学園の華たちが婚約者を奪いに来る

nanahi

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22 事故

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「おお、ケビン……!生きていて本当によかった。国の宝を失うところだった」

王立病院にかけつけた陛下は涙ぐみながら、ベッドに横たわっているケビンの手を取った。

「陛下、なんというもったいないお言葉……」

ケビンは幸い、生きていた。
ただ、両足と利き腕の右手を骨折し、頭も打っていた。

「ケビンの具合はどうなのだ?」

陛下が担当医に確認する。

「骨折は時間はかかりますが治るでしょう。石で頭を打っているので、当面の間入院していただき、後遺症の可能性がないか慎重に経過をみる予定です」

陛下は医師の答えにほっとしている。

「とりあえずすぐに命に関わる状況でないことは幸いであった」

ケビンは改まって陛下に向き直る。

「陛下。例の調査ですが」
「む」

陛下の顔が真剣になる。

「やはり、組み込まれていました。表から見えないように巧妙に細工をされて」

陛下は眉根を寄せる。

「その仕掛けはどれくらいあるのだ」
「これまでの調査結果と合わせると……ざっと王都中の建物の5%程度はあるかと」
「そんなにか……!」

実はケビンはある特命を担っていた。
それは、王都中にある建物に不審な仕掛けがされていないかを調査すること。
ケビンが耐震工事をしていたとき、偶然ある建物の見えない壁裏に妙な仕掛けを見つけ、陛下に報告したのがきっかけだった。

ケビンが調べていくと、その仕掛けは他の建物でも見つかった。
昨日、耐震工事をしていた第六区の集会場も事故後の調査で仕掛けが発見されていた。

「ある者が王都のあちこちの建物に仕掛けを施しています。長い年月をかけて」
「つまりそれは」
「意図的に崩壊事故を起こせるようにです」

いつ何時でも崩落事故を装い、ターゲットを暗殺できるのだ。
王都に住む者は人質に取られたようなものだった。

「その犯人は」
「普通民衆が入り込めない建造物にもその仕掛けを見つけました。
犯人は長年細工の工事を続ける財力と、どんな建物にも自由に出入りする権力を持つ者。
陛下のにらんだとおり、おそらく国土院を牛耳っているレッドグレイブ公かと」

陛下は、やはり、という表情だ。

「あの集会場で崩落が起こったということは、まさかケビンの命を狙ったということか」
「その可能性は十分あるでしょう。レッドグレイブ公が耐震工事を渋る理由もここにあります。いい加減、私が邪魔だったんでしょう」

陛下は考え込んだ。

11年前、崩落事故で死んだラングレイも──

「ケビン。これから言うことは私の独断だ。君たち親子には多大なる迷惑をかけてしまうが、どうか許してほしい」

陛下はケビンに頭を下げた。




陛下が見舞いから帰ったすぐ後、シャロンとルアージュが病室に走り込んできた。

「パパっ!!」

ベッドで寝ているケビンがシャロンに顔を向け、左手を上げた。
シャロンはケビンの胸に飛びついて泣いた。

「ごめんな、シャロン。心配かけて。パパは大丈夫だよ。ルアージュ様もわざわざお越しいただき、ありがとうございます」

ケビンは頭を下げた。

「いえ。命に別状がないようで、ほっとしました」

よかったな。
シャロン。

ルアージュはケビンから離れようとしないシャロンに心の中で語りかけた。

崩落事故。
兄上──

シャロンとケビンを見つめながらルアージュは、亡き兄のことを思い出していた。




11年前。
当時の王太子ラングレイは15になったばかりだった。

貴族たちの会合に参加した後、ラングレイは落とし物を探しに再び会議室のそばに来ていた。

「例の仕掛けは順調か?」
「はい。まず手始めにいくつかの建物に仕掛けております。お好きなタイミングで崩落事故を起こすことができます」

「何の話だ」

突然ラングレイに声をかけられ、二人の影がびくっと身を震わせた。
レッドグレイブ公とダニエルである。

「仕掛けによって崩落事故を意図的に起こすつもりか」

全て聞かれていた!
レッドグレイブ公は冷や汗をかきつつ、生き延びる方法を頭をフル回転して探した。

レッドグレイブ公は、がばっと地に伏せ、額をこすりつけた。

「これを機に心を改めます!気に入らない貴族がいて、憎いあまり馬鹿なことを考えました。全て私の一時の気の迷いです。仕掛けは全て外し、元に戻します。お信じになれないようなら、今すぐここで成敗してください!」

遅れてダニエルも土下座をした。

「……本当だな?二度とそのような悪事に手を染めるんじゃないぞ。今度やったら陛下に報告するからな」
「はい。この命かけましても!」

レッドグレイブ公の大芝居に、まだ若く、優しく素直なラングレイは騙されてしまった。




それから幾日もしないうちに、レッドグレイブ公は、口封じとして、崩落の仕掛けを使いラングレイを葬った。
これでレッドグレイブ公の企みが公になることはなかった。



ただ、ルアージュと陛下は、レッドグレイブ公がこの事故に関わっているとにらんでいた。

息を引き取る間際にラングレイが一瞬だけ意識を取り戻したときだった。
ちょうど居合わせていたルアージュが「兄上!兄上!」と名を叫んだ。
ラングレイはルアージュだけに聞こえるかすかな声で、こう言った。

「レッド、グレ、公しゃ……気をつけ、ろ。王都、あちこ……し、し、しか──」
「しか??何、兄上なんのこと??」

ルアージュが聞き返したが、もうラングレイの目からは光が消えていた。

「兄上!兄上ええ!!」

何度呼ぼうと、もう二度と兄は動かなかった。
兄の遺言だと思ったルアージュは、陛下にこのことを報告した。

陛下はレッドグレイブ公の怪しい動きに勘づいたが、表立って弾劾するには証拠が足りなかった。

そうするうちに、ケビンがある建物に不審な仕掛けを発見し、陛下に報告書を提出した。
レッドグレイブ公の関与を疑った陛下はケビンに、レッドグレイブ公に気づかれないよう細心の注意を払って少しずつ調査を進めるよう命じた。

そんなレッドグレイブ公は今回、シャロンの大切な家族であるケビンまで手をかけようとした。

レッドグレイブ公。
いつか絶対にお前の企みを暴いてやる。

ルアージュは心に強く誓った。





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