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3 美肌アイス
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「いらっしゃいませ。」
わたくしはひとりでやって来たグリアに挨拶をしました。けれどグリアはわたくしの場所からは遠く、聞こえていたかはわかりません。
なぜならわたくしの店には生徒や教師たちが行列を作っていたからです。グリアは仕方なく最後尾に並んでおりました。何やらキョロキョロと周囲をうかがっています。昨日わたくしに「来るわけないじゃない。」と言ってしまった手前取り巻きたちに姿を見られてはまずかったのでしょう。
40分後、ようやくグリアに買う順番が来たところで15時のチャイムが鳴りました。グリアはどれにしようか目を皿のようにしてアイスを吟味し始めました。
「申し訳ございません。15時のチャイムが鳴ると店を閉めるよう学園長から言われておりますので本日はここで終了となります。」
「え!そんなの困るわ!」
「決まりですので申し訳ございません。」
わたくしは問答無用に、しかし丁重にショーケースのカーテンを閉めました。
「チッ!」
グリアは買えなくてとても悔しそうでした。
今日の売れ筋は”美肌になるアイス”。アバタに悩む生徒が昨日半信半疑で食べた結果、今朝登校したときに見違えるようにつるんとした美肌になっていたことが判明したのです。
グリアは化粧で巧みにごまかしていましたがその下にはアバタが隠れていることをわたくしは知っていました。グリアの目当ては美肌アイスだったのでしょう。
どうしてそのようなアイスが作れるのかですって?
実はわたくしには元々精霊の加護がありました。婚約破棄と退学で深く傷ついたわたくしに精霊が力を貸してくれたのです。学園の皆さまはこのことを知りません。霊感の才があることをひけらかすなど恥だと考えていたわたくしが話してこなかったからです。
毎夜当家の聖なる木にさまざまな精霊が集います。真夜中に集まり明け方去る精霊が残していく光る粉には不思議な力が宿っています。それをわたくしはアイスに練り込むことで不思議な力のあるアイスを生み出したのです。
明日もきっとグリアはやって来る。
わたくしにはわかっていました。
翌日やはりグリアは店にやってきました。お店が開く昼休みのチャイムが鳴った瞬間いの一番に店頭に走り来ました。
「いらっしゃいませ。」
「美肌アイスは!?」
グリアは商品を渡す前からわたくしに手を差し出して至極慌てている様子です。
「早くして!王太子殿下が来ちゃうじゃない!」
わたくしは美肌アイスをカップに取りグリアに渡しました。
「こちらの商品には注意事項がございま──」
「そんなのいいからっ」
グリアはわたくしからアイスを奪い取り代金をカウンターに投げ足早で去っていきました。
お目当ては王太子殿下ですのね。
わたくしはグリアが何がなんでも美肌アイスが欲しい理由に見当がついていました。
最近当学園にいらした留学生である隣国のハウエル王太子殿下です。学園の女子たちは一気に色めき立ちました。なぜならハウエル殿下は絶世の美男子だったのです。さっそくグリアも殿下に色目を使い始めたようです。
グリアは一年前よりアバタがひどくなっておりました。食生活や生活面で節制ができていないのでしょう。
王太子殿下に見初められれば王太子妃となる道も開けます。グリアはわたくしから奪ったロバート様がいながらハウエル殿下に乗り換えようと企んでいるようです。
グリアは大丈夫でしょうか。あのアイスの注意事項を聞かないまま行ってしまいましたから……。
わたくしはひとりでやって来たグリアに挨拶をしました。けれどグリアはわたくしの場所からは遠く、聞こえていたかはわかりません。
なぜならわたくしの店には生徒や教師たちが行列を作っていたからです。グリアは仕方なく最後尾に並んでおりました。何やらキョロキョロと周囲をうかがっています。昨日わたくしに「来るわけないじゃない。」と言ってしまった手前取り巻きたちに姿を見られてはまずかったのでしょう。
40分後、ようやくグリアに買う順番が来たところで15時のチャイムが鳴りました。グリアはどれにしようか目を皿のようにしてアイスを吟味し始めました。
「申し訳ございません。15時のチャイムが鳴ると店を閉めるよう学園長から言われておりますので本日はここで終了となります。」
「え!そんなの困るわ!」
「決まりですので申し訳ございません。」
わたくしは問答無用に、しかし丁重にショーケースのカーテンを閉めました。
「チッ!」
グリアは買えなくてとても悔しそうでした。
今日の売れ筋は”美肌になるアイス”。アバタに悩む生徒が昨日半信半疑で食べた結果、今朝登校したときに見違えるようにつるんとした美肌になっていたことが判明したのです。
グリアは化粧で巧みにごまかしていましたがその下にはアバタが隠れていることをわたくしは知っていました。グリアの目当ては美肌アイスだったのでしょう。
どうしてそのようなアイスが作れるのかですって?
実はわたくしには元々精霊の加護がありました。婚約破棄と退学で深く傷ついたわたくしに精霊が力を貸してくれたのです。学園の皆さまはこのことを知りません。霊感の才があることをひけらかすなど恥だと考えていたわたくしが話してこなかったからです。
毎夜当家の聖なる木にさまざまな精霊が集います。真夜中に集まり明け方去る精霊が残していく光る粉には不思議な力が宿っています。それをわたくしはアイスに練り込むことで不思議な力のあるアイスを生み出したのです。
明日もきっとグリアはやって来る。
わたくしにはわかっていました。
翌日やはりグリアは店にやってきました。お店が開く昼休みのチャイムが鳴った瞬間いの一番に店頭に走り来ました。
「いらっしゃいませ。」
「美肌アイスは!?」
グリアは商品を渡す前からわたくしに手を差し出して至極慌てている様子です。
「早くして!王太子殿下が来ちゃうじゃない!」
わたくしは美肌アイスをカップに取りグリアに渡しました。
「こちらの商品には注意事項がございま──」
「そんなのいいからっ」
グリアはわたくしからアイスを奪い取り代金をカウンターに投げ足早で去っていきました。
お目当ては王太子殿下ですのね。
わたくしはグリアが何がなんでも美肌アイスが欲しい理由に見当がついていました。
最近当学園にいらした留学生である隣国のハウエル王太子殿下です。学園の女子たちは一気に色めき立ちました。なぜならハウエル殿下は絶世の美男子だったのです。さっそくグリアも殿下に色目を使い始めたようです。
グリアは一年前よりアバタがひどくなっておりました。食生活や生活面で節制ができていないのでしょう。
王太子殿下に見初められれば王太子妃となる道も開けます。グリアはわたくしから奪ったロバート様がいながらハウエル殿下に乗り換えようと企んでいるようです。
グリアは大丈夫でしょうか。あのアイスの注意事項を聞かないまま行ってしまいましたから……。
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