、もう一度さっきのところを掘ってみたらどうかな?」

「どうして?」

「アサリさんたちはね、結構同じところに固まってたりするんだよ。だから、まだいるかもしれないよ」

 それに、先ほど葛葉ちゃんが感じた手ごたえは大きそうだった。
 今しがたリリースした小さなアサリが手ごたえの正体だったとは考えにくい。
 だから、葛葉ちゃんが掘っていたポイントに大きなアサリが潜んでいる可能性は高いと思う。

「わっ! なにかある!」

「大きなアサリだといいね」

 何が出てくるのか静かに見守っていると、とうとうその姿が見えた。

「おおきい! なるせお姉ちゃんのアサリさんよりおおきいかも!」

「確かにすごく大きい……って、これハマグリだよ!」

「ハマグリ……?」

「そう、ハマグリ。ここの砂浜だと大当たりだよ」

「おおあたり!? もしかして、葛葉すごい?」

「うん、すごいよ。こんなに大きなハマグリを引き当てちゃうなんてね!」

「わ~い、なるせお姉ちゃんにかてたぁ!」

 葛葉ちゃんをたっぷり褒めてあげると、葛葉ちゃんは今日一番の笑顔を見せてくれた。
 てぇてぇ。

 それから一時間後。
 葛葉ちゃんがハマグリを引き当てた後も、たくさんアサリを獲ることができた。
 潮が満ち始めてきたので、私たちはこの辺で引き上げることにした。

「初めての潮干狩りはどうだった?」

「すごくたのしかったから、またやりたい!」

「たくさん楽しめたみたいだね。それじゃあ、今度はマテ貝を獲りに行こっか」

「まてがい……?」

「アサリさんやハマグリさんとは別の貝だよ。面白い貝だから、絶対に楽しめると思う」

「どんな貝なんだろう……?」

「見てからのお楽しみだよ」

「むー、すっごくきになるー」

 他愛ないやり取りをしながら歩いていると、入場料を払った場所でお土産を売っているのが目についた。
 せっかくだから何か買って帰ろっか。

 私は葛葉ちゃんと一緒にお土産を眺める。

「何か一つ、好きなの選んでいいよ」

「どれにしようかな……」

 葛葉ちゃんはしばらく悩んでから、海の生き物を可愛くデフォルメしたキーホルダーを指さした。

「これがいい! かわいいもん!」

「ヒトデさんのキーホルダーだね。じゃあ、私はこっちのキーホルダーにするよ」

「葛葉、これしってるよ! ウミガメさんでしょ?」

「よくわかったね。葛葉ちゃん物知りですご~い」

「えへへ」

 葛葉ちゃんをたっぷり褒めてから、私はキーホルダーを購入する。
 最後にもう一度、二人で海を眺めてからその場を後にした。

「しおひがり、たのしかったー!」

「ふふふ、そうだね」

 満足気に笑う葛葉ちゃんを見て、私も心の底から笑うのだった。

 ちなみに、バター醤油で焼いたアサリは死ぬほどおいしかったです。
 同じくバター醤油で焼いたハマグリを食べる葛葉ちゃんがてぇてぇかったのは言うまでもない。
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