社畜、ケモミミ幼女を拾う。~てぇてぇすぎる狐っ娘との癒され生活が始まりました~

狐火いりす@商業作家

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第10話 梅雨入り

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「おそと、いっぱい雨ふってるね」

 葛葉ちゃんは窓から外を眺めながら、残念そうに呟く。

「今日から梅雨だからね~。これからしばらくはずっとこんな天気が続くと思うよ」

「そう……」

 私がそう言うと、葛葉ちゃんはがっくりと肩を落とした。

「葛葉ちゃんは雨嫌い?」

「雨はおちつくからきらいじゃないよ。でも、お日さまがポカポカしてるほうが楽しいから、ずっとつづくのはヤダ」

「だよねぇ」

 私はしみじみと頷く。
 じめじめしたのが長く続くのは嫌だよねぇ。

「じゃあさ、てるてる坊主でも作ってみる?」

「てるてるぼーず?」

 そう提案すると、葛葉ちゃんは不思議そうに首を傾げた。
 そっか、葛葉ちゃんはたぶん見たことすらないよね。
 私はてるてる坊主について説明する。

「てるてる坊主っていうのはね、紙なんかで作ったお人形さんのことだよ。このお人形さんを軒先なんかに吊るして、明日が晴れますようにって願うの」

「そしたらお日さまでてくる?」

「葛葉ちゃんがお願いしたら出てきてくれるかもね」

「なら、てるてるぼーずつくる! なるせお姉ちゃん、つくりかたおしえて!」

「いいよ。一緒に作っていこっか」

 というわけで、私は材料を机の上に並べる。

 紐、布、綿、リボン、それからマジックペン。
 家にあった材料で使えるのはこの辺かな。

 よし、それじゃあ作りますか。

「まずはこうやって、布に紐を通すんだよ」

「ぐぬぬぬぬ……やー!」

 可愛らしい声を上げる葛葉ちゃん。
 紐がしっかり通っていることを確認してから次のステップへ移る。

「次は綿を丸めて~」

「くるくるくる……っと。こう?」

「上手上手。きれいに丸まってるね。そしたら、丸めた綿を布の裏側に入れて形を整える」

「わお。ひとっぽくなってきた!」

「完成まであとちょっとだよ。それじゃあ、首の部分に紐を巻いて形を固定してね」

「んしょんしょ……できたぁ!」

 葛葉ちゃんは得意げにてるてる坊主を見せてくる。

 うんうん、きれいな形になってるね。
 初めて作るとは思えない仕上がりだ。
 私が初めて作った時は人の形をしたバケモノになっちゃったから、葛葉ちゃんはすごいよ。

「これでかんせい?」

「まあ、完成っちゃ完成かな。でも、これだけじゃ味気ないから……これを使っていきます!」

 私はどどん! とマジックペンを掲げる。

「それでどうするの?」

「まあ見てて」

 私はペンのキャップを取ると、てるてる坊主の頭部に顔を描き込んでいく。

 まずは明るめの茶髪を肩まで伸ばして……。
 次にぱっちり開いた栗色のおめめを描いて……。
 口もとはにっこりした感じでいいかな。

 そして、最後にもふもふのケモミミを生やす!

