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5 賢者のアイス
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今日もつつがなく開店を迎えたわたくしのアイス屋さんです。
今日の一押しは”賢者のアイス”。集中力を一時的に上げ学力UPが期待できます。
もうすぐ期末考査を迎える学園の店先には予想通りすごい行列ができております。例に漏れずグリアたちもやって参りました。
「グリアは地頭がいいからこんなアイス食べなくても大丈夫でしょう?羨ましいわ。」
グリアの取り巻きの一人がグリアを牽制しました。グリアに賢者のアイスを食べさせない算段のようです。
王太子妃は学力も大変重視されます。王太子妃の座を狙っている取り巻きたちは学園で目立っているグリアの足を少しでも引っ張ろうとしているのでしょう。グリアをかばう優しい淑女を演じわたくしを集団でなじり貶めてきた取り巻きたちも心根は卑しいようです。
「あなたこそ必要ないでしょう?この前私より順位上だったじゃない。」
グリアも負けじと牽制しています。賢者のアイスを次々と買っていく生徒たちを羨ましそうに眺めながらグリアたちはどっちつかずのまま立ち尽くしています。
「私、用事思い出したわ。先に行くわね。」
グリアがそう言って去り際わたくしに小さなメモ用紙をさっと渡しました。
「あのこちらは、」
「しっ。」
わたくしの質問をグリアは制しました。
『あの子たちが居なくなってから見て。』
どうやら取り巻きに見られてはまずい内容のようです。取り巻きたちが意地の張り合いで結局アイスを買わずに去った後、わたくしはメモ用紙に目を通しました。
”賢者のアイス取り置きしといて”
取り巻きたちに黙って出し抜く気のようです。
しばらくしてグリアがきょろきょろと人目を忍びながら一人でやってきました。
「アイスは?」
コソコソとグリアがわたくしに声をかけました。そのとき取り巻きの一人が向こうから歩いてくるのが見えました。
「やばっ!」
グリアは慌てて店の裏に身を隠しました。
「賢者のアイスまだある?」
取り巻きがグリアが隠れていることを知らないままわたくしに声をかけました。
「ございます。どうぞ。」
「よかった……!私グリアには負けたくないの。」
取り巻きはアイスを受け取ると代金を置いて去りました。
「なによリンダ!抜け駆けするなんて!」
あなたも同じですけどグリア?
「早く私にもアイス頂戴!」
グリアが立ち上がるとまた取り巻きが一人店にやってくるのが見えました。
「ああもうっ!」
グリアはまた店の裏に身を潜めました。
「賢者のアイス頂戴。グリアには言わないでね。」
いつも一緒につるんでいるのに取り巻きたちはグリアのことを好きではないのでしょうか。わたくしは裏でギリギリと歯軋りしているグリアが気の毒になって参りました。
またすぐに別の取り巻きが来てアイスを所望しました。
「グリアには内緒にしといて。」
「ちょっとロナ!!」
グリアが立ち上がってロナに詰め寄りました。ロナは取り巻きの中でも特別グリアと親しくグリアが親友だと思っていた友人です。
「あんた私に隠れて何してんのよ!」
最初びっくりしていたロアでしたが店の裏から来たグリアも同じことをしていたと察したロアは目を釣り上げてグリアをなじりました。
「あんただって一緒じゃない!!日頃から自分は頭がいい、周りの人たちとは違うって言いふらしてるじゃない。だったら賢者のアイスなんていらないわよね?私たちとは違うんでしょ?」
「ぐっ」
グリアは言いくるめられたようです。
「こちらが最後のひとカップとなります。」
そう言ってわたくしがロナにアイスを手渡そうとするとグリアが横からアイスを取り上げました。
「私が先だったのよ!!」
そうしてアイスを口に頬張り始めました。
「なにすんのよっ!!」
ロアも負けておりません。グリアからカップを奪い取り口にアイスを詰め込みます。
「返せ虫ケラがっ!!!」
グリアが聞くに耐えない罵声をロアにぶつけております。少し離れたコーナーを通りかかったロバート様が目を見開いてグリアの方を見ています。
「ロバート様が。」
わたくしはグリアにそっと声をかけてあげました。彼女はお付き合いしている殿方に見られてはあまりにお気の毒な姿です。
「あ?邪魔しないでよ!」
「ロバート様がこちらを見られております。」
「えっ!!」
わたくしに粗野な言葉で凄んだ後、ようやくロバート様に気づいたグリアは慌てて取っ組み合いをやめました。
「あっ、こ、これはその、ロアがわたくしのアイスを!」
口の周りがアイスだらけになりながら言い訳をしたグリアを顔をしかめながら見ていたロバート様はきびすを返しました。
「お待ちください、ロバート様!」
グリアが呼んでもロバート様は立ち止まりませんでした。
「なんでもっと早く教えなかったのよ!!」
わたくしのせいでしょうか?
