許したと思っていたのかしら?──学園に精霊のアイス屋さんを開いた伯爵令嬢

nanahi

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6 ロバート様

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本日ハウエル殿下がわたくしの店先に来てくださいました。

「ジュリエット、開店おめでとう。」
「ありがとうございます。ハウエル王太子殿下。」

周囲にいた令嬢からきゃあと声がわきました。殿下は隣国テート王家のシンボルである銀髪銀眼で高貴なお顔立ちです。

「王太子殿下だわ!」
「殿下、あちらでアイスをご一緒しません?」
「いえ私と。」
「私とですわ!」

令嬢たちが言い合いになっております。外では王族に気軽に話しかけるなどもってのほかでしょうが、当学園は身分の差なく等しく教育を受ける権利があるという校風で生徒であれば王族にこうして声をかけることは許されておりました。

「ええと。ごめん今日は挨拶に来ただけなんだ。」

気持ちが高ぶっている令嬢たちに取り囲まれ少々お困りの殿下です。

「ハウエル殿下!」

遅れて来たグリアが令嬢たちを押しのけて殿下のそばに参りました。押しのけられた令嬢たちは「強引でなくて?」「グリアって意外と自分本位なのね。」とグリアを睨みつけています。

「僕は失礼するよ。この後予定があってね。ごめんね。」
「ああっ殿下!」

グリアが追いすがろうとしましたが殿下は爽やかにかわし、少し離れた場所に控えていた従者と去っていかれました。

「ああ、もう……」

殿下を少し追いかけて足を止めたグリアの前にロバート様が立ち塞がりました。

「君は最近、王太子殿下のことばかり追いかけているね。」
「そんな……ことは……」

グリアは口ごもりました。

「私はロバート様が一番で、」
「一番じゃないよね。君にとって今一番は王太子殿下だよね。その前は3年のメルム侯爵家のナダル先輩だよね。」

ロバート様がちくりと刺しました。

「君は僕はもういらないんだよね。」
「そんなことは──!」

グリアは焦っているようでした。ロバート様のシュタット伯爵家は王国創立時から王家に仕える名家です。長い歴史を有するお血筋はこの国では非常に重んじられており格上の貴族家がロバート様のお血筋欲しさに縁談を持ち込んでくることも珍しくありません。

平民のグリアにとっても同じです。シュタット家の後継の妻になることは類まれな栄誉です。せっかくわたくしから奪い取ることに成功したのに殿下によそ見をしてしまったばかりにロバート様のお心を失いそうになっております。

「私はロバート様が一番大切です!」
「……信じられないな。」

かつてわたくしが何度信じてくださいと言っても決して信じずグリアの言葉だけを真実としてきたロバート様がここにきてグリアを疑い始めたようです。

「それに君は意外と品性に欠けるところがあると今更知ってしまったんだ。」
「ロバート様っ!」

ああ……
昨日のアイスの取り合いを目撃されてしまいましたものね。

背を向けたロバート様を慌てて引き止めようとしたグリアでしたがロバート様はグリアの手を振り払い振り向きもせず去ってしまわれました。

後には呆然と立ち尽くすグリアだけが残されました。

「お前のせいよっ!」

グリアはそっと見守っていたわたくしに眼を飛ばしそう言い捨て去りました。

どうしてわたくしのせいなのかしら?

わたくしはグリアの思考が理解できません。

大丈夫かしらグリア。
話を捏造までしてわたくしを学園から追い出したのに、このままではロバート様に捨てられてしまいますわ。

わたくしはグリアの背中にそう心の中で語りかけました。



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