学園の華たちが婚約者を奪いに来る

nanahi

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23 婚約破棄

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ルアージュは陛下に私室に呼ばれていた。

何やら重苦しい空気だ。
父が何か重大なことを自分に伝えようとしているとルアージュは肌で感じた。

「ルアージュ」

陛下が重い口を開いた。

「今から言うことは私の独断だ。許してほしい」
「父上……?」

一国の王がはじめから謝罪をするなど、一体どういうことなのだ。

「お前とシャロンの婚約を白紙に戻す」
「え──」

とっさに理解できないルアージュに、重ねて陛下は言った。

「お前たちの気持ちを引き裂くようなひどいことだと重々承知している。だがこれは、お前たちを守るために必要な決断なのだ」
「絶対に嫌です、父上!!!」

ルアージュは頑として拒否した。

「僕はシャロンを愛しています!絶対に別れたくありません!!」

ルアージュは父に噛み付くようなすごい剣幕だ。
そんなルアージュを諭すように陛下は言った。

「レッドグレイブという男は自分の思い通りにならないことを絶対に許さないタチだ。お前とシャロンの間に割って入ることができない娘のために、次は何をしでかすかわかったものではない。
だから一旦婚約を白紙に戻し、あやつの攻撃の手を止めるのだ」
「しかし、父上」
「また命を狙われてお前がいなくなったらこの王国はどうなると思う?
お前に兄弟はいない。ということはあやつの息子が王太子として即位するのだぞ?」
「え、ルイが?」

ルアージュはレッドグレイブ公の息子と面識があった。

「そうだ。レッドグレイブ公の真の狙いはおそらく、三代前のように家門から王を輩出することだ。
そうなれば、王家はあやつに乗っ取られてしまう。
世継ぎのお前を守るのは当然だとしても、危険にさらされるのはシャロンも同様なのだ」
「シャロンが?どうして?」

ルアージュはまだ陛下の意図をよく理解できていない。

「お前の暗殺未遂。ケビンの崩落事故。そして次に狙われるのは?──おそらくシャロンだ」
「どうして!?シャロンは関係ないはず──」
「お前の婚約者だ。次期国王であるお前の。シャロンは未来の王妃という重要な立場にあるのだ」

未来の王妃。
令嬢なら誰もが憧れる立場。
そして、権力を求める貴族たちにとっても、手に入れたい力のひとつだ。

「レッドグレイブ公が背後にいる可能性が濃厚なら、なおさらだ。あやつはソフィアを溺愛している。シャロンを目の敵にしているだろう。
私も甘かった。あやつらは思った以上に悪辣だった。
そんなやつらから守るには、今はシャロンを婚約者という立場から外すのが得策なのだ」
「そんな──」

ルアージュは頭では理解できても、心では受け入れられなかった。

「しかし、父上。もし全てが解決したら、また僕とシャロンは元に戻れるのでしょう?」

だが、陛下は押し黙っている。

「父上!」
「──約束はできない。すまぬ」
「──!!!」

ルアージュは城を飛び出していた。

「ルアージュ様お待ちを!どこへ!?」

護衛をまき、馬に飛び乗り、シャロンの元へとひたすら走った。




シャロンは私室で手紙を読んでいた。
一足早く、陛下から手紙を受け取っていたのだ。

そこに書かれた王都中に巡らされたレッドグレイブ公の陰謀とルアージュの命の危機。
陛下の苦渋の決断。
最後は陛下の深い謝罪と共に手紙は締めくくられていた。

「そうか……そうすればルアージュ様のためになるんだな。そうか。なら、仕方ないか……」

シャロンは一筋の涙を流したあと、全てを飲み込んだ。




「シャロン!」

ノックもせず、ルアージュが部屋に飛び込んできた。

「シャロン、僕と外国に逃げよう。そこでふたりで暮らすんだ」

息荒く、汗をかいているルアージュ。
きっと婚約破棄となった自分のために、駆けつけてくれたのだろう。

「お断りします」

間髪入れず、シャロンが断った。

「なぜ!?君も僕のことを」
「私の気の迷いでした。何ぶん、恋愛に疎いもので。
契約があったからルアージュ様と仕方なくご一緒したのです。
契約が破棄された今、私にはあなたと一緒にいる意味がありません」

シャロンは気持ちとは真逆のセリフを本心を悟られないよう流暢に繰り出した。

本当はルアージュ様のこと、大切に思っているのに。

シャロンの手はルアージュに嘘を言わねばならない悲しみで小刻みに震えていたが、手を握り締めぐっとこらえていた。

「本当のことを言ってくれ!父上に何か言われたのだろう!?それで仕方なく」
「いいえっ!!」

ルアージュの言葉をシャロンは真っ向から否定した。

「しつこい人は嫌いです!あなたのことはもう何とも思っていませんし、むしろ重い責任から解放され、せいせいしております!お帰りください!!」

シャロンはルアージュを無理やり部屋から追い出し、鍵を閉めた。

「嘘だろ!?僕は信じない!シャロン、開けてくれ、シャロン!!」

ルアージュがシャロンの名を呼びながら何度も扉を叩いたが、シャロンは決してその扉を開けなかった。

本当は一緒に逃げようと言ってくれて嬉しかった。
でも、今ここで王太子が去ってしまえば、この王国は終わってしまう。
レッドグレイブ公の息子がルアージュの代わりに王位を継ぎ、ますます毒のように権力の根を張りめぐらせるだろう。

「シャロン!!!」

最後に悲鳴に近い叫びのあと、とうとうルアージュは無理やり護衛たちに連れ帰られていった。
シャロンは辛さでズクズクとこれまでにないほど痛む胸を押さえた。

「心臓が痛い……痛いよ……」

溢れそうになる涙を必死で堪えているシャロンは、自分の想いよりも、ルアージュの国王としての未来を選んだ。




数日後、シャロンを心配して、カリンが屋敷に来てくれていた。
ルアージュとシャロンの婚約破棄の話は王国中で噂になっていた。

「シャロン、大丈夫?夜、眠れてる?」
「ん……あまり」

やっぱり。

覇気のないシャロンを見て、カリンは不憫になる。

「でも大丈夫だ。じきによくなるだろう」
「よくなるって何が?」

シャロンは指折りしながら、

「ルアージュ様に手を繋がれた時、心臓がうるさかったり、
ルアージュ様に誕生日プレゼントに地図を買ってもらったとき、嬉しいのに心臓がぎゅっとなって苦しかったり、
ルアージュ様が私の唇に──」

はた、とシャロンは口をつぐんだ。

「だから、もうじき治る。別れたんだから」

カリンはシャロンの無垢な言葉に目に涙をため、思わずシャロンを抱きしめた。

「シャロン……それは、恋っていうのよ」
「こい?こいって、男子と女子がひかれあうという、あれか?まさか」
「まさかじゃないの。あなたはルアージュ様に恋をしていたのよ──」

恋を知らなかった少女がはじめて恋に気づいた時、もう愛しい人はそばにはいなかった。




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