「完成!」

「……もしかして、これって葛葉?」

「よく分かったね。葛葉ちゃんを描いてみたんだけど、どうかな?」

 実物を見ながら描いたから、けっこう上手に描けたと思うよ。

「葛葉そっくりだぁ~。えへへ」

「よかった~、喜んでもらえて」

「おれいに、葛葉はなるせお姉ちゃんをかくね!」

「ホントに!? いやー、どんな感じになるか楽しみだな~」

「できあがるまで見ちゃめっ! だからね」

「はーい、分かりましたー」

 完成してからのお楽しみとのことなので、大人しく私はキッチンに移動する。
 待ってる間にお菓子の準備でもしますか。

 ついこの前が和菓子の日だったってことで、おいしそうな和菓子を買っておいたんだよね。
 葛葉ちゃんなら絶対に喜んでくれるでしょ。

 私はお盆の上に和菓子とジュースを並べる。
 いつでも持っていけるように準備したところで、葛葉ちゃんが「かんせいしたよー!」と教えてくれた。

 私はお盆を持ってリビングに戻る。

「はい、これ今日のおやつだよ。ジュースはリンゴとオレンジ好きなほうを選んでね」

「葛葉、リンゴのほうがいい~」

 コップを渡すなり、葛葉ちゃんはあっという間にリンゴジュースを飲み干してしまった。
 満足気に目を細めながらコップを机に置く。

「それじゃあ、葛葉のつくったてるてるぼーず見せてあげるね! じゃじゃーんっ!」

 葛葉ちゃんはてるてる坊主をでかでかと掲げる。

「どう? なるせお姉ちゃんにそっくり?」

「うん、確かに私だ。葛葉ちゃん絵が上手なんだね」

「それほどでも~」

 まんざらでもなさそうにしている葛葉ちゃんに癒されたところで、私は葛葉ちゃんの作ったてるてる坊主をじっくり観察する。
 てるてる坊主の目の下には、大きなクマが描かれていた。

 ……うん。やっぱり、どう見ても私だ。
 社畜生活で寝不足だからか、私の目元にはいつもクマがあるんだよね。
 そんなところまで細かく描き込まなくてもよかったんだよ、葛葉ちゃん……。

「てるてるぼーずはどうするの?」

「そうだねぇ……窓のところにぶら下げとこうか」

 窓のそばまで移動した私は、てるてる坊主(葛葉ちゃんver)をカーテンレールにぶら下げる。

「よし、私のはオッケー。葛葉ちゃんも自分でぶら下げるでしょ?」

「ぶらさげたいけど、手がとどかない……」

「そう言うと思ったよ。よいしょ!」

「わっ!?」

 私は葛葉ちゃんを抱え上げる。
 葛葉ちゃんは一瞬だけ驚いたものの、すぐにはしゃぎ出した。

「あはは、たかいたか~い!」

「はしゃいだら危ないよ。ちょっとこの体勢キツいから、早めにぶらさげてくれたら嬉しいな」

「葛葉おもたいの……?」

「全然そんなことないよ。ただちょっと、私が貧弱すぎて長くは続きそうになくてね……」

 あ、ヤバ。もう腕がプルプルしてき始めたんだけど。
 日々の運動不足がたたってるわ。
 ちゃんと運動しなきゃ……。

「……んしょ! なるせお姉ちゃん、ぶらさげたよ」

「了解ですありがとうございますっ」

 私は速攻で葛葉ちゃんを降ろす。
 ふぅ~、もう腕が限界だわ。

「それじゃあ、明日が晴れますようにってお願いしようか」

「ん、葛葉おねがいする!」

 葛葉ちゃんは両手を合わせて目をつむる。

「あしたはお日さまが出てぽかぽかになりますように」

「私からも、葛葉ちゃんのために晴れますように」

 そこまで言ったところで、私は手をパンっと叩いた。

「よし! お願いしたことだし、おやつの時間にしますか」

「わぁ~い、おやつの時間だぁ~」

「今日のおやつはおまんじゅうだよ」

「やったー! 葛葉、おまんじゅうだいすき!」

 このおまんじゅうは和菓子がおいしいって評判のお店で買ってきたから、葛葉ちゃんなら絶対に満足してくれるはずだよ。

「いただきまぁーす」

 私が見守る中、葛葉ちゃんはおまんじゅうを一口かじる。

「おいしい!」

「勝ったな」

「なにに?」

 私は心の中でガッツポーズを決め込む。
 おまんじゅうを選んだ私の判断に間違いはなかったようだ。

「あんこがおいし~」

 ほっぺに手を当てながらもぐもぐする葛葉ちゃんを眺める。
 はぁ~、てぇてぇなぁ~。

 おまんじゅうに舌鼓したつづみを打つ葛葉ちゃんに癒されていると、ふいに窓の外が明るくなった。

「お?」

 これはもしやと思って窓の外を眺めると、雲の合間から太陽が顔をのぞかせていた。
 雨はすでに止んでおり、そこかしこにできた水たまりが太陽光を反射してキラキラ光っている。

「わぁ……! お日さまだぁ……!」

 外を眺めながら嬉しそうな声を上げた葛葉ちゃんに話しかける。

「きっと、てるてる坊主が葛葉ちゃんのお願いを叶えてくれたんだよ」

「……そうかも!」

 葛葉ちゃんはハッとした様子で、てるてる坊主のほうに向きなおる。
 何をするのかなと思ったら、葛葉ちゃんはぺこりと頭を下げた。

「ありがとね、てるてるぼーずさん!」

 ……葛葉ちゃんがいい子だから、てるてる坊主は願いを叶えてくれたんだろうな。
 私は外を眺めながら、そう思うのだった。
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