この方は自分の都合の悪いこと、面白くないこと、何でもわたくしのせいにして参りました。わたくしはその全てを忘れたことはありません。
「それは失礼致しました。」
それでもわたくしは売り子としてお客様へのサービスを全ういたします。
「またお越しくださいませ。」
口喧嘩をしながら去っていくグリアたちにわたくしは声をかけました。またグリアはここにやってくるでしょう。
わたくしを馬鹿にし貶めながらもわたくしの作ったアイスから離れられなくなっていくでしょう。そして最後にはわたくしに乞うでしょう。
お願いだからアイスをください、と。
今日の一押しは”賢者のアイス”。集中力を一時的に上げ学力UPが期待できます。
もうすぐ期末考査を迎える学園の店先には予想通りすごい行列ができております。例に漏れずグリアたちもやって参りました。
「グリアは地頭がいいからこんなアイス食べなくても大丈夫でしょう?羨ましいわ。」
グリアの取り巻きの一人がグリアを牽制しました。グリアに賢者のアイスを食べさせない算段のようです。
王太子妃は学力も大変重視されます。王太子妃の座を狙っている取り巻きたちは学園で目立っているグリアの足を少しでも引っ張ろうとしているのでしょう。グリアをかばう優しい淑女を演じわたくしを集団でなじり貶めてきた取り巻きたちも心根は卑しいようです。
「あなたこそ必要ないでしょう?この前私より順位上だったじゃない。」
グリアも負けじと牽制しています。賢者のアイスを次々と買っていく生徒たちを羨ましそうに眺めながらグリアたちはどっちつかずのまま立ち尽くしています。
「私、用事思い出したわ。先に行くわね。」
グリアがそう言って去り際わたくしに小さなメモ用紙をさっと渡しました。
「あのこちらは、」
「しっ。」
わたくしの質問をグリアは制しました。
『あの子たちが居なくなってから見て。』
どうやら取り巻きに見られてはまずい内容のようです。取り巻きたちが意地の張り合いで結局アイスを買わずに去った後、わたくしはメモ用紙に目を通しました。
”賢者のアイス取り置きしといて”
取り巻きたちに黙って出し抜く気のようです。
しばらくしてグリアがきょろきょろと人目を忍びながら一人でやってきました。
「アイスは?」
コソコソとグリアがわたくしに声をかけました。そのとき取り巻きの一人が向こうから歩いてくるのが見えました。
「やばっ!」
グリアは慌てて店の裏に身を隠しました。
「賢者のアイスまだある?」
取り巻きがグリアが隠れていることを知らないままわたくしに声をかけました。
「ございます。どうぞ。」
「よかった……!私グリアには負けたくないの。」
取り巻きはアイスを受け取ると代金を置いて去りました。
「なによリンダ!抜け駆けするなんて!」
あなたも同じですけどグリア?
「早く私にもアイス頂戴!」
グリアが立ち上がるとまた取り巻きが一人店にやってくるのが見えました。
「ああもうっ!」
グリアはまた店の裏に身を潜めました。
「賢者のアイス頂戴。グリアには言わないでね。」
いつも一緒につるんでいるのに取り巻きたちはグリアのことを好きではないのでしょうか。わたくしは裏でギリギリと歯軋りしているグリアが気の毒になって参りました。
またすぐに別の取り巻きが来てアイスを所望しました。
「グリアには内緒にしといて。」
「ちょっとロナ!!」
グリアが立ち上がってロナに詰め寄りました。ロナは取り巻きの中でも特別グリアと親しくグリアが親友だと思っていた友人です。
「あんた私に隠れて何してんのよ!」
最初びっくりしていたロアでしたが店の裏から来たグリアも同じことをしていたと察したロアは目を釣り上げてグリアをなじりました。
「あんただって一緒じゃない!!日頃から自分は頭がいい、周りの人たちとは違うって言いふらしてるじゃない。だったら賢者のアイスなんていらないわよね?私たちとは違うんでしょ?」
「ぐっ」
グリアは言いくるめられたようです。
「こちらが最後のひとカップとなります。」
そう言ってわたくしがロナにアイスを手渡そうとするとグリアが横からアイスを取り上げました。
「私が先だったのよ!!」
そうしてアイスを口に頬張り始めました。
「なにすんのよっ!!」
ロアも負けておりません。グリアからカップを奪い取り口にアイスを詰め込みます。
「返せ虫ケラがっ!!!」
グリアが聞くに耐えない罵声をロアにぶつけております。少し離れたコーナーを通りかかったロバート様が目を見開いてグリアの方を見ています。
「ロバート様が。」
わたくしはグリアにそっと声をかけてあげました。彼女はお付き合いしている殿方に見られてはあまりにお気の毒な姿です。
「あ?邪魔しないでよ!」
「ロバート様がこちらを見られております。」
「えっ!!」
わたくしに粗野な言葉で凄んだ後、ようやくロバート様に気づいたグリアは慌てて取っ組み合いをやめました。
「あっ、こ、これはその、ロアがわたくしのアイスを!」
口の周りがアイスだらけになりながら言い訳をしたグリアを顔をしかめながら見ていたロバート様はきびすを返しました。
「お待ちください、ロバート様!」
グリアが呼んでもロバート様は立ち止まりませんでした。
「なんでもっと早く教えなかったのよ!!」
わたくしのせいでしょうか?
この方は自分の都合の悪いこと、面白くないこと、何でもわたくしのせいにして参りました。わたくしはその全てを忘れたことはありません。
「それは失礼致しました。」
それでもわたくしは売り子としてお客様へのサービスを全ういたします。
「またお越しくださいませ。」
口喧嘩をしながら去っていくグリアたちにわたくしは声をかけました。またグリアはここにやってくるでしょう。
わたくしを馬鹿にし貶めながらもわたくしの作ったアイスから離れられなくなっていくでしょう。そして最後にはわたくしに乞うでしょう。
お願いだからアイスをください、と。